百三十九日目
二人ともちょっと船に慣れてきたみたい。特にお嬢様の方は体を起こして座っていられるようになってきた。すぐに疲れるみたいだけど、これはまともに食べてないせいもあると思う。
船は順調に進んでいて、明後日ぐらいには煌の港にはいれそうらしい。この二人のためには早ければ早いほどいい。地面におりさえすれば治るのだし。
このお嬢様はなんと煌にお輿入れする途中なのだそうだ。
侍女は乳母子でついて行くのだという。
そういえば、なんかそんな話を聞いたなと思ったので、日記をめくってみた。六十九日目にやっぱりそんなことが書いてある。浮女七姫の誰かが言っていた話だ。
このお嬢様がその噂の主かと思うと中々感慨深い。まさか自分が関わるとは思っていなかった。
体調不良はたぶんその不安のせいもあるのだろう。
不安一杯でなれない船になんて乗ったら、酔いやすくたって仕方がない。
私が西の国リカドから一人旅をしているというと、旅の話を聞きたがった。
西のはてから東のはてへ。
でも本当はまだたいして何も見てないのだ。神威までは塔主様のお使いで船で一気にきたのだから。
それでも美味しかったものの話や、お風呂の話、布や衣装の話なんかをすると面白がって聞いているみたいだった。
汚れ落としの櫛の話をすると、ぜひ一つ欲しいという。売れるのはありがたいので喜んで売った。
お嬢様のと、侍女のと一枚ずつ。
髪をすくと気持ち良さそうにしていたので、汚れ落としの符の残りものをオマケにした。符なら体の方も拭うことができる。
体調が悪いと自分の汗の匂いが妙に鼻についたりするものだ。
侍女もなんとか起き上がって、自分で髪をすいていた。
きょうは夕食には重湯でなく薄いお粥を食べさせた。食べたらすぐに寝かせる。
なんとか二人とも吐かなかった。