百十六日目
残念ながら龍の顎への船は昨日の午前中に出港したばかりらしい。次の船は明々後日だというのでとりあえず乗船予約を入れに出かけた。
予約を入れた帰りに市場をぶらぶらした。
めずらしく鶏の串焼きが売っていたので買った。ものすごくおいしい。夕飯用に何本か包んでもらった。
港町だけあって多いのは海の魚で、さっと塩焼きにしたり、甘辛いタレを塗って焼いたり、汁物に入っているのも多い。
貝の味噌汁はよくだしが出ておいしかった。
あと面白かったのは蕎麦だ。
灰色の、蕎麦という穀物は神威で見かけたことはなかった。水で練って平たくまとめて茹でたものを、さらに軽く炙って食べる。ちょっと癖はあるけれど、これに味噌を塗って鶏肉と葱でも挟めば美味しそうだ。夕飯はそれでいこうと、何枚か買った。
問題はネギで、そんなちょっとだけって売ってもらえるんだろうか。
その問題は宿で解決した。
葱は諦めようかと思っていたら、笊にネギを盛り上げた女中が通りかかったのだ。ここの宿は食堂もしているからその分らしい。ダメ元で少し分けてくれと言ってみると、ヒョロンとした一本を内緒でくれた。
鶏肉の串を外して蕎麦に刺し、炊事場の火で炙る。
こういう宿の客用の炊事場は、竈はあまりなく、長い箱状の灰を入れた火鉢というものに火種が埋めてあって、客は炭を足して火を熾して使うようになっている。利用料は一日で銅一枚程度だけれど、あまり派手に炭を使うと炭代を別に取られたりする。
ちょうど誰かが使い残した火があったので、その周りの灰に串を刺して炙った。味噌を塗って、更に軽く炙る。
味噌の焦げる匂いがしたら火からおろし、急いで自分の場所に持って帰った。鶏肉と葱を挟んで頬張る。
美味しかった。
本当に、ものすごく、美味しかった。
焼き立てを食べた時にも思ったけれど、お肉の脂ってなんておいしいんだろう。
龍の島は本当にお肉にお目にかかれないので、久しぶりのお肉はものすごいごちそうだ。干し肉はたまに食べてたけど、お肉と干し肉は別に扱うべきだと私は思う。
ぜひ、明日も食べよう。