百六日目
朝から土砂降り。
昨日渡った川が川どめになったらしい。あまりに雨がひどいので外に出るのがためらわれて、同じ大部屋の他の客も空を見てはため息をついている。
笠があれば術をかけてある着物だしたいして濡れはしないだろうが、視界や道の悪いのはどうしようもないので、わたしもちょっと様子見の構えだ。
朝食は天気のせいか宿の人が注文を取りに来たので、他の客と一緒におむすびと汁を頼んだ。
雨のせいかちょっと蒸しっとする。
大部屋にいる他の客を、ゆっくり眺めるのは初めてだったが、やはり一人旅は少なく、女性客も少ない。
今日、同じ大部屋にいたのは息子二人と同行している中年女性だけだった。他の皆と同じようにおむすびと汁を静かに食べている。
食事を終えると少し雨が弱まったようにも思えたので、様子を見ながら身支度をした。
昼前に宿を出た。
雨は落ち着いてきても足元は悪い。いつになく歩く人も少なくて街道は閑散としていた。
二十九番、三十番と歩きついだが、雨は止む気配もなくしとしととふりつづいた。
三十一番で今日はもう諦めようとおもった。
泥道を歩くのはやはり疲れるし、濡れた足が流石に冷えている。また足を痛めても厄介だ。
それで三十一番の宿に入ると、たらいに水を貰った。湯を沸かして加えちょっと熱いくらいにする。
そのたらいに足をつければかんたんな足湯だ。
温泉の足湯のようなわけにはいかないけれど、それでも冷えてかたくなっていた足の指が解れてくる。
湯が冷めないように魔術をかけながら、しっかり汗をかくまで足湯をした。
夕食は今日もパンと干し肉とチーズ。
あとは残り物の貝を甘辛く炊いたのをつまみながら、お茶を飲んだ。