百二十二日目
朝、船を降りたところで田兵衛さんと別れた。婿を取る娘さんにと櫛を渡すと喜んでくれた。
髪を濡らす必要なく手入れできる櫛は、冬が厳しいというこの辺りならそれなりに重宝なものだと思う。
田兵衛さんもそうだったけど、吾作さんも港に荷車を預けていた。
「さていくか。」
龍の島の荷車は人間が引くことが多い。吾作さんも荷車を自分で引っ張った。がっしりとした荷車は、よく手入れがされている。私の荷物ものせてもらったので、荷車を後ろから押して手伝った。
ぱっとしない曇り空だったけれど、雨がふらなかったので、かえって暑くならなくてよかった。ゆるい上り道は荷車を通すのに困らない程度の広さはあって、整備もよくされている。
道々吾作さんの知り合いに何人か出会った。むしろ出会う人すべてが吾作さんの知り合いだった。吾作さんが私のことを塔に勉強に行く魔術師だと紹介すると、一様に感心された。
私一人だときっと不審な目で見られてしまったような気がする。そのくらい、地元の人しか歩かない道だったのだ。
昼過ぎに吾作さんの家に着いた。
吾作さんの家は近所の家の比べると、大きかった。結構豊かな家のようだ。
奥さんは優しそうな感じの人で、十歳と八歳の男の子と二歳の女の子がいた。
名前は上から栄作くんと、作治くんと稲ちゃん。
この稲ちゃんが可愛かった。顔立ちも可愛らしい子なんだけど、それ以上になんというか、「可愛がられている子」の可愛さって感じ。
実際、両親だけでなくお兄ちゃんたちにもとても可愛がられていて、いつでもニコニコしていた。
夕食は干魚と山菜の雑炊をご馳走になった。
男の子二人は旅の話を聞きたがったので、色々話してあげた。川どめの話や、地図を壁に書いた店の話は面白かったみたい。
奥さんがお風呂を沸かして下さったのもうれしかった。久しぶりにお湯に浸かると体中が解れたみたいだ。
魔術師の塔は結構山の上らしい。
明日は頑張って歩こう。