『ぶたさん貯金箱』
「え~というわけでかんっぺきに図られた形にはなるが、偉大なるお――」
「はい、かんぱ~い」
「「「かんぱーい」」」
もはや達成感も何にもない。
静まり返った雰囲気の中、それでも御祝はしなくてはと形式ばかりの祝宴が始まる。後ろで「最後まで言わせろ」などと騒いでいるガッカリ王子……認めたくはないけれども今や王。
「こんなのが王とか(ボソッ)」
「おいっ!! 聞こえてるぞ!!」
「あ~あ、本当にありえない。ボソッ」
「マジでありえねえよなぁ~。ボソッ」
「……皆さん、そんな虐めるようなことをするものではありませんわ。もしも、このボン……いえ王が悪政を敷くようになったらどうしますか」
「殴って止める!」
「適当に止める~」
「お金の力で叩き潰す」
「……オレ、一応王だよな?」
「よかったではありませんか。これで愚王と呼ばれるのは身内からだけで済みそうですよ?」
「ドルーマンお前まで!」
「まあ、王様にまんまと騙されていたようだけど、それでも一応はこの国を背負う新たな王の誕生だよ? 皆、少しは喜んであげないと……」
「アハハハッ、そう言ってるリムニルが気落ちしてる~!」
「……まあ、面倒だしなぁ」
「面倒で済ませていい話ではありませんわよ。こうなってはわたくしたちが国を支える必要があるということですわよ?」
「それについては元よりそのつもりだったから問題ないよ」
やりたいことをやらせてもらうその対価としてはあいつのお守りぐらいはやすいものさ。
「思えば出会いから何から、巻き込まれてばっかりだったなぁ~」
「……どちらかというとオレの方が巻き込まれいないか?」
「それが王というものですよ。陛下」
「……ドルーマン」
「陛下。私も最後までお付き合いさせていただきます。陛下の勇姿をこの目に焼き付け、先々代様への土産話とさせていただきましょう」
「……ドルーマン。お前、会ったことあったか?」
先々代っていうと、今ではガリレオのお祖父さんになるのか。
「小さい頃に一度だけありますよ。今思い返せば陛下に似ているような気がしないでもないですね」
「そうか。どんなことであろうとも偉大な先人に似ていると言われるのであれば、情けない姿は見せられないな!」
そうして覚悟を決めたガリレオ。
翌日には、ガリレオは王太子として名を轟かせ――数年後、新たな王が誕生した。
◇◆◇◆◇
「――お爺様は!?」
「まだ、こちらにいらっしゃいますよ」
「お爺様!」
勢いよく可愛い可愛い孫が入ってくる。
その姿は愛しい妻の面影があり、今では息子もいるというのに僕の瞳には幼き姿が映し出されている。
「お爺様、聞いてください。ようやく刷り上がりましたよ!」
興奮した様子で取り出したのは布に巻かれた額縁。
優しく、大切に大切に布を捲るとそこには一枚の紙幣が飾られていた。
「……はは、はず、かしいな」
「お爺様、お爺様の功績を考えればこれぐらい当然のことです!」
若かりし頃、妻や仲間たちと作り上げた新しいお金。
その当時の紙幣には今ではのうのうと楽隠居を決め込んだ元王様が描かれていた。
それにしてもあいつは友の死に目にも会いに来ないなんて……!
本当に最後の最後までがっかりな奴だよ。
……だけど、それがあいつらしいのかな。
しかし、この紙幣に描かれているのはガリレオじゃない。
「どうですか? お婆様と仲良く映っていた時の絵を再現したんですよ」
「ああ、道理で」
嬉しそうな顔しちゃってまあ。
「こんな良い物が見れるなら、ヘンウェンももう少し長生きしたかもな……」
「そうですね。私もお婆様ともう少し一緒にいたかったです」
今じゃあ、皆先に行っちゃったから。
ヘンウェンとの間には三人もの子どもに恵まれ、お金にも囲まれて十二分に楽しい人生を過ごさせてもらった。
そんな僕が元は人間どころか生き物ですらなかったなんて、今更いっても誰も信じてはくれないんだろうな。今じゃあ、僕自身があれは夢だったんじゃないかと思っているぐらいだからね。
僕の前世は地球というこことは異なる場所で、貯金箱をしていた。
おっと、ただの貯金箱じゃないよ?
貯金箱は貯金箱でもかの有名な『ぶたさん貯金箱』だったのさ! な~んて言ってもここでは『ぶたさん貯金箱』って言ってもわからないんだけどね。
まあ、言い方は悪いけど権力と財力にモノを言わせて作ることは出来たと思う。(実際、銀行のシンボルが豚だったからそういう案があったこともあったし……)
ただ、あまりにも恥ずかしかったからやめてもらった。
その理由についてはヘンウェンにだけこっそりと教えたんだよね。
う~んそのことも思い出すと恥ずかしい。
ヘンウェンはちゃんと信じてくれたけど、僕自身が信じられなくなってきたっていうのが変わってる。
「――これが、私が頭取就任後の初仕事です」
「そうだね」
僕ももう歳だ。だからこそ、跡継ぎは必要だった。だけど、誰にでも譲るというわけにはいかない。だからこそ、僕は見極め続けた。
僕の目に適うほどの『お金好き』を。
それがこの孫娘だった。
次男の長女。
後継ぎとしてはいろいろ言われるような立場だけど、それでも一族の誰よりもお金に真剣で子どもの頃から嬉しいことに後を継ぎたいとずっと言ってくれていた。
だからこそ、託してみた。
そして、頭取を譲るうえで一つ条件を出した。
自分が納得のいく、それでいて本当にやりたい仕事をやり終えるまでは頭取と名乗ることを許さないと。
本来なら僕が動けなくなる前に引き継ぎを終わらせる予定だったのがこんなギリギリになってしまったのはそういうこと。
まさか、彼女のやりたいことが紙幣に僕の肖像画を使うことだったのには本当に驚いた。
彼女曰く、銀行を作り、新たなお金の形を産み出し、現在の経済の根幹を築いた僕がそれほど有名じゃないのはおかしいということ。
問題となったのは開始当初から使い続けていたガリレオ一択の図柄をどこを変更するかということ。
引退したとはいえ、存命の王を外すというのは難しいらしかった。
『面倒臭い。そんな無駄なことをして若者の時間を浪費する前にさっさとすべきことをやらんかい!』
最終的にはガリレオのこの鶴の一声で決まった。
あいつはあいつで目立つことに興味がないから。
それでも単位としてはやっぱり一番低い単位なんだけどね。
それならいっそのこと全部を変えたらよかったんじゃないかと思わなくもないんだけど、お札の種類を変えるという発想も僕が前世から持ち込んだものだから思いつかなくても仕方がない。
複数にすると今度は誰を入れるかの話し合いが始まって結局僕が外されそうだし。僕的にはどっちでもいいけど、可愛い孫の願いは叶えてやりたいから甘んじて受け入れよう。
生きている間に新しい紙幣デザインを考えるとは思ってなかったし……。
「……ああ、それにしても楽しかったな」
「お爺様……!」
「うん。みんな、わかってるって……」
「お爺様? お爺様ーー!!」
◇◆◇◆◇
「――ふう、やっと直った」
あれ?
僕は……おかしい死んだと思ったのに。
「さあ、今日からまた頼むぞ!」
見渡せば見覚えのある景色。ただし、体感的に数十年ぶりの景色。
そうだ。ここは地球じゃないか!
そう思って見てみると僕の身体はテープのようなもので固定されていた。
そうか。
あれは夢だったのか。
付喪神も夢を見るとは思わなかった。
「願いは叶えた。今度は別の願いだ!」
意気込みと共にちゃりんと入れられるお金。
《スキル【貯金】を発動しました。現在の貯金額は500円です》
……あれ?
夢じゃなかった?
こうしてぶたさん貯金箱のお金が好き過ぎる日々はまだまだ続くのだった。
はい。どうでしたでしょうか?
思い付いたのが、夢オチという読者から一番顰蹙を買う終わらせ方でした。ただ、それを付喪神がやるということで他の作品とは違うというところしてみました。
それではまたいつか作品でお会いできることを願っております。 ブヒッ!




