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金命の豚  作者: あなぐらグラム
【貯金~始める編】
6/44

『エル』母の日記

 久々の投稿です。一応、予告していた通り主人公の母、エルの視線でお送りします。

「むにゅ…」

「めぇ~」

「……ふふっ、よく寝てるわね」

 今日のお祭りで手に入れた羊。ドリーに抱き着いて眠る我が子を愛おしく思いながら、そっと頭を撫でて部屋を後にする。


 私には三人の子どもがいる。

 長男のルディ、長女のリスティそれに次男で末っ子のリムニル。

 子育ては大変だが、みな愛しい私の宝物だ。

「…まぁ、ちょっと性格に難というか、問題がある子が多いわねぇ」

 子どもたちの前では見せないようにしているため息が漏れてしまう。

 いけないいけない。


「やあ、子どもたちは眠ったのかい?」

 居間に戻った私を優しく出迎えてくれたのは夫のアドニルだった。

「ええ。お祭りで疲れていたのか、ぐっすりと」

「…そうか。それはよかった」

 アドニルは臨時に設けたお金の計算を行っている。

 疲れているでしょうから、お茶でも淹れましょう。


「――んっ? ありがとう。エル」

「気にしないで。…それよりも、少し話があるのだけれど?」

 お茶を入れた私は、アドニルに話しかける。

「……わかってる。リムニルのことだろう?」

 だが、夫は私が何かを言う前に何を言いたいのか薄々感づいていたようだ。「ええ。きちんと話し合っておくべきだと思うの」

 だから私も真剣に話すわ。

 と言っても、いっつも話を逸らすのはアドニルなのだけどね。ふふふ。



◇◆◇◆◇


 リムニルについて話をしましょう。

 リムニルは現在3歳。私に似て大人しく、私に似て優しく、私に似て真面目。外見とお金にうるさいところはアドニルに似てしまったけれど可愛い子どもだ。

 これには私は安堵した。

 誰がどう見ても私を小さくしたかのようなリスティはちょっとだけ子どもに思えないようなずる賢さを見せる時がある。

 それに、お兄ちゃんのルディもアドニルのだらしなさを全面に受け継いでしまっている。

 末っ子ということもあるけれど、一番可愛いのはリムニルだ。


 ただ、そんなリムニルにも心配なことはある。

 それがわかったのはあの子が生まれてさほど時が経っていない時。

 ある日、私はこそこそしているアドニルを見つけた。


『……アドニル?』

 その姿を見た瞬間、私はこれまで何度も経験してきた感覚に見舞われた。

 そう。アドニルがお金を隠そうとしていることを直感したのだ。

 困ったことだが、アドニルはお金を隠す癖がある。

 と言っても、売り上げに手を付けたりするわけではなくあくまで儲けた分の余剰分――つまりは交渉の結果、得した分を隠している。

 だけど、小さな田舎の村だからこそ成り立っている経営の店にそれほどの余裕はない。

『懲りないわね…』

 呆れつつも、今日も今日とてアドニルをとっちめに行く羽目になる。


『いたっ!』

 ちょこまかと動き回っていたアドニルを発見した。

(……おかしいわね?)

 先程まで感じていた強い感覚がなくなっている。

 もしかしたらお金をどこかに隠し終えた後かもしれないわね。

 だけど、普段と違って隠し終えた後の安堵した感じは見られない。むしろまだまだ焦っているように見える。

『しばらくは追いかけてみましょう』

 違和感の正体がわからない以上、アドニルを見失うわけにはいかない。


『…私の勘も鈍ったのかしら?』

 まだそれほど歳は取っていないと思っていたんだけど…。

 アドニルを追い詰めたものの、お金は見つけられなかった。

『――――』

『…騒がしいわね?』


 騒がしい部屋。リムニルがいる部屋に入ると、興奮したアドニルに出迎えられた。

『おおっ! エル、見てくれ!!』

 アドニルは説明もせずに、部屋に引き摺り込むとリムニルの前に私を引っ張っていく。

 こういう強引なところも嫌いじゃないけど、一体どうしたんだろう?


『さぁ、リムニル。ママの前で見せておくれ~』

 猫なで声を出しながら、リムニルに何かを要求するアドニル。

 その手には1枚の銅貨が乗せられていた。

『ちょっと――』

 私は慌てた。

 もし、リムニルが口に含んだりしたらどうするのかと。

 だが、私が止めるよりも早くリムニルが手を翳し。淡い発光があったかと思うと、銅貨は跡形もなく消え去っていた。


『えっ?』

 当然、何が起こったのかなどわからない。

 アドニルは呆然としている私を見ながらも嬉しそうにリムニルに消えた銅貨を出してくれとお願いしている。

 再びの発光、先程と寸分たがわず現れる銅貨。

『なっ? リムニルはギフトを授かっていたんだよ!』

 その言葉を聞いて、ようやく私は事態を呑み込めた。

『えええええぇぇぇぇぇぇ!?』


『りむ、しゅご~い!』

『ほんとすごいよっ!』

 叫び声を聞きつけて、やって来たリスティとルディ。

 二人はきゃっきゃとはしゃいで喜んでいる。


 私も二人と一緒に褒めながら、内心で鼻が高くなる。

 子どもたちを比べるような真似はしたくないが、ギフトを持っている人間なんて世界的に見ても希少。

 そりゃあ王都などには数人いるらしいが、辺境の村にギフトを持った子どもが生まれたことなど数えるしかないはずだ。


 ギフトとは、神に愛された証だとも英雄や偉人になる道標など様々な呼ばれ方をされる。

 つまりは、成功が約束されている子ども。

 リムニルはお金をしまったりする力を持っているようだが、きっとこの子は大物になるに違いない。

 そう確信させる何かがあった。


『あなた、ちょっと』

『へっ!?』

 一通り喜びを分かち合った後でこっそり部屋を抜け出そうとしているアドニルの肩に手を置き、そっと部屋から連れ出す。

『――まさか、逃げられるとでも?』

『ア、アハ、アハハハ……』

 引き攣った笑みを浮かべるアドニルを連れ出し、私はみっちりこってり説教をしておいた。

 まったく、まさかリムニルのところに隠すなんてっ!

