『豚の頭取③』 ニューマネー
お久しぶりです。
出来れば年内に終わらせたかった作品がまだまだ終わりの目処を見せません。というのも現実の方でかなり大きな変化があり、それに飲み込まれてしまったからです。具体的に言うと人事関連が……。ようやく落ち着いてきたので頑張って完結に話を持って行きたいと思いますので最後までお付き合い下さい。
学院を卒業すると平民である僕、ヘラク、カミアの三人は他の三人と接点がなくなる……そんな風に考えていた。
だけど、ガリレオとロールの頑張りのおかげで少なくとも僕との繋がりは保たれた。あとの二人は好きなように生きるのかと思っていたけど、二人も結局僕たちの行動に共感してくれた。
そして、いろんなことで助けてもらっている。
卒業してからヘラクは本来だったら軍派閥としての行動をする予定だったし、カミアも父親と同じように商人になる予定だったのだろう。それでも二人は一緒にいる。
――だから、遠慮はしないことにした。
「それにしてもリムニルもガリレオも人使いが荒かったけど、それもようやく実を結ぶってか?」
「いやいや、まだ浸透するまでに時間がかかるから!?」
「つってもやるって言ったらやるだろう?」
「それはもちろんだよ」
「ほらな? オレ様たちが何を言ってももう止まらねえって」
「諦めるなー!! アタシが大変になるだけでしょうが!!」
「はっはっは。カミアは往生際が悪いなぁ」
「そこは思ってても口には出さないっ!」
二人に尽力してもらっていること、それは新しいお金の開発だ。
それだけを聞くと国家規模の事業だが、もちろん。二人だけにそんな重責を負わせられるわけもない。
だって、学院を卒業したばかりの時なんて若造も若造だからね?
では、二人に頼んだことというのは何か。
それはズバリ『お札』の開発だよ!
お札……それはつまり紙幣。
読んで字の如く紙媒体のお金だ。
前世で僕の中に入ることはそれこそ滅多になかったし、僕はあまり好きになれないお金の形態ではあるけれども時代が進めば必要になるのは目に見えてくる。
だってコインのお金は嵩張るし、何よりも重い。
僕のようなギフトがあれば別だろうけど、普通の人は大量のお金を持ち歩くことなんて出来ない。
思い返せば入学してすぐに見せられた大金。あれはかなり非常識だった……。
まあなんにせよ、二人に協力してもらったのは材料の調達だ。
都合のいいことにヘラクの故郷ではかなりの資源が余っていた。それをヘラクが刈り取り、運搬する。おかげであそこの周囲はかなりすっきりしたとの話だった。……まあ、僕から見たらそんなに変わっているようには見えなかったけど、どうも森の奥の方の邪魔な木だけを切ったのだとか。
そして、カミアに頼んだのは加工だ。
学院時代にもほとんど使われることのなかったカミアのギフト【軟化】。その名が表すようにどんなものでも軟らかくするという変わった力。
それのおかげで加工がかなりスムーズに進んで実験が面白い具合に進んだんだ。
「――いつ頃から流通させるかというのが問題だったけど、この時期になるとはね……」
「大体の完成系は見えてるんだよな? 国全体に行き渡らせるようにするっていうと数がなぁ……」
「それに最大の問題が残ってるでしょ!?」
「……ああ、アレ?」
「リムニルにとってはどうでもいいことかもしんないけど、国にとっては一大事なのっ!!」
カミアが興奮する残りの問題はデザインだ。
つまりは、紙幣に何を描くかということ。
「――その点については考えがある!!」
任せておけと胸を叩くガリレオ。……大丈夫かなぁ? こういう時は必ずと言っていいほどにガッカリレオになるんだけど。
◇◆◇◆◇
「いらっしゃい! いらっしゃい! 今日はリンゴが安いよ~!!」
「あっ、奥さん。リンゴどうだい?」
「はいはい。買いますよっとこれでいい?」
「おっ、そいつぁ新しい金じゃねえか!!」
「そうよ! 昨日銀行に行ったら好感してくれてねぇ……。今までよりも軽いし、持ち運びがしやすいのはありがたいわぁ」
