『5歳児』野望を抱く(上)
皆様、長らくお待たせいたしました。
9月の間はなかなか忙しかったり、体調を崩したりと投稿が遅くなってしまいまして申し訳ありません。
今回は久々の投稿ということもあり、張り切ってたら長くなりすぎたので分けさせていただきます。続きも早いうちに投稿するのでお待ちください。
「リムニル、お前に大事な話がある」
利息という新たな力に目覚めてから、約1年。たいした変化もなく、日々を過ごしていた僕に父さんが真剣な表情で部屋に来るようにと告げてきた。
父さんのこんな表情はお金を隠してくれと土下座して来たとき以来見たことがないかもしれない。……いや、考えるのはやめよう。虚しくなる。
「…父さん、お金を隠すのはもうやめた方がいいんじゃない?」
興味津々の様子で一緒に来ようとするリスティ姉さんが母さんに足止めを受けている間に部屋へと入った僕は開口一番釘を刺しておいた。
どうせ母さんにバレてお叱りを受けるのだから、無駄なあがきはもうやめるべきだと思う。
というか最近僕が匿っていると疑われて巻き添え被害を食う確率が上がっているのだ。そろそろ潮時だと思う。
「……いや、違うからな?」
父さんは頬をひきつらせながら否定してくる。
「なんだ。違ったんだ」
紛らわしいなぁ…。
「……で? お金のことじゃないなら一体何の用?」
「お金のことじゃないならって……」
がっくりと肩を落とした父さんを見て、少し言い過ぎたかな?とも思ったが、まぁ、気にしても意味はないだろう。
「だってそうじゃない? わざわざこんな日に神妙な顔して来るんだから…」
勘違いしちゃうよと告げるとすまなさそうにしているのだから自覚はあるのだろう。
「――ふふっ、普段の行いねぇ」
そんな話をしていると、母さんが笑いを堪えながら入ってきた。
「…いや、笑い事じゃないだろう? これは父親としてのオレの威厳の問題で……」
「あら? あなたに父親としての威厳なんてあったの?」
「あるだろっ! あるよな?」
(…さあ、どうだろうね?)
僕はそっと視線を逸らすのだった。
◇◆◇◆◇
「――ごほん! 本題に入るぞ」
ひとしきり笑い合った後、父さんは再び真剣な表情で僕をじっと見つめた。
どうやら本当にお金のことじゃなかったようだ。
「話をする前になぜ今日あえてこの話をするのか…その説明をしなければならないだろうな」
たしかにそれは思っていたことだ。
なにもこんな日にする話ではないと思う。
「学校についてはもう知っているよな?」
「…うん」
僕は最近になって知った場所に思いを馳せる。それは同時にある人物へと思いを馳せることと同義だった。
「兄さんが通うところでしょう?」
「そうだ」
父さんの短い答え。
そう。今日は兄さん、つまりは僕たち三兄弟の一番上であるルディ兄さんのことだが、彼は9歳の誕生日を迎え学校に入学するために家を出たのだ。
直前まで学校について知らされていなかった僕はとても驚いた。
僕と違って、知らされていたリスティ姉さんは驚きこそ少なく見えたが、見送る表情はどこか悲しげなものだった。
今になって思えばひと月ほど前に元気がなかったのはそのせいかもしれない。
「……それがどうかしたの?」
もしかしたら、僕もいずれは学校に通うことになるということを言いたいのかもしれないが、僕はまだ5歳。学校に入るまで、あと4年もある。
ちょっと気が早いような気がしないでもない。
「ルディが通うことになるのは、下級学校だというのは説明したかな?」
「してないと思うわ。学校に通うことになったってことだけじゃないかしら?」
「そうだったか。じゃあ、下級学校という物について簡単に説明しておこう」
「下級学校というのは、平民が読み書きや最低限のマナーを学べる場所だ」
そこは地球の学校と似たような物なんだね。
「ただし、入学するにはある程度のお金が必要なんだが…、それはリムニルのおかげで少し余裕ができたから問題ない」
「私たちとしては、ルディだけでなくリスティも通わせようと思っているのよ?」
……ふむ。
まあ、僕が関わっているお金を僕に相談せずに使ったのはちょっとショックだが、元を辿れば二人がコツコツ蓄えたお金だ。文句は言うまい。
僕がやったのはほんのきっかけ作りに過ぎないだろうしね。
「……あれ?」
そこで僕はふとした疑問というか、違和感を抱いた。
今の話の流れだったら、僕も通うことになるって言う流れじゃないのかな?
まさか、リスティ姉さんの分でお金が足りなくなったとか?
