百九日目
今日は気持ちよく晴れた。
いつも通り朝早くに晶屋から起き出す。
昨日作っておいたおむすびと、漬物の残りで朝食にした。昨日は後半かなり頑張って歩いたので、足が結構疲れていた。湿布をして寝たから大分とマシになっているけど。
眠気を払いつつ歩き出した。
次の川は四十九番と五十番の間にあるので、出来れば今日中に渡ってしまいたい。ただ気になるのは川どめになっていないかどうかだ。このところ雨が続いたし、実際川どめになっているらしい話をしているのを、昨晩宿で耳にしている。川が止まってしまっていれば待つしかない。
それやこれやで気がせいて、ついつい足早になってしまった。
朝はよく晴れていたのに、四十八番に差し掛かる頃に雲行きが怪しくなり、四十九番に向かう途中で本格的に降り出した。
四十九番についた時には舟橋が解体されてゆくところだった。
川どめだ。
川どめには困ったけれど、舟橋が解体されてゆく様子は見事だった。
川の両側から竿を持った男達が橋を渡っていき、板を外して岸へと手渡しで送っていく。一艘に一人乗り込んで繋いでいた縄を外し、沈めていた錘を上げて岸に向かって漕ぎ始める。
あっという間に橋は舟に解体され、川から上げて岸に並べて筵で覆われていった。
筵で覆われた船の置き場のそばに宿があったのでそこに決めた。
宿は結構混んでいたし、それからさらに混みだした。
実は一度川どめになって、今朝渡れるようになったところだったらしい。まだ川どめのあいだの客のすべてがはけないうちに、この川どめになってしまったそうで、私が通されたのも本来の部屋の中でなく、庇の間の隅だった。高欄越しに川が見えるのは面白いが、あまり雨がきついと吹き込んできそうだ。
もっとも、晶屋のある私にとっては実害は大してないし、衝立で囲んでしまえば本当に誰からも見えない隅なのはありがたかった。川どめが続けばしばらく滞在することになるのだから、目立たないのは大事なことだ。
衝立で囲んだのはぎりぎり横になって荷物もおける程度。衝立の内側には予備の単をかけて隙間から覗けないようにする。声をかけられたら晶屋の内側に聞こえる魔法陣も忘れない。
それだけの環境を整えてから、衝立の隙間を埋める単をちょっと寄せて、高欄越しに川を眺めながらお茶を飲んだ。お茶っ葉はアジャではなく、神威で買った蓬だ。独特の香りが鼻へ抜ける。それがかえって雨の匂いを際立たせているようだ。
人が多くてバタバタしていたので、炊事場には行かず晶屋で干物を使ってかんたんなスープを作り、パンを添えて夕食にした。
パンも明日の朝に食べたら終わりだ。