『財布の番人』祭りを謳歌する (祭2)
お待たせしました。
祭の続きをどうぞ!
「リム~? 何食べてるの?」
「ぶたくっ!」
「ふふっ、『ぶたく』じゃなくて豚串よ?」
豚串を食べていると聞いて、共食い?って思った人は間違っているよ。
僕は豚は豚でも『ぶたさん貯金箱』。
そんじょそこらの豚とは質が違うのさっ!
「ねえねえ、それおいそうっ! いくらしたの?」
…リスティ、まだ食べるのか。
彼女の底知れない食欲にちょっと驚きつつも、僕は串を持っていない手を開き、彼女に見せつけた。
「んっ? 5ルピヨン?」
(チッチッチ、甘いな)
首を振り、違うことを伝えると串も一緒に見せつけ大きな声で正解を伝える。
「15ルピヨンっ!」
「えぇっ!? た、高く…ない?」
リスティは豚串の値段に驚いていた。
まあ、リスティにしてみればかなりの金額なんだろうな。
彼女は使わせることはあっても、自分が使うという概念はあまりない。それに、家が商店をやっているから必要な物は大抵アドニルかエルが用意してしまう。
あまりお金を使わない生活なのだ。
ちなみに、この世界で15ルピヨンっていうのはまあまあな金額だ。
普段僕たちが主食としているパン。これが5ルピヨン。それよりも柔らかく、おいしいパンは倍の10ルピヨン。
ほとんどの商品が10ルピヨン出せば手に入る生活をしている中で、祭の雰囲気を含んでいるとはいえ15ルピヨンは法外な値段と言われても仕方がない。
値段を教えたことで買うかどうか迷い始めたリスティに、ここぞとばかりに僕は笑みを浮かべ肉の着いたままの串をすっと差し出した。
「ねえさんっ、あげゆっ!」
やはり、まだ僕の胃はそれほど大きくないらしく、豚串1本でまあまあおなかが満たされてしまった…。
このままでは、祭を堪能しきる前に満腹になってしまう。
(それは非常にもったいない!)
なので、僕は別の胃袋に移すことにした。
「えっ! いいのっ!」
先程のやり取りを見ていて思ったが、リスティは2歳しか離れていないと思えないほどに胃袋が大きい。これを利用しない手はない。
「あいっ!」
「ありがと~!!」
(うわっ!? 危ないっ!)
感極まったリスティに抱き着かれ、豚串を落としそうになる。
アドニルやエルよ…。笑っていないで助けておくれよ……。
「おいしぃ~!!」
リスティは豚串を本当においしそうに食べている。
それはいいんだけど…、どうして僕が持ってるのかな?
「ねえさん、持って!」
「えぇ~! リムに食べさせてもらうのがおいしいのにぃ~!!」
頬を膨らませたリスティは渋々と串を受け取ると先程までゆっくりと食べていたのに、残った肉を一気に串から抜き去り、口に収めてしまった。
「さっ! 他のも見て回りましょっ!」
◇◆◇◆◇
「金がなくなった~」
「……そりゃ、使えばなくなるよ」
喚き散らすレイにルメスの辛辣な言葉が投げかけられる。
あのあと、リスティに連れられていろんな屋台を見て回った。
この地方では珍しい海産物の屋台や氷を使ったお菓子、他にも粉モノや高価な砂糖菓子などなど…。わかると思うが食べ物系の屋台ばかりだ。
そして、リスティが動けば彼女について回るレイやルメスも動く。
僕が動けば、僕にお金を預けているルディやキュリアも付いてくることになり、結果として大人たちも付いてくる。
気付けば子ども6人、大人3人の大所帯で祭を堪能している。
そして、リスティについて来ていた兄弟は思い出したようにお金を使い、残りが少なかったレイは堪能する暇もなくあっという間にお金をついて切ってしまったのだった。
二人のやり取りに、おじさんは頭を押さえ、他の者たちは笑みを浮かべる。
仮にも行商人をしているおじさんは孫への教育を厳しくすべきか悩んでいるに違いない。
ちなみに、レイのことを笑っている両親だったが、ルディがこそこそ動いては首根っこを掴んで戻って来るというのを繰り返している。
……一体何をしているのやら。
「さあ、祭はまだまだこれからだっ! 楽しもう!」
気が付けば、僕はアドニルに抱きかかえられていた。
「……あぅ?」
状況が理解できない。
たしか、直前に4度目のルディの脱走があったと思ったんだが…。
「ごめんよ~リムニル」
アドニルがすまなさそうな声を上げながら、顔を擦りつけてくる。……どうでもいいが、ヒゲがチクチクする。
「あんまり、ルディが脱走するから、こうして財布を押さえておかなくちゃいけなくなったんだよね~」
なるほど。
そういうことか…。
ってか、今僕のことを『財布』と言っただろう!
