百四十二日目
朝早いというからどのぐらいなのかと思っていたら、起き出すのは夜明けだったものの、準備に何かと手間取って、出発できたのは結構日が高くなってからだった。
屈強の護衛が三十人、一行を取り囲んで進む。
馬車に合わせるのでそれほど早くは走らせられないけれど、騎馬の旅はやはり楽だ。
私はお嬢様の馬車近くに陣取って馬を進めた。
平坦な街道は広い石畳で、馬も馬車も通りやすい。
やっぱり龍の島の街道は、騎馬向きの街道ではなかったなとしみじみ思う。
そういえば龍の島の中ではお嬢様はどうやって移動していたんだろう。
疑問に思ったので、ふじさんに機会をとらえてきいてみた。
「私は徒歩で、お嬢様は輿で。輿も長時間だと大変なようで、かなりお疲れでした。」
確かに揺れも大きそうだし、結構大変なのかもしれない。
「こちらの馬車はそういう意味では楽ですね。」
お嬢様の馬車は四頭立ての大きなもので、柔らかな椅子には背当てもあり、そのまま足を伸ばせるようになっている。言ってみるなら体を起こし気味の寝台のような作りで、揺れで落ちることのないように腕置きが体を支えている。楊大人は馬車に慣れないであろう花嫁のために思いつく限りの心遣いをしているようだ。
次女の座る場所も座り心地よく作られて、乗り心地はかなり楽らしい。
お嬢様とふじさんは馬車に誘ってくれたのだけど、私が乗ればその分狭くもなるし、馬に乗るのは苦にならないので辞退した。
一行は時々小休止を取りながら進む。
休憩の間のお茶は喜んでお嬢様のお誘いを受けて、馬車でいただいた。
乗馬の合間にお茶と甘いお菓子をいただくというのは素晴らしい。
夜は楊大人の知る辺の屋敷に泊まった。
ちょっと時間はかかりそうだけど、急ぐ旅でもないしこういうのも良いかもしれない。