『がっかり王』 勝利は決していた(90%)
「――さて、そろそろ行くか」
「まあ、ここまでやったら後はなるようになるよね?」
「油断すんなよ!」
「ここで失敗したら笑い話にしかならないって」
「……まったく、失敗したらどうしてくれようかしら?」
「み、みんな応援してるからねっ」
「ふはははっ、頼もしい友だ」
「まったくですね」
「待っていろお前たち! 帰って来たらオレを王と呼ぶことになる!」
「「「いや、やっぱりそれは……」」」
「嫌そうにするなよ!!」
◇◆◇◆◇
「――国王陛下、ご入室!!」
会議室に現れたのはすっかり痩せ細った国王。一人では満足に移動することも出来なくなったのか、車いすに座り、入場してきた様子を見てガリレオは決意を新たにする。
(……やはり、王位を継ぐしかあるまい!)
王というのは国の象徴であるべき存在だ。
だからこそ、傀儡政権などという形だけお飾りの王なども歴史の時々に出現するのだ。
ただし、そのためには王には見栄えが必要なのである。
例え、虚勢であろうとも偽りの王位であろうとも……真の主従が逆転していようとも。民の前、臣下の前といった公の場では虚勢を張れるだけの素質が必要になって来るのだ。
今の王のように弱りきった姿を晒すのは王の姿ではない……!
王太子の一件もあったのだろうが、元々現国王は高齢だった。
それなのに、後継者を決めることもなくずるずると地位を保ってしまった。
そして、一気に老け込み王ではなくなった。
もしも、王がここまで弱らなければガリレオは自ら立つことはなかっただろう。
動きとしては今と変わらず、ミッケル王子を旗頭にしようとする王権派がでしゃばって来たり、それを邪魔するためにリムニルたちの力を借りることはしただろうが、だからといって自ら王になろうなどとは思わなかった。
おそらくは陰で動かされ、知らず知らずのうちに退路を断たれて王位を渋々引き受けるそんな男なのだ。
だからこそ、彼は誰よりも早く口を開いた。
「オレがレオナルドに代わり、王位を継ぐ。文句がある者がいれば名乗り出ろ」
本来、身分の上の者よりも先に発言をすることはあってはならない失礼にあたる。当然この場合は王を差し置いて発言をするなど以ての外。しかも内容が内容。不敬罪に問われて処罰を受けても仕方がない発言である。
当然、うまい汁を啜ろうとしていた幾人かは王の顔色を窺いつつも席を立ち、怒鳴り散らす。
「いくら王子であろうとも不敬であろう!」
「そうだ! 陛下よりも先に……しかも自らが王になるだと!? それは簒奪者になることを意味しているのがお分かりにならないのか!」
「第一、レオナルド王太子がいなくなられたのだ。後を継ぐとすればガリレオ王子よりも兄上のミッケル王子が相応しいに決まっているではありませんか?」
一気に捲し立て見方を募ろうと問い掛けてみたが、その問いかけは失敗に終わる。
「「「…………へっ??」」」
彼らを見つめる冷めた視線。
明らかに浮いてしまっている者たちの様子に不満を煽ったはずのガリレオの口からも同じく間抜けな声が漏れ出ていた。
「……まあ、ご苦労様?」
そんな空気を打ち破ったのは彼らに囲まれるように座っていた人物。彼らの旗頭ミッケル王子だった。
「いや~、面白いように上手くいったね?」
完璧に他人事の対応に事情を知らない者たちは目を丸める。
「まあ、やっぱり君たちのような人だと面白いように引っかかってくれるね?」
「あ、兄上?」
あまりにも普段通り過ぎる兄にガリレオはとうとうおかしくなったかと戦々恐々だ。
「ああ、ガリレオ。お前も相変わらずだね? まあ、だから楽が出来るんだけどさ」
「な、なんのことでしょうか?」
「……うん? あれ? 知らなかったんだっけ?」
ガリレオとしてはミッケルが何を言っているのかまったくわからない。わからないのに、何かがおかしいのだけはわかってしまうから余計に困惑する。
「ガリレオ、お前が次の王だよ」
告げられた言葉には敬意の欠片もない。
形式だけとばかりに跪いて告げられたが、抑揚も敬称もないのだから言われた本人に実感がわかないのも無理はない。
ショックが強すぎる中、それでも立ち直ったのは自分たちの足元が突如として崩れ落ちたためだ。
「な、何を仰いますミッケル様!?」
悲鳴にも近い声で訂正を求める取り巻きたち。
「何って? そりゃあ、君たちが無能だって言ってるんだよ? そもそも僕の仕事は傀儡政権という甘いエサに食いつく虫をおびき寄せることだからね?」
初めから王位なんて興味がない。平然と言ってのけるその姿はまさに自分のことに興味のないミッケルらしさがあった。
「兄上、それは一体……?」
