百九十二日目
天幕を片付けて朝食を食べてから出発した。
護衛の馬の中では三日月は飛び抜けて小さい。他の護衛の馬はどれもかなり大きくて、今すぐ戦場に踊り込めそう。
乗ってる人間も劣らず大きい。もちろん私は飛び抜けて小さかった。
たぶん傍から見ると私と三日月だけ、場違いというか大きさが合わなくて奇妙な感じに見えるんじゃないだろうか。
他の護衛も同じようなことを思ったみたいで、私たちの呼び名は当たり前のように「小さいの」になってしまった。私が「小さい姉ちゃん」で、三日月は「小さい馬」。
私は確かに小柄だけど、一言で「小さい」と言い切られるほど小さくはない。むしろ他の護衛がゴツくてでかいのだ。基準が彼らだと、きっとアリアだって小さく見えると思う。
でもきっとアリアだったら「小さい姉ちゃん」とはいわれないんだろうな。たぶん呼び名は「(胸の)でかい姉ちゃん」だ。そしてアリアがいた場合でもわたしはきっと「小さい方」とか言われるんだと思う。
…単なる「小さいの」ですんでよかった。
隊商の長はザハール·ジマーという壮年の男性で、この人は髭は濃いけど背はそれほどにはゴツくない。それでも大して小さく見えないところがさすがというべきところだろう。
もう一人の魔術師が李湧さんで、護衛を束ねているのがタルクさん。タルクさんはザハールさんと旧知、と言うよりは友人同士のように見える。
あとはザハールさんの配下が七人。馬車の御者とか料理人とか。
食事はザハールさんの配下の料理人が用意してくれる。
天幕を張り終頃には食事ができていて、食べたらすぐに寝てしまえるのはうれしい。
今日の夕飯は鶏と芋の煮込みだった。