百三十二日目
朝晩は随分涼しい。山を登れば気温が下がるなんてこと、リカドではまるっきり知る機会はなかった。
リカドは砂漠と草原の国で、それほど高い山はない。
それに考えてみればもう夏も終わりだ。あと数日で秋の初月になる。だんだん涼しくなってゆく季節に入っているのだ。
この塔で、古典を取り揃えた書庫と並んで素晴らしいのが、見事に手入れされた薬草園だ。
なにがすごいといって、龍の島以外の薬草も相当育てていることだ。この山の上で、魔力と神具を駆使して、南や西の薬草を育てていることは驚異的と言っていいと思う。こういうのを見ているとやっぱり惜しくなるのだ。ここは他の塔と交流を持てば十分な尊敬を受け得る塔なのにと。
一々頭を下げて作業の手をとめさせてしまうのが、申し訳なく煩わしいので、今まで薬草園をゆっくり見て回ったことはなかったけれど、今日はもう最後なので、見て回ることにした。
作業の継続を命じてそこら中を歩き回る。
温度調整も水分補給も実に見事な仕組みがつくられている。しかも何がすごいといって、上級魔術は使われていないということだ。
これ、アマリエさまが見たら喜ぶんだろうな。
次代リリカシア候補のアマリエさまは、もともとは治癒魔法の研究者で、薬草にも詳しい。私が親しくさせて頂いているのも、私もともとは薬師の教育を受けていて話が合うからだ。
相当長い間薬草園を回って、色々質問もして煩わせた。きっと早くどっかに行ってくれとイライラしたことだろう。明日にはいなくなるんだから諦めてくれるとうれしい。
薬草の間引いたのも結構もらった。
自分で使うぶんには薬効を調整するので、間引いた草でも構わない。旅の間に減った分を補給できて助かった。
明日からはまた旅だ。
今日は早く休もうと思う。