百九十三日目
護衛もその他の人も、お互いによく知った人が多いのか、割りと和やかな隊商だと思う。
道行く間に誰かが歌い出し、次々に歌って答えていく。
旅のこと
馬のこと
女性のこと
人生のこと
時に朗々と歌い上げ、ときにおどけた茶々を入れながら、歌はいつまでも続く。
鷹よ鷹
汝に歌が歌えるなら
故郷へ飛んで伝えてくれ
ここに息子が一人
いつも故郷を思っていると
故郷の空をなでた風よ
あの娘を見なかったか
朗らかな頬の娘を
清らかな眼の娘を
艷やかな髪の娘を
娘よ娘
もう人の妻になったのか
だれの上着を縫っているのか
娘よ娘
もしや我を覚えてはいまいか
こんな調子で延々と続いてゆく。
求められて、私も歌った。
果の地で月の馬を得た
友よ友
今年の祭りも終わったか
月の馬に月光は降り注ぎ
故郷へたどる旅路をてらす
友よ友
再開の日のために
銀の盃を君に送ろう
我ながら出来が良くないけれど、面白がられたのか喝采を浴びた。
歌いながら、歌に耳を傾けながら、荷車を守って穏やかに進む。こうしていると、花嫁の「お嬢様」を守って煌都まで旅した時のことを思い出す。
あの時も小動物扱いされていたような。
護衛なんかに紛れていると、これはもう避けようのないことなのかも。