『豚の頭取①』 大人になった
久々の執筆再開。
とりあえずこの作品を無事終わらせられるように頑張ります。
「頭取! 頭取~!!」
「……どうしたの?」
「おおっ!? 頭取、そんなところで寝こけている場合ではございませんぞ!」
「……わかったから、落ち着いて」
よっこいしょと紙の山から身体を起こす。
これは今でこそただの紙だが、やがては世界を動かす紙になる。そう何度も説明しているんだけどなぁ。
僕を頭取と呼ぶ、スロープさんは理解を示してくれている良い人なんだけど今一つ僕の考えをわかっていないような気がするよ。
「で? 何があったの?」
まあ、この慌てようだとどうせまたあのガッカリレオが何かやらかしたんだろうけど……。
学院を卒業してから十年以上も経つのに、あいつはいつまでも周りに迷惑をかける。
「おおっ! そうでしたそうでした。殿下から火急の報せでございます!」
「……やっぱり」
「素晴らしいですな! 竹馬の友と呼ばれるだけはあります。既にそのような予感がありましたか!」
「……そんな気はしてたよ」
主にあなたの態度でね。
「わかった。それじゃあ、いつものように後で確認するからそこの重要書類の中に置いておいて……」
火急っていうけど、どうせ大したことないんでしょ?
前なんてピクニックに行くのを大慌てで持ってこさせてたもんね。
「いえ、そういうわけにはまいりません」
だが、今回はどうやら今までとはわけが違うらしい。
「今回は使者の方に加え、迎えも来ております」
「迎え?」
「はっ! どうも内容を確認次第、すぐに同行してほしいとのことでして……」
「……何だろうね?」
珍しい……というよりはこれまでなかったことだ。
これはたしかに大袈裟でもなく尋常じゃない事態だと察した僕はすぐに手紙を開け、そのまま駆け足で部屋を飛び出した。
「頭取!?」
後ろで慌てたスロープさんの声が聞こえたが、それどころではない。
これは大変な事態だ!
「お待たせしました!」
「おおっ、リムニル殿! ささ、お早く!」
「はいっ!」
着の身着のまま、碌な荷物すらも持たずに馬車へ飛び乗るとそのまま走り出す。
「頭取~!? ……行ってしまわれた。一体何が書かれていたのか……」
◇◆◇◆◇
「――遅いな」
「殿下、手紙は出したばかりでございます。早い方でもまだ数刻はかかるかと」
「わかっている。だが、その時間が惜しいのだ」
「――そんな話をしていれば、いらっしゃったようですよ」
「ガリレオ!!」
「……悪かったな。リムニル。急に呼び立てて」
扉を乱暴に開け放つとそこにはすっかり大人になったガリレオと若干老けたドルーマンさんがいた。
普段出迎える時はどちらかというと悪戯が成功した子供のような表情を浮かべるガリレオだが、今日は実際よりも老けて見える。おそらく頬が痩せこけているのが原因だろう。
「……大丈夫なのか?」
「んっ? ああ、少し痩せて見えるだろうがその程度だ。問題はない」
「そうは言うが……」
「手紙を書ける程度には元気だよ」
「冗談を言えるほど元気そうには見えないけど?」
「ふははっ、お前はどんな時でも変わらんな」
やめろよ。そんな痛々しそうに笑うのは。
「で? どういうことなのか説明してもらえる?」
「……いや、全員揃うのを待とうと思う」
「急ぎっていう割にはそれでいいわけ?」
「個別に説明するよりは時間が省ける。……何より、オレとしても気持ちの整理が必要なのだ」
「わかった。それなら待つよ」
まあ、おそらくそんなに待たなくても来るとは思うけどね」
「「「ガリレオ!!」」」
ほらね。
「やあ、皆」
僕は新たに入って来た旧友たちを笑顔で出迎える。
「おおっ! リムニル! お前の方が早かったか!」
ヘラク……見た目は筋肉ダルマに成長している。
軍に所属しているわけではないけど、その腕っ節を買われて、傭兵みたいなことをやったりもしているらしい。その分、軍の助力を得たい時には頼れる男だ。
「リムニル! 試作品はどうだった!?」
「ははっ、いい感じだと思うよ」
「でしょ~? 頑張ったからね~」
カミアは父親譲りの逞しさで、とある事情の責任者をしている。彼女のスキルの力も重要のため多忙になっているらしいが、持ち前の明るさで職場を盛り上げているらしい。
