『再会③』 はじめまして
「やあやあ、諸君! 何やら面白い客人を連れてきたそうじゃないか!」
「「「……誰?」」」
ロールのヒステリーが収まってからしばらく、財務卿に会うための都合をつけたり部外者であるニンフィーニアの滞在許可を貰うため僕たちは学院長に会いに来た……はずだったんだけど。
出迎えてくれたのは学院長よりもずっと若く、陽気な人物だった。
「……あの、学院長は?」
「んっ? 何を言っているのかな? ここは王立学院の学院長室だよ? そこで客人を待ち構えている人物こそが学院長に決まっているじゃないか」
……なんだこの頭のおかしい奇人は。
まるで自分こそが学院長だとでも言わんばかりじゃないか。
疑いの眼差しを向けられても一切気にした様子を見せず、むしろそれを楽しんでいる雰囲気さえ感じる。
「……はぁ、いい加減にしてください学院長。生徒たちが不審がっています」
「やれや~れシャレの通じない娘だよ」
ルリスさんが頭を抱えている。
「……学院長?」
この人が?
「バカな!? その者が学院長であるはずがない!」
「……殿下の仰る通りですわ。その方は学院長ではありません」
「おや? どうしてそう思うんだい?」
「簡単なことだ。我々は学院長を知っている」
そうだ。僕たちの知る学院長はもっとよぼよぼで生きているのかどうかすら怪しいような老人だった!
「それはこれのことかな?」
「「「学院長!?」」」
ひどい!
なんてことだ!
男が椅子の陰から引っ張り出したのは力なく項垂れる学院長だった。
「おのれ……!」
「なんてひどいことを!」
「学院長!!!」
怒りと悲しみで動き出そうとした僕たちを止めたのはそれまで聞いたことがないほどのルリスさんの激しい怒号……そして突如として動き出した学院長だった。
「ひゃんじゃ?」
「うわああああっ!?」
「キャアアア!!」
「し、死体が動いたぁあああああ!!」
「はっはっは、ネタばらしの時は毎度毎度みんな良い反応をしてくれる!」
こうでなくっちゃと笑っていた。
「わ、わた、わたわたしは王立学院にょ」
そして学院長はというと空気を読まずに入学式の時と同じく壊れたレコーダーのように自己紹介を始めたではないか。
「驚いたかな? これが僕の力『操縦』だよ」
力ってことは……。
「まさか、学院長はギフト保持者なのか?」
「えっ!? そんな話聞いたことありませんわよ!」
「そりゃそうさ。誰しもが知っていたらつまらないだろう?」
「ごめんなさいね。学院長はこういう人だし、普通の生徒は会う必要性がないから正体は秘密にされていたの」
「正確には教師ですら一部にしか明かしていないんだよ?」
言われてみれば僕たちだって用事がなければ会おうなんて思わなかっただろうし……。納得できなくもないのかな?
「……あれ? でも、わかってるならなんでルリスさんは教えてくれなかったんですか?」
「そ、それは……」
「まさか教師ルリスも面白がってとかじゃないだろうな?」
「ち、ちがっ、違います! 学院長と同類にしないでください!」
「……ルリス君、何気に酷い言いぐさだね」
「はう! も、申し訳ありません!」
「では何故ですの? ここに来るまでの道すがら説明する時間は十分あったと思いますが?」
「うっ……」
「さあ、きちんと話して下さらないとわたくしたちは納得しませんわよ?」
「じ、実は……」
「実は?」
「あまりにも展開が急すぎて思考が追い付いてなかったから……です」
理由はあまりにも頓珍漢なものだった。
◇◆◇◆◇
「まあ、本来ならば休みも明け切らぬうちに面倒ごとを押し付けたのだ。教師ルリスが失念していたとしてもしょうがないことにしておこう」
もっと怒るかと思ったガッカリレオだったが、意外にもすんなりと納得していた。
「そもそもこのバカがもう少し慎重にことを進めていれば早急に段取りを整える必要はなかったのだしな」
「……ちょっと、誰がバカだよ」
「貴様だ。貴様」
失礼な。どの道いつかは財務卿と会うんだから遅かれ早かれだったと思うね!
「例え、財務卿とのアポイントが急ぎでなかったとしてもお前が考えなしに布教を始めたりすれば結果として時期は早まっただろう?」
「う゛っ!」
そ、そういえば……。
「それに今回はリムニルさんの連れて来られたニンフィーニアさんの件もあるのですからね? お忘れではありませんよね?」
「そ、それはもちろんだよ!」
ごめん正直言うと少し忘れてた。
いや、決して声を発していないから忘れてたとかじゃなくて、あまりにもドタバタしてたからその一件を忘れていたというか……。
てか、本当に今もいるよね?
「神様、これも教えを広めるための試練です! 頑張りましょう!!」
うん、いた。そして味方のはずの彼女から一番プレッシャーを受けている気がする。
そんなニンフィーニアは何故か正座だ。
どうやら僕の行動でこの世界に馴染みのない者はすべて吸収していこうという考えらしい。大人しかったのもきっと足が痺れてて声を出す余裕がなかったからだ。
「まあまあ、そんなことよりも君たちが持ってきたという面白い話題をそろそろ僕にも提供してくれないかね? 学院長なんて肩書きは立派でもやることはほとんど書類仕事で退屈なんだよ。僕が学院長になってからこの部屋を訪れたのだって生徒では君たちが初めてなんだから」
「……一人称は『私』じゃありませんでしたの?」
「細かいことさ。単にこっちの姿で『僕』だと似合わないからそうしてるだけだよ」
たしかにヨボヨボの老人で『僕』だと似合わないかも。
「それにしてもよく出来ているな。まるで本物の人間のようだ」
「でしょ! わかる? いや~嬉しいなあ。君のお父上なんて二言目には人形遊びは大概にして真面目に働けばっかり! これの良さがわかる人間は少ないよ~」
「そ、そうか? 素晴らしい出来だと思うがな……」
おぉ、滅多に褒められないからガッカリレオが喜んでるよ。
「……今、あっさり言いましたけど陛下ともお知り合いなのですね」
「それも相当近しい間柄じゃない?」
「そりゃあそうさ。ここは王立学院だよ? つまりはここのトップは実質的にも何も国王陛下その人なのだから」
なるほど。地球で言うところのオーナーと雇われ店長みたいな関係なんだ。
「……なんにせよ話を進めるか。用件は簡単だが、近々財務卿と会う必要性があるので学院外での活動の許可とこちらのニンフィーニア嬢を我々と同じ寮に住まわせることは可能かという問いに来た」
「あっ、そんなこと。全然オッケーだよ?」
「随分軽いな」
「だって、財務卿なんてお偉いさんに会うんでしょ? だったら、問題にはならないかなって。それにそっちの女の子は見ればわかるけど宗教関連の子でしょ? 我が学院はある程度宗教関係には寛大だからね」
「助かる」
「ただし、どうしてそんな面白い展開になったのかだけはきっちりと説明してもらうからね!」
◇◆◇◆◇
「ふふ~、ふふんふ~ん」
いやぁ、それにしても学院長室に生徒が尋ねて来るなんて歴史的快挙じゃないかな?
正直、この仕事を引き受けて後悔の連続だったけど、今年は面白くなりそう!
「噂には聞いてたけど、リムニル君かぁ」
彼からはどことなく他人とは思えないモノを感じるなぁ。
それに、ガリレオ君。彼のお父さんのことはよく知ってるけど、なかなか……。今日は来てなかったけど、あと3人いてしかも全員ギフト保持者。これで何かが起こらないわけがない。
「……趣味に没頭できるからって引き受けたけど、たまにはこういう面白い収穫があるのか」
学院の宗教派閥がコソコソと動いてると思ったら、彼らの思惑は大外れで手駒が取り込まれる。
その信仰対象は王族を王族と思わない態度で自分の好きなことをやっている。
王族や高位貴族である侯爵令嬢もそんな彼らのことを見下したり利用したりするんじゃなく、彼らの可能性を伸ばすために手を貸している。
「……ある意味、彼らこそがこの学院の理想なのかもしれない。――そう思いませんか?」
学院長室から通じる小部屋。そこには絵が飾られているだけだ。それも何の変哲もない肖像画が。いつもは見張られているような気分になるから極力近寄らないようにしているが、今日だけはなんだか穏やかに迎えられている気がする。
「ははっ、歴代の学院長も喜んでいるようだ」
気のせいじゃないよ。
だって、みんな笑っているんだから。
「頑張りなよ。君たちはこれだけの偉人に見守られているのだから」
僕に未来を視る力はないけれど、彼らの将来はきっと輝いている。そんな気がする。
次回ぐらいには一気に時間を飛ばして財務卿との会談に進ませてみようかと思ってます。さあ、リムニルと財務卿どちらの金への愛が勝つのか? 乞うご期待! ブヒッ!




