『舞台裏』 親たちの話し合い
「――なかなかに面白い少年だったな」
「リムニル君ですな。たしかに。新たな宗教の対象となるなど、稀な働きをしていることからも予想は出来ておりましたが……」
「まあ、あそこまで積極的に動き出したのはガリレオ殿下の働き掛けもあったのではないかと思いますがの」
「……おいおい、あまりあれを過大評価するでない」
まあ、息子が褒められるのは嬉しいものだ。ただ、どうにも財務卿はあやつと先王が似ていると考えている節が見受けられる。
……まったく、父上はあそこまで奔放な性格はしておらなんだはずだが。天才肌であったことは認めるが……やはりガリレオと似ているか言われれば疑問が残るところだ。
「ほっほっほ、親の心を子が知ることがないように、親の真の姿というのは子からは見えぬもの。疑問に持たれるのも仕方ありますまい」
「……そういうものか」
財務卿は父上が幼少の時代から知っておる。そう言われれば、余の知らぬ父の姿を知っているのやもしれんな。
「なんにせよ、これであの少年を放置しておくわけにはいかなくなりましたの」
「……言い方が悪いぞ」
それでは我々が無理やり彼をどうにかするという風に聞こえるではないか。
「でしたな。まあ、あの情熱があれば自ずとそちらへ向かっていくでしょう」
「……問題は受け入れ先ですな」
国政に関わる以上、今のまま平民では何かと不自由が生じかねん。そうなると下級であろうとも貴族である必要が出てくるのだが……。
「彼の推薦者はコイーンですか」
「腕は良いのですが、彼も生まれはそれほど高い家柄ではありませんな」
「かと言って、私が保証すると裏で工作をしていると言われかねんのでな……」
コイーンの推薦者は財務卿だったか。そう言えば、随分昔に神童を見つけたという報せを聞いたような気が……あれは父上に話していたのを立ち聞きしただけだったか?
「……これからは財務関連の人員を増やす必要もありそうですし、いっそのこと新しい家を作るということも念頭に入れておく必要がありそうですな」
家……貴族を増やすということだが、そうなると問題がある。というか問題が起こる。絶対にだ。
「……費用は捻出できそうか?」
「ほっほっほ、それこそこの事案が上手くいけばなんとかなるやもしれませんな」
「つまり、現段階では見通しは立たないということだな」
「他派閥の人間がどのような形で絡んでくるか……」
同じ文官たちもそうだが、軍務派閥の方が積極的に介入をしてくるであろうな。
「まったく、愚かしいことです。派閥を重んじるのが悪だというつもりはありませんが、時と状況を読んでほしいものですな」
「……自分たちの利権を確保しておきたい。そう考えるのは当然なのでしょうがな。まあ、我々も同じ立場であれば邪魔をするのでしょうからあまり言えますまい。何より、まだ邪魔されているわけでもないのですから」
「……起こっていないことをとやかく言うても仕方がない、か」
「ええ。おそらく草案が通るのは早くてもリムニルとやらが卒業する時になるでしょうし、目立った妨害はその頃からでは?」
「そういうことにしておくか……」
こういう問題の先送りをするところがガリレオに悪い影響を与えるとドルーマンなどには言われるが、国王なんてこんなものだ。
◇◆◇◆◇
「――そう言えば、娘と曾孫さんとの話はどうしますか?」
「おぉ、そうぢゃな」
「……それこそまだ先の話ではないか?」
「陛下はわかっておられませんな、こういう話は早い方がいいのです」
「……まぁ、余の場合は周りがいろいろと整えてくれておったからな」
「それはしょうがないでしょう。王族というのはそういうものです」
それにしても、別段王権派というわけでもない私がこうして王と気軽に話をするなどとは少し前では考えもしなかったことだ。
「陛下もそろそろご子息たちの相手を探さねばならん頃合いでしょう」
「ううむ、悩ましいことよ」
「とはいえ、第一王子殿下に至っては時期に成人ですよ? 早く決めなくては……」
貴族でも相手を探すのには苦労するが、王族ともなればその苦労は尚更だ。
「……そこなのだがな、未だに後継者も決めておらんのが問題でなぁ」
「普通に考えればレオナルド殿下では?」
「レオナルドは悪くないが、特別に優秀というわけでもない。それならば末の子が育つまでは判断をしない方がいいのではと考えてしまうのだ」
「そんなことを言っていては良縁がなくなりますぞ?」
他国の王侯貴族はもちろん、我が国の貴族の年頃の娘たちも婚約者が決まってしまう。
「……まあ、それはそれとしてどうにもお嬢さんの方は一度曾孫と会わせてみた方が良いと考えております」
「やはり、そう思われますか……」
甘やかしてつもりはないが、どうにもあの子は気位が高い。自分の眼鏡に合うかどうか、納得できなければ私がいくら言ったところで首を縦には振らないだろう。
そのためには一度顔合わせをさせておかなければ。
「良え子ぢゃからの。私としても上手くいってくれると嬉しいが、無理強いはしたくないでのう」
「……それは私も同感です。娘には幸せになって欲しい」
「安心して下され、曾孫は贔屓目抜きにしても良え子ぢゃから」
「楽しみですな」
◇◆◇◆◇
「卒業生代表、ガリレオ・ガウマンディー」
「はい!」
壇上へと上がるガリレオの後姿を眺めながら、僕は時間が経つのが早いということを噛みしめている。
「……それにしても、学院長が代わってもそんなに動揺はなかったですわね」
「学院長が表に出ることは滅多にないからね」
ちなみに学院長が変わったと言っても、本体が出てきているわけではない。単純に新しい学院長として少し若いおじさんの人形が壇上に上がるようになっただけだ。理由は体調不良による交代となっているが、これを説明された時、ルリスさんがとても頭の痛そうな顔をしていた。
どうあっても学院長は表舞台に出たくないらしい。
「……オレ様としてはあいつが代表ってことに不満だらだらだが」
「あっ、それアタシも~」
「一応ガリレオ君は王族ですし……」
「いや、学院では身分を問わないんだからそれで代表を決めるのは問題だと思うよ?」
「「だよな(ね)!」」
「……どうあっても認めない気ですわね」
「……はは」
「さて、学院を卒業したら忙しくなりそうだし頑張らないとなー」
「……誤魔化しましたわね」
「リムニルはやりたいことだからいいじゃん! アタシたちなんて巻き込まれた形なんだからね」
「まったくだ。オレ様は軍人になると思ってたのによ……」
「いいじゃないか。軍人になったって、ヘラクには退屈だよ」
悪いとは思うけど、クラスメートであるヘラクやカミア、それにヘンウェン。もちろんロールやガリレオも含めて銀行の計画に協力してもらうことになっている。
ニンフィーニアは一足先に宣教師として色々なところに赴いて宣伝してもらっているのだ。
「具体的にはまだ決まってないけど、これからはやることが山積みだ。だけど、その先にはお金の山が舞っているよ!」
「……結局はそれか」
「リムニルは変わらないなぁ」
「……むしろ悪化していますわ」
「そこがリムニル君の良い所だと思います!」
なにはともあれ長いようで短かった学院生活も終わりを迎えた。卒業と同時に去るはずだった王都や仲間たちと一緒にこれからも困難を乗り越えて行けると思うと僕には楽しみに未来しか見えない。その時には僕の両手には収まり切らないぐらいの大金がこの手に……フフフ、やってやるぞ~!!
次回からは最終章【貯金~使う編】が始まりますよ。物語は一気に佳境へ向かいますので、それまでお付き合いいただけると嬉しいです。 ブヒッ!