だが、ミッケルを知っているからこそガリレオには理解できない。例え思い付いたとしてもミッケルがそのようなことを自主的に行うわけがないからだ。
「――余が命令した」
「陛下!?」
「……まあ、時代の移り変わりをこの歳になって感じてのう。その先を導く者としては多少変わっている者の方が上手くいく。そう思っておった」
「――だからこそ、適任者は君だったんだよガリレオ」
「そ、その声は!?」
「やあ、久しぶり。と言ってもそんなに時間は経ってないけどね?」
「レオナルド兄上!?」
「お、王太子殿下~!?」
王の車いすを押していた従者。その者が顔を露わにすると室内に驚愕が広がる。
「あ、兄上は行方不明のはずでは!?」
「いやいや、さすがに外交問題に発展するような逃げ方は出来ないよ」
「その荒波を立てないとこはまさしく兄上!」
「……その言い方は酷くない?」
「しかし、一体どういうことですか?」
「まあ、待て。その前に後々の膿となりそうな者たちをなんとかせねばな?」
「「「ひ、ひぃっ!?」」」
◇◆◇◆◇
「――で? 詳しく聞かせていただきますよ?」
ミッケルを担ぎ出そうとしていた王権派の者たちが追い出され、残ったのは家族と従者だけとなったことで無礼講とばかりに詰め寄る。その姿は言い逃れは一切させないという強い意思を漂わせていた。
ただ、詰め寄られている王は楽しげなのでムキになる子どもとあしらう大人の図式ではある。
「お前の友、リムニルと進めておる改革」
「は?」
「あれが齎すものがどのようなことになるかわかるか?」
「……それは、わかりますが」
「いいや! お前はわかっておらん! 古い物を壊し、新しい風を吹かす。それは言葉で言い表せるほど単純なことではないのだ。それこそ長い長い年月を経てようやく為し得ることだ」
「…………」
「まあ、だがお前はともかくリムニルは止まらんだろう」
「彼はなかなか勢いがありますからね。友人にも恵まれているようですし」
「ハッキリ言って、お前の力がなくともいずれは改革を成し遂げてしまっただろうよ。そうなれば名が落ちるのは我々王族だ」
「名前に意味はない、王は国民のために生きる存在である。――とはいえ、急な改革で被害を受けるのは国民だ」
「だからその前に我々(おうぞく)からある程度の力を奪う必要があった」
「では兄上の駆け落ちというのも?」
「半分嘘だね」
レオナルドが言うにはあれは計画的なものであり、同行者たちはそのことを知っていたうえでレオナルドの計画を後押ししたのだと。
「信じられませんね。権力欲にかられた者たちがあっさりとそんな条件を呑むなんて」
「まあ、多少の叱責はあるだろうが、そのあと余の指示があったことを明かせば」
「……あとは次の王の対応次第。つまりは、オレ次第ということですか」
「そうなるな」
「で? もう半分というのは?」
「実はな、相手が違う。私が駆け落ちしたのは隣国の王族だ」
「それなら問題ないのでは?」
「いや、相手が国王の妹でなぁ」
「はっ!? たしか婚約者は国王の下から二番目の娘だったのでは!?」
「そうだ。余も知らなんだが、レオナルドは年上好きらしい」
「それはどうもでもよい!」
「……で、ちと問題があろう?」
王は笑って許してくれたそうだが、さすがにそのまま流すことは出来ないと。これを公表すれば姫のプライドを傷つけ、内部争いを誘発することにもなりかねないからだ。
「まあそこで一計を案じてレオナルドを表舞台から逃がしてやることにしたのだ」
「いやあ、父上には申し訳ないことを」
「オレにはそう思わないのですか!?」
「ふふっ、やっぱり長男が一番可愛いってことかなぁ?」
「ミッケル兄上、知っていたのならなぜ教えてくれないのですか!?」
「えっ? だって言ってたら上手い芝居なんて出来ないでしょ?」
「ぬぁっ!?」
「まあ、ガリレオじゃしな」
「そうだね」
「左様ですな」
「ちょっと待てい!! ドルーマンお前もよもや……!」
「はい。当然、知っておりました。もしも雲行きが怪しく成ったら軌道修正をするため必要がありましたので」
「まあ、なんにせよ次の王はお前じゃ」
「こんな王位継承間違っている!!」
どんなに文句を言っても王位は変わらない。
こうして翌日には次期国王としてガリレオの名が国中に知れ渡ることになった。国民たちには大きな動揺もなく、スムーズな王位継承だったという。
後の世には紙幣を作った時には王位が内定しており、まだ知名度の低いガリレオを慮った王の親心として語られており、稀代の親バカ王とも言われるとか。
どうでしょう?
こんな感じであと一話の予定です。もしかしたら変わるかもしれませんが、最後までお付き合いください。 ブヒッ!




