百九十五日目
今日はなんだか冷たい風の吹く日だった。まだ毛皮裏のマントを着るほどではないけれど、手綱を持つ指先がきりきりと冷えてくる。耳が痛くなっても嫌なので、頭にラジャラスで買った木綿の布を被って首に巻きつけた。薄手の布なので、あまり音が聞こえ辛くはならないのがいいと思う。
ここからはどんどん風が冷たくなってくるそうだ。草原の北の果ての山脈の、その向こうがザヴィータの本国だそうだ。冷たい風は山から吹き下ろしてくるらしい。山の途切れ目にジオという街があって、そこが隊商の最終目的地だ。ザヴィータ本国を目指す私は、そこからさらに山の途切れ目を縫う街道を北へ向かう。
ジオは元々は草原からザヴィータを守る役目の砦だったそうだ。それが近年になって力をつけ、近辺の遊牧民を配下に勢力を拡大しているらしい。
草原を行く隊商が滞って困るのは、本来ならばそこに住む遊牧民だ。護衛を多く必要とするようになると、その経費が代金にのり、商品は高価になるし、逆に毛皮などの買取価格は下がってしまう。
にも関わらず、草原に盗賊が跋扈しているのは、それまでの牧草地を追い出され、そうしなければ生きて行けない者が増えているからだし、盗賊にまで手が回らないほどの緊張状態だからでもある。
つまり、全ての元凶はザヴィータなのだ。
ザヴィータは神威にも手を伸ばそうとしているようだった。
リカドでもなにやら悶着の種になっている。
かの国がなぜそんなことをするのかを、私は知りたい。