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リリカシア=アジャ-アズライアの日記  作者: 真夜中 緒
航海編
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一日目

 世界の西のはて、魔術の国リカドには二人の王妃を頂く制度がある。一人は国の母と呼ばれるリアーナ。もう一人が国の師と呼ばれるリリカシアだ。二人の王妃は時代ごとに王を支え、ときに反目しつつも存続してきたが、国の理想と呼ばれる時代があった。エドウィン三世治世下のリアーナ=エリシアとリリカシア=アジャ。三人は王であり、王妃であるとともにこの上なき友人であり、手を携えて国難の時代を乗り切った。

 世界を巡った経験を持ち、世知に長けていたというリリカシア=アジャ。

 これは彼女の若き日の日記である。

 今日から日記を書こうと思う。

 五年前、初めて都«リリカス»に出た時、道々でも都でもずいぶん面白いことや驚くことがあったのに、そのあとの生活の忙しさや新しい驚き紛れて、細かいことはあいまいになってしまった。今回はせっかく世界を横断する機会を貰ったのに、同じことにしてはなんだかもったいないなと思うので。

 世界は北に行くほど寒く、南に行くほど暑い。

 東へ行くほど水が豊かで、神々との距離が近い。

 逆に西は乾燥して、魔術の研究が盛んだ。

 世界の一番西にある私達の国は、砂漠と草原の国で、魔術の利用がとても盛んだ。この度私は魔術師の塔からの使いとして、東の果にある龍の島の都、神威までゆくことになった。

 使いとはいっても預かったものを届けるだけなので、帰りは別に急がない。だから帰りは陸路を取って色々見聞してこようと思う。塔主さまの了解もいただいたし、この間の昇格試験で上級魔術師の資格もなんとかとれたから、多分なんとかなるだろう。路銀は途中でも稼げるし、各地の魔術師の塔に泊めてもらうこともできる。

 首を取り巻く聖白銀の輪は中級以上の魔術師の証だ。魔力で溶接、封印された輪は、決して外れたりはしない。その輪には上級魔術師の紋章と、リリカスの塔の所属を表す紋章、お餞別にもらった小さな晶屋と、大事な届け物である塔主様から預かった晶石がかかっている。

 お餞別にと友人がくれた晶屋は、高価なものだから受け取るのを躊躇ったのだけど、古いし小さなものだからと押し切られてしまった。

 晶屋というのは晶石に空間固定の魔法を刻み込んだものだ。晶石の大きさに従って球形の空間を固定できるのだけど、人間が入り込めるような晶屋と呼ぶのに相応しいものだと、球の半分の高さに床を張ったりもするので、それなりの大きさの結晶がひつようで、しかも細工の手間がかかるのだ。友人がくれたものは確かに晶屋としては小さくて、半分より少し下に床を張っていてなお、中で立ち上がることはできない。それでも簡単な寝床を敷いて必要な荷物を収納するのに十分な大きさがある。

 「あのさ、一応女なんだしさ。野宿はさすがにまずいだろう。」

 お餞別を辞退した私に、友人はいつになく真面目な顔で言った。

 「アジャは思い切りは無駄に良いし、変にサバサバしているし、女にしとくのはある意味すごく残念な性格だってのはわかっているけど、それはそれとして知らないやつが見りゃやっぱり女に見えるだろう。」

 その恐ろしく真面目な顔で微妙に失礼なことを言う。

 「それにおまえさ、野宿躊躇いそうにないんだよな。ちょっと頑張った行程にしたら間に合わなかったとか、宿が思ったより高かったとかで平気で野宿とかしそう。」

 「だって、泊まるとこないとか、懐具合とかは仕方なくない?」 

 納得出来なかったので反論すると、額に手を当てて俯かれてしまった。

 「あのな、そこは頑張んなきゃいいんだよ。行程も路銀も余裕をもって、急がなきゃいいんだ。塔に滞在してる間にしっかり計画立ててそれに沿って行動するんだ。普通の女はそこをきちんとおさえるんだよ。」

 なるほどと思った。一理ある。つまり計画性に留意しなければならないということなのだろう。中々有意義な助言だ。

 「もちろん計画性は重要だ。まずそこは基本だが、とにかくこいつは持って行け、頼むから。お前がとりあえず野宿だけはしないだろうと思えるとちょっと気分的に楽なんだよ。俺の健康のためだと思って受け取ってくれ。」

 そこまで言われるとなんだか受け取らないほうがひどい人間みたいなので、結局私はお礼を言って晶屋を受け取った。

 で、いきなり役に立っている。

 行きはお使いなのだから、海路を選んでいた。港は都にあるんだから素直に船に乗り込んで、出航して。

 酔った。

 人間の身体というのは長時間揺さぶられるようにはできていないんだろう。人間の足は地面を踏んでいるべきなのだ。波に揺られるということがまさかこんなに辛くて気持ちの悪いものだとは思わなかった。

 今、私は晶屋の中で日記を書いている。

 晶屋の中は快適だ。全く揺れたりすることなく、落ち着いていられる。自前の小さな晶灯を灯せば、狭いながらも素敵な我が家だ。揺れているのに比べれば立ち上がれないぐらいはなんでもない。

 難点を言えば、気持ち悪くて何も食べられなかったので、少々お腹が空いてきたことと、日記が書きにくいことだろう。うつ伏せに寝そべって書き物をするのが、こんなに疲れることとは知らなかった。明日何処かで適当な板をもらってこようと思う。板があれば座った膝の上で、日記がつけられるようになるだろう。

 

 作中に出てくる晶石は魔術を貯めたり記録したりする性質のある鉱石です。

 魔力を導引する性質を持つ魔導金や、魔力の干渉を妨げる聖白銀と組合わせて、様々な晶具を作るのに用いられます。

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