試作品の精度ならば後は彼女を抜きにしても使えるように技術を整える段階に来ていると思う。
「……今はそんな話をしている場合ではないと思いますけど?」
「まあまあ、皆さんお変わりないようでよいことではございませんか」
「それは、そうなのですけどねっ!」
この若干、ツンデレをこじらせつつあるのがロール。チャチマッキー侯爵家の令嬢であり、支援という形で困った時に助けてくれる根の優しい――お母さんだ。
そう。驚いたことに彼女は財務卿のお孫さんと結婚して、今や三児の母だ。どうも顔合わせの時にお互いに一目ぼれをしたのだと惚気られた覚えがあるが……あれだけ嫌がっていたのはなんだったのだろうという手の平返しの早さだった。
これにはむしろチャチマッキー侯爵の方が慌てて、めっちゃ取り乱していた。
というか結婚式の時でも同じぐらい動揺していたんだけど……ちゃんと説得はしたのかな? 気にはなるけど、こればっかりは永遠の謎にしておこうと思う。
ちなみにロールの結婚および出産で一番振り回されたのが、ルリスさんだろう。
というのもなんだかんだと忙しく(主に僕とガリレオのせい)婚期が伸びに伸びたルリスさんとコイーンさんの結婚はさすがに教え子よりも後っていうのは可哀想だという理由で行われ、子どもが生まれてからは子育ての先輩として教師という立場を越えて色々振りまわれていたのだから……。
「そ、それよりガリレオ君は大丈夫なの?」
そして、この優しくも美しい女性こそが、ヘンウェンだ。
「大丈夫だよ。ガリレオ自身には何の問題もないみたいだから」
「そ、そう? ならよかった」
ああ、仕事が忙しくて碌に会えなかった婚約者とこうして会う時間を取れるという点ではガリレオに感謝してもいいかもしれない。それ以外では絶対にしないけど。
「ヘンウェンこそ、学校忙しいんじゃないの?」
「それほどでもないよ。知ってるでしょ? あそこは自主性を重んじるから。むしろ教師の出番は少ないって」
もちろんのことだが、留年をしているとかいうわけではない。
ヘンウェンは教師になったのだ。
それまでずっと家に閉じ込められていて、世界を知らなかった彼女に世界を見せた思い出の地を彼女はとても大切にしていた。
そして、タイミングが良いことに教師の枠も空いたことだし、ということで彼女は無事に教師になれた。これには教え子に振りまわれた前任者も大喜びだった……というのを就職の御祝に駆け付けたロールから聞いている。
「(なあなあ、両想いになれたのはいいけどよ……)」
「(しっ! せっかくいい雰囲気なんだからきっかけなんてどうでもいいでしょ?)」
「……そうなんだがなぁ」
「まあまあ、出会いなんて運命の悪戯ですよ。お見合いだろうと政略だろうといいではありませんか」
「それ、学生時代のお前に聞かせてやりたいよ」
「ええ、まったくですわね!」
「うわ~皮肉が通じてない。あんた子どもの頃より、頭のネジ外れてない?」
「まっなんにせよリムニルさんの思いは本物。それが親や周囲の刷り込みがきっかけでもいいじゃありませんか」
「そのある意味洗脳みたいなのが納得できないんだけどな……」
◇◆◇◆◇
「ゴホン、そろそろいいか?」
「ああっ、そうだった。で? 用件って何?」
「そうだぜ、いきなり手紙で『助けてくれ』とだけ寄越されても困るんだけどよ!」
「それで来る辺りアタシら全員お人よしだよね」
「……まったくですわ」
「――皆には負担をかける。だが、これは対応を誤るわけにはいかん問題なのだ。差し当たってはリムニル」
「んっ?」
「金を解放する!」
「えっ? どういうこと? お金をばら撒くつもり?」
それは情勢が悪化しそうだからお勧めしないけど。というか銀行の初代頭取として断固拒否する!
「とにもかくにも大量の金が必要だ。そして、それを使って――国を買うぞ!」
「「「国を買う!?」」」
何を壮大なことを……!
「そんなことしたら反逆罪だよ!?」
いや、王子という立場でもこれは拙いんじゃ……。
「言っただろう。それどころではないのだと」
「何があったの?」
「――兄上が、次期国王である王太子殿下が失踪した」
さあ、いよいよ貯めたお金を一気に使う最終章! それにちなんでサブタイトルも豚! まさに金命の豚に相応しいと思いませんか? ブヒッ!