「はっはっは、奥さんなんかはうちのと違って華奢だから余計にそうだろうよ!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの! じゃあ、今日は多めに買っちゃおうかしら?」
「まいどっ!!」
「……うん。いい感じに紙幣は広がってるね」
「……そうね。まだまだ王都が中心ではあるけど、いずれは国中に広がって行くわよ」
「ふぅ、じゃあ僕は今日も動きますか」
「大変だけど、これも国のためよ」
「国のためはいいんだけどねえ……」
出立前にこっそりと市場視察を行っていた僕とロールは思ったよりも動揺が少なく紙幣が浸透していっていることに安堵しつつも若干の憂鬱さを感じている。
懐から、一枚の紙幣を取り出し大きなため息を吐く。
「これを広げて良いものか……」
「それは気にしちゃ駄目」
「わかってるよ」
憂鬱な理由。それは紙幣に描かれた人物。
「……なんでよりによってガリレオなの?」
常に懐にガリレオの顔があると思うとかなり憂鬱だ。
無駄遣いするのは性分で出来ないけど、出来る限り持ち歩きたくない。
「……あの方は発案者ということで入れ差しましたけども」
もちろん、それ以外の理由もわかっている。
国は広い。
まだ王太子が駆け落ちしたというニュースは世間に広まっていないけれども、旅行の予定が終わって帰ってきた一団に王太子がいなければ瞬く間に国中に広がることだろう。
当然、次の国王候補たちの情報と一緒に。
そうなった時に顔を知らない王子よりも今はまだ無名でも顔が確認しやすい王子の方が国民は納得しやすい。それもあって紙幣にはしっかりと名前も入れられているのだから。
今のところは発案者としてだけど、王になれば国王の顔として人々は認識することだろう。
それこそ身近なところにあるのだ。
誰もがその顔を知っている王になるに違いない。
「かなり仰々しい衣装だけど、もしも王になれなかったらかなり恥ずかしいよね?」
「あの方は元から恥ずかしいですわ。それもこれも知っているのは一部だけですので問題はありませんが」
知らぬは仏か。
この世界では通じないから言わないけど、まさにこの言葉がピッタリ嵌まる状況だよ。
「それじゃあ、僕は悪夢の手配書配りに行きますか」
「ふふっ、それは言わない方がいいですわね。あなたも王都では有名になってますから」
「そうだね」
昔では信じられないことに僕も銀行頭取という肩書きのおかげですっかり有名人だ。
言っちゃあ悪いけれど、財務卿の孫の奥さんという今のロールよりも有名なのは間違いないだろう。
◇◆◇◆◇
紙幣を国中に広めるのは問題だらけだ。
各地に銀行はあっても造幣局があるのはまだ王都とヘラクの故郷ウォーフリーだけ。
だから出来立てほやほやのお金は僕が直接各地の銀行に届けている。
実はこの方法を取るのも中々に大変なことだった。
僕のギフトが紙幣をお金と認識しなかったのだ。
これまで気に留めたことはなかったし、試すようなこともしたことはなかったけど対象がお金と認識されていることが重要だったんだ。
宝石などの高価な品でもダメ。オモチャのお金もダメ。
おままごとなんかをやったことはなかったけど、もしもそういうことで試していたらもっと早く問題に辿り着いていたのかもしれないと幼少時代を悔やまずにはいられなかった。
なので銀行で換金し、お金を王都に広める。それが最初の仕事になってしまった。
そして、一週間ほど。ようやく認知度が上がったことで僕のギフトに反応したんだ。
そうなると大変だった。
初回分は各地に輸送したけど、使えば使うほどにお金は回る。
だから、僕が補充をできるようにお金を配って行くよ!
いよいよ、運命の日を迎えた。
王太子レオナルドの駆け落ちの報せが国中に広まった翌日から、熾烈な王位争いが繰り広げられることになる。
その一幕としてガリレオを次期国王と認めない派閥によって紙幣の回収、それに焼き討ちが行われ始めた。まさに肖像入りの紙幣は手配書のように扱われてしまったのだ。
次回、リムニル大激怒!
まあそうでしょっていうぐらいに怒ります。それに翻弄されるガリレオの動揺をご覧あれ! ブヒッ!




