百三十七日目
朝、甲板で伸びをしていると、龍の島の装束の一人に声をかけられた。
実はあと二人乗客がいるのだけど、それが船酔いでへばっていて、しかも女性なのだそうだ。それで世話の人手がないので手伝ってほしいという。賃金も払うと言われた。
正直に言えばなんで世話がいるんだろうと思ったんだけど、案内された部屋で「お嬢様」(そう呼べと言われた)を見てわかった。
いかにも儚げな、地面を歩いた事があるのかもあやしい感じの女の子が、薄紅の一重をかづいて横になっていた。侍女も同じように船酔いで、並んで横になっている。
確かにこういう女の子の看病を男にさせるのは無茶というものだ。男というだけで怯えてしまいそうだもの。
とりあえず吐き気どめを飲ませて、ほのかに眠りの香を焚いた。苦しがってまともに眠りもしてないようなので、とにかく寝かせようと思ったのだ。
二人が眠ってしまうと、魔術を使って水分をとらせた。食べたり飲んだりしても吐いてしまうだろうから、とりあえず水だけを水蒸気にして少しづつ吸収させたのだ。胃を刺激しなければ吐かずにすむだろう。
今は魔術師の衣を着ているし、声をかけてきた男もこちらが魔術師とわかって声をかけてきていたので、依頼は魔術師として受けている。一日銀貨十五枚で、食事もつけるということだし、このぐらいはしてもいい。
この二人ぐらいなら寝台の下に魔法陣を仕込んで揺れを消せるかもしれないけど、さすがに手間だし他人相手だと調整が難しそう。
夕方、目を覚ませた二人に吐き気どめを飲ませ、おちついたところでほんのり甘味をたした重湯を飲ませた。
今晩はこれで様子を観てみようと思う。