百四十七日目
昼前から雨が降った。
朝からちょっと曇りがちで、だんだん雲が厚くなってきたと思ったら案の定だ。小雨の間はなんとか進んだけれど、馬にも良くないと言うことで、午後早くに宿をとった。
厩でとりあえず葦毛をよく拭いてやり、脚が冷えているように感じたので布を巻いた。
夕方にはすっかり本降りになった。
いつもよりいっそう食が進まないなとおもっていたら、夜半、お嬢様が熱を出した。疲れが出たのだろう。
ふじどのが急いで報告に行き、私はお嬢様に熱冷ましを飲ませた。お腹の調子も良くなかったようだし、消化の良いものを食べさせて休ませたほうがいいだろう。
厨房に事情を言って粥を炊かせてもらった。何も入れない真っ白な粥に塩を添える。熱冷ましで熱が落ち着いているうちに食べさせた。
「どんなようすだ。」
お嬢さまが眠ったあと、厨房に食器を返しに行くと旦那さまが話しかけてきた。珍しい事に楊大人がいる。
疲れが出たのであろうということ、今は粥を食べて眠っていることを伝えると、ほっとため息をついた。
「ちょうどいいというのもあれですが、どうせ雨がやまなければ動けませんからな。一日二日ここで休んでいただくべきかもしれませんな。」
楊大人が励ますように旦那さまの肩をたたいた。
自分でも呆れたことに今まで知らなかったのだけど、旦那さまの名前は中村三津右衛門というのだそうだ。お嬢様は菊野、兄君は八津彦。龍の頭の地主で商人らしい。お嬢様が煌の商家に嫁ぐのと同時に、旦那様の次男である八津彦どのが煌に取引のための支店を出すのだそうだ。すでに手の者が準備をしているらしい。お嬢様もとりあえずはその支店に入り、そこから先方に嫁ぐそうだ。