百五十四日目
夕方、リリカスからの返信を受け取った。
手紙はまだ届きませんが、気にしておきましょう。
感謝祭が近いので塔は大忙しです。
女子部の皆が今年も中心になって、光の宴の準備を進めています。
アジャがいないので工夫に苦労しているようですよ。
皆なんとかやっていますので、アジャはアジャの見たいこと、やりたいことをしてきなさい。せっかくの機会ですからね。
懐かしい塔主さまの手跡のあとに、別の手跡が続く。たぶんこの手跡は塔主代のアイラ様のものだと思う。学友達の字ではなかったけれど、書かれていたのは学友達の言葉だった。
お土産受け取りました。
マリーダが皆に髪飾りを作ってくれました。帯にも留められます。アジャのもちゃんとあるからね。
アジャが旅立ったあとにイリーナが入りました。
刺繍が得意なので助かっています。
今、アジャがここにいても足手まといになるか、逃げ出すかしか選択肢がありません。ゆっくり色々なものを見てきて下さい。
アジャらしい、愉快な土産話を期待してます。
それから最後にエドの手跡で一言。
無茶をするな、いきあたりばったりはやめとけ、気楽に海賊とか退治するな。
いや、別に気楽に退治したってわけでもないんだけど。
そういえば感謝祭がもう近いんだ。あれは秋の中月の満月にやるものだから、そろそろ一ヶ月を切ってしまう。それにしても光の宴で刺繍って、何をしようとしているんだろう。
そういえば、去年の感謝祭も刺繍をやらされた。
でもあれは光の宴のためじゃなくて、壁掛けか何かが傷んだとかいう話じゃなかったっけ。男子部の連中と盗賊退治の部隊に参加したのもあの頃だ。女子部の皆にちょっと行ってくる、と言った時には、そこまでして刺繍から逃げるのかとため息をつかれた。
いや、別に刺繍から逃げるために参加したんじゃなくて、そもそもはエドに打診されたのだ。ジャンが来れなくなったので、代わりに来てくれないかと。
ジャンは薬師の息子で、本人も治癒系魔法に詳しい。それで盗賊退治にも治療要員として加わることになっていたんだけど、実家で不幸があったとかで、急に実家に呼び戻されてしまった。
それで、そもそもは薬師の修行をしていた私に声がかかったのだ。中級上位までたどり着いていた去年なら、ちゃんと薬を作ることも、治療することも出来るようになっていた。
だから刺繍から逃げるために参加したわけじゃないけど、参加したら刺繍やらないで済むな、という気持ちがあった事は否定しない。
新しい子が入ったというのも当たりちょっと驚いた。考えてみるとイリアが入ってきたのは去年の夏だ。その前にロザンナが結婚のために塔を出ていった。
当たり前なんだけど、塔も変化している。いつまでも私が出てきた時のままのはずがない。私が戻る時まで、何人が塔に残っているだろう。