 ただ、アドニルの行動のおかげで隠れた才能が発見できたこともあり、心なしいつもよりは優しくしておいた。


◇◆◇◆◇


 あの時は本当に驚いた。

 リムニルがギフトを授かっていると判明してから、すでに3年が経過している。

 今ではリムニルのおかげで新しい顧客も付くほどになった。

 ただ、いいことばかりではない。


「……昼間の祭に来ていた御仁」

 アドニルが決意したように口を開く。

「…ええ。王都で財務卿に仕えている方だとおっしゃっていましたね」

 王都。

 それは私たち田舎の住人からすると、生涯かかわりのないはずの人。それも、財務卿に仕えいるということはすなわち王宮勤め。最低でもそこに近い地位にいるということ。


 コイーンと言う名の人のことを思い浮かべてみる。

 優しそうな顔つきをしていたが、ゼウス殿を越える熟練の商人という雰囲気を放っていた。

「いつかは王都に知られる。いや、すでに知られているということは理解していたつもりだったが…、これほど急に来るとは」

「……そうね」

 アドニルが何を言いたいのかはわかっている。

 リムニルは私たちの役に立てたと喜んでいたが、あの人物との邂逅はリムニルとの長い別れを認識させるものだった。

 長い別れ――それを思うと今から涙が滲んでしまう。


「…ルディが7歳、あと2年もすれば下級学校に入学することになる」

 下級学校というのは平民の子どもが通う学校。

 教えるのは最低限の読み書きや計算、それとマナー。

 大体、町ごとに一つずつ存在して平民でもある程度生活に余裕のある者が通う。

 ルディは長男だし、リムニルのおかげで生活に余裕が出てきている今、将来の為にも学校には通わせたい。アドニルとはそう話し合っていた。

 だからルディが学校に通うことに問題はない。

 幸いにも、町もそれほど離れているわけではないのだから通うことはできるだろう。


「……ルディは少し抜けているが、ちゃっかり――いや、しっかりしているところもある。それに、家から通うのだからそんなに心配はしていない。だけど…」

 毎日、授業があるわけではない下級学校は授業前に馬車で行けば大丈夫。

 しかし、リムニルはそうはいかない。

 アドニルが言いたいことはわかっている。


「……なんとかならないのかしら?」

 無理なことは承知で尋ねずにはいられなかった。

「…………無理だ」

 返答は予想通り。

 アドニルも苦悩しているようで、なんとかしようと知恵を絞ったようだが、やはりいいアイデアなんて浮かばなかった。


「ルディと違って、リムニルの入学は義務だ」

「だけどっ、ルディどころか知り合いも一人もいないような場所に通わせるなんてっ――!」

 耐えられない。

 そう訴えかけても、アドニルは首を左右に振るだけだった。

「……諦めなさい。リムニルが王立学院に通うことは、あの子がギフトを授かっていると知った日からわかっていたことだろう?」


 王立学院――庶民の間では上級学校などと呼ばれる。

 文字通り、国王の勅命で建てられた学校であり、王族をはじめ上位貴族が通う学校。ただし、たった一つの例外がある。

 それがギフトを授かっていること。

 ギフトを授かるということは天に選ばれた者である証、そんな才能の塊を王国が放っておくことなどない。だからこそ、ギフトを持つ者は入学が義務化されている。

 王立学院の最低入学年齢は7歳。つまり、リムニルもあと4年したらそこへ行くことになる。

 王立というだけあって、学院は王都にある。

 王都からこの村までの距離は長い上に、学院は全寮制だと聞いている。


 今までは、もしかしたら王都にリムニルの存在は知られていないのではないか?という淡い希望を抱いていたが、その希望も今日潰えた。

 コイーンという男は確実に王都で報告するだろう。

 そうなれば、逆らうことはできない。

「……ギフトを持っている人間は王都が把握している。いつかは来るとわかっていたことだが、せめてルディが入学するときに説明をすればいいと思っていたのに…」


 この夜、アドニルと私はいつか来る長い別れを想像し、何度も話し合いを重ねた。

 最終的に、当初の予定通りリムニルが5歳になったら打ち明けるという結論に至った。

 寂しくはなるが、まだ当分先の話でもあるし、それまでにしっかりと家族の絆を深めておけばいい。

「大丈夫さ。あの子は賢い子だから」

「…そうね。信じましょうリムニルを」


 未来さきのことを考え、しんみりしてしまったけれどもう大丈夫!

 私たちは家族だもの。

 ただ、この日はしんみりしてしまったのと心細かったこともあって、久々にアドニルに甘えてみた。

 ルディがいつの間にか祭で入手していた怪しい薬の効果もあって、悲しみが吹き飛ぶぐらい盛り上がったので、もしかしたら新しい家族が増えるかもしれない。

 ほんのちょっと、期待をしつつ傍らで眠るアドニルの腕を枕にしながら彼の胸板にそっと顔を押し付ける夜だった。

 リムニルの予想通り、ルディが祭でゲットした戦利品はエルに回収されていました。さて、これからどうなるのか? リムニルに弟か妹はできるのか? お楽しみにしていてくださいね? ブヒッ!

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