それとも、僕はある程度できるから通わなくてもいいよなっていう確認なのかな?
「リムニルは今、どうして自分のことは言わないんだろうと思っているだろう」
そんな僕の考えを読んだかのように父さんが声をかける。
もしかしたら顔に出ていたのかもしれない。……恥ずかしい。
「言っておくが、リスティの分を出したら金がなくなるとかそういうことではない」
やっぱり考えが顔に出ていたみたいだ。
「もし、そうだったらリスティも通わせないわよね~。ルディはお兄ちゃんだから一人ぐらいはって頑張るけど、全員を通わせられないなら不公平にならないようにするわ」
母さんの考えを聞けば、納得せざるを得ない。
二人だったらそうするだろうことは目に見えている。
というか、ルディだけ通わせてルディに教えさせようとするだろう。
……まあ、その場合間違いなく余計なことまで教えられるので監督が必要だろうけど。
「そう言う理由じゃないならどういうことなの?」
ただ、このままでは疑問は解消されたが、僕が通わない理由がわからない。
自分で言うのもなんだが、僕は計算は得意だ。だけど、文字などはいまいち得意じゃない。習えるのなら習っておきたい。
この疑問に対する二人の答えは実にシンプルだった。
「――リムニルは、別の所に通うことが決まっているからだ」
◇◆◇◆◇
学校はどのような種類があるのか。
まず、下級学校。
これは平民の中でも比較的裕福な家庭の人間が通うことになっている学校だ。
次に、中級学校だが、下級学校との大きな違いはただ一つ。
それは生徒に貴族がいるかどうかということ。
中級学校にはいわゆる下位貴族や騎士の子どもたちが通うことになる。あとは、貴族ではなくとも富裕層の子どもなどだ。
簡単に言えば、より高いステータスを要求される者たちが通う学校。それこそが中級学校というわけだ。
そして、最後が僕が通うことになる王立学院。通称、上級学校。
これは王族や高位貴族、他国の要人の子息並びに令嬢など将来国を背負って立つ立場の人間――その子どもが通う学校。
一つだけ呼び方が違うことからわかるように王立学院は学ぶものが他二つとは大きく異なる。
言ってしまえば、人脈作りが主な活動になる。
これには理由があって、そもそも王立学院に通うような生徒は入学までに一般的な教養やマナーは身に付けているのが普通なので、簡単な勉学を学ぶよりは国の成り立ちのような深い分野を学ぶべきという傾向が強いのだ。
どうも僕の中の学校のイメージとはかけ離れているのが王立学院だった。
ちなみに、王立学院だけは平民の受け入れをしていない。
ただし、何事にも例外というものは存在するらしく、平民でも王立学院に入学することが可能な場合がある。
ここまで聞いて嫌な予感はしていたが、いまさら止めてくれとは言いだせず、僕は結局その話を最後まで聞くこととなった。
◇◆◇◆◇
「ギフトを授かった人間は国の宝。よって、その者たちは皆、例外なく王立学院に通うことが義務付けられている」
何かに耐えるように絞り出された言葉は僕の中で納得と諦めを生じさせた。
そりゃあ、ここまでの話の流れでこうならない方がおかしいと思ってはいたけれど……正直面倒臭い。
「それって断ることはできないの?」
こう尋ねた時、母さんは嬉しそうな表情を浮かべたものの、すぐに悲しげな眼を伏せた。
当然、父さんから帰ってきた返事は否だった。
「実はお前には黙っていたが、ギフトを持っている者は国によって把握されている」
国…そう言われて、お祭りであった財務卿の部下コインという人物が思い浮かぶ。
しかし、話の内容からすると彼が報告したわけではなさそうだ。
そもそも、一人一人が報告するんだったらどれぐらい時間がかかるんだろうって話だもん。
「わかった。つまり、僕は4年後には王立学院に通うことになるんだね」
そうすると、これから忙しくなりそうだ。
とりあえずは今お金を預かっている人たちに事情を説明……あれ?もしかしてみんな知ってるから説明はいらないのかな?
「――いや、お前が通うのは2年後7歳になってからだ」
「…………へ?」
色々なことを考え始めた僕の耳に届いたその言葉は今日一番の衝撃を僕に与えた。
それこそ兄さんが突如として学校に通うため家を出て行ったことなどどうでもよくなるほどの衝撃を。
「ルディが学校に通う」
→ へぇ、そうなんだ。いってらっしゃい。
これが見送りの時のリムニルの心境です。
ちなみに、この時はまだ日帰りということは知りませんでした。ブヒッ!