しばらく、へそくりを隠してやらんぞっ!
基本、エルに叱られるからアドニルのお金は預かってやらないんだが、お小遣いをくれる時だけは別。
こっそり預かって、バレないようにしている。
……まあ、結局バレるんだけどね!
本当にエルの嗅覚は警戒しなければ…。
◇◆◇◆◇
「おかーさん! あれ、なに?」
「ん~どれどれ? ああ、あれはくじ屋さんよ」
そこでは小さな箱の前に人だかりができていた。
「あの箱の中に札を入れておいて、胴元が持っている札と同じものを引いた人に景品が当たる仕組みなの」
へぇ~。
面白いシステムだな。
「やってみたい?」
「あいっ!」
こんな面白そうなことやらずにいられようか。
「リムがやるならあたしもやるっ!」
「……ん~、僕もやってみようかなぁ」
リスティはともかく、ルディまで乗って来るとは珍しい。
それほど良いモノが入っているのだろうか?
「じゃあ、みんなでやってみよう!」
何はともあれ、家族全員でくじに挑戦してみる。
「おじさん、5人分よろしく!」
「ああ、いらっしゃい! これは小さなお客さんだ」
屋台のおじさんは僕たちが近付くと、箱を取りやすい位置に動かしてくれた。
「この中から1枚だけ、引いてね? 1枚だけだよ?」
信用無いなぁ…。
念押しされて、ちょっと引いてしまう。
「なあに、うちの子は賢いからなっ! ちゃんとわかってるさ!」
こっちはこっちで信用が重い。
「あたしがいちっば~ん!」
悩んでいるうちに先を越されてしまった。
「じゃあ、次は僕かな」
さらにはルディやおじさんに借金することになったレイたちも続き、最後に僕と両親がそれぞれ手を入れる。
「ん~!!」
ただ、いかんせん僕の腕が短すぎて…。
あまりに必死に腕を伸ばすものだから、落っこちそうになってアドニルが慌てている様子が伝わってくる。
「あっちゃ!!」
ようやく札らしきものに、手を触れた瞬間――何やら奇妙な気配を感じた。
どうやら箱の中、札にその気配はあるらしく僕はその気配の強いものへと指を伸ばしていく。
「さぁ~て、当たったかなぁ~?」
屋台のおじさんは札のかかった板を取り出す。
「この札に書いてある番号があれば見事大当たり。さあ、オープン!」
「おおっ! 大当たりぃ~!!」
「やったー!」
「おぉっ! リムニル、凄いぞっ!!」
僕が持っていた札がどうやら当たりだったらしい。
「はい、当たったぼっちゃんには羊を一頭プレゼント!」
景品として連れてこられた羊はモコモコだった。
「ほら、リムニル~羊さんですよ~」
その羊の上にそっと降ろされ、身体が沈んでいく。
「わわっ!?」
「アハハッ、リム、沈んでる~」
「可愛いわぁ~。さすがは私の息子ね!」
「ハハハッ、家族が増えたな! リムニル、いい名前を考えてやれよ?」
「あいっ!」
自分の力で何かを手に入れる。
それがこんなにも楽しいことだったとは。
こうして僕は初めての祭で楽しい思い出をたくさん作ったのだった。
ちなみに、ルディも密かに狙っていた物を引き当てていたらしいが、それが何かはわからなかった。ただ、碌なモノでないことはなんとなく見当がついたので放置しておくことにする。
どうもうまく隠せずにアドニルに見つかっているようだし、気にするほどのことではないだろう。
質が違う。
たしかに『材質』が違いますよね!
ちなみに、まだお祭りは続きます。また、次回でお会いしましょう!ブヒッ!