百十一日目
暇だ。正直に言ってかなり暇だ。
川は相変わらず轟々と流れ、川どめの終わりはまるで見えない。どうしても宿の狭い場所に籠りがちになるのが辛いところだ。
かと言って、あまりうろうろもしづらい。
やっぱり宿の女の子をからかっているような人も少なくないのだ。
身の危険は別に感じない。
寝惚けて大部屋全員を相手にしても、まとめて外に放り出せる程度の自信はあるし、寝るときだって晶屋の中だ。
でも、出来るだけ目立ちたくないし、わざわざ不快な思いをするのも嫌だ。そうなると、思いつく一番無難な対応は閉じこもることになってしまう。
雨そのものもまだやんでいない。
あんまり暇なので部屋の隅で博打に興じる連中まで出る始末だ。
蹄鉄投げという遊びがリカドにはある。古くなった蹄鉄を投げて点数を競う遊びだけれど、龍の島で投げるのは扇のようだ。扇というのは風を送る団扇を畳めるようにしたもので、貴婦人には暑くなくても必須の道具だ。香を焚き染めてあって、あおげばよい香りがするし、必要に応じて顔や口許を隠すこともできる。
この扇を的に向けて投げ、点数を競う遊びがあるようで、何人かが小額をかけて興じているようだった。
暇つぶしの小額でも、博打となれば盛り上がるのが人情と言うもので、歓声をあげたり唸ったり、人もなげな騒ぎになってくる。うるさいかうるさくないかといえば、うるさいが、本が読めないほどではない。
それでもその内ちょっと静かになったところを見ると、誰かは苦情を言ったのだろう。
夕食はまた煮売り屋から芋の炊いたのとナスの漬物を買った。
ナスは残念ながら、浸かりすぎて酸っぱかった。