『リムニル』財布の番人に (祭1)
最近、夏祭り帰りの人をよく見かけます。
昔は自分もよく家族で行ったものですが、歳を取るとめっきり行く機会が減りましたね。
ということで懐かしくなったのでリムニルたちを祭に行かせてみました。
「うっわぁ~~!!」
「さあ~遊ぶわよ~!!」
「おおっ! なんて美しい女神たちっ!!」
どうも元『ぶたさん貯金箱』、リムニル3歳です。
今日、僕は常連のおじさんに誘われて家族と一緒に隣町のお祭りに来ています。
なんだかんだと生まれた町から出たことのなかった僕は大変興奮しています。
リスティとルディもはしゃいでいるようです。ただ、ルディははしゃぎ過ぎてエルに叱られているようですが…。
「お~し、子どもたち全員集合ー!」
アドニルの号令で兄弟全員が集まります。
「されでは、これから今日もお祭りで使えるお小遣いを渡す。みんな、無駄遣いをしないように」
「「「は~い!」」」
「お小遣いはひとり50ルピヨンだ! わからない時は僕やエル、それにゼウス殿に聞くこと! いいね?」
渡されたお小遣いを受け取りながら、子どもたちはニコッと笑い返事とお礼を言っていく。
というか行商人のおじさんの名前、初めて聞いたよ。
「50ルピヨンだって! 何買おうか?」
「…やはり、ここは後々楽しめる物がいいんじゃないか? ほら、珍しいモノがたくさんあるよ」
ルディは良いことを言う。
たしかに、後々楽しめる物ならば、今日の思い出の品としてもいいだろう。
惜しむらくはそのセリフは女性を見ながらではなく、ちゃんとこちらを向いて言って欲しかった。
「リスティ! オレと一緒に回ろうぜ!」
「…何言ってんだよ。リスティは僕と回るんだよ」
(おっ、どうやらリスティを巡ったバトルが勃発するようだ)
リスティに声をかけたのは、強気な方がレイ。何言ってんだ?と呆れているのがその弟のルメス。どちらもおじさんの孫らしい。
「……う~ん、どうしよっかなぁ?」
リスティはそんな二人を窺いつつ、上目づかいで見定めている。…やはりあざといな。
「あたし、お腹空いてきちゃったなぁ~」
「待ってろっ!」
「おいしいモノを買って来るね!」
たったそれだけで、二人は貰ったばかりのお金を握り緊めて立ち並ぶ屋台の群れに消えてしまった。
「……ねえさん」
「んっ? どうかした?」
ここは一言注意せねばと声をかけたものの、母を彷彿とさせる笑みに気圧されて何も言えなかった。
うん。安全第一だね!
「うがぁ~!! めんどくさいっ!!」
うぉっ!?
今度は何だ?
声のした方に目線を向けると、そこでは少女が一人憤っていた。
「……おやおや。キュリア、どうしたんだい?」
孫娘の様子に慣れているおじさんが声をかける。
「おじいちゃん! お金が多すぎて数えらんないっ!!」
そう言うキュリアの手には小さなアメが握られている。
どうやら僕がリスティたちに気を取られている間にいち早く行動し、戦利品をゲットしていたようだ。
そして、次にはおつりが多過ぎて自分が今どれぐらいのお金を持っているのかがわからなくなってしまったのだろう。
たしかに、僕たちは50ルピヨン…つまりは鉄貨1枚を貰ったが、一度何かを買えばおつりはすべて石貨で返ってくる。
リスティよりは年上に見えるが、それでもまだまだ子ども。
あまりたくさんのお金を数えるのは得意ではないらしい。
「リスティ! 買って来たぜ!」
「ちょっと、レイ邪魔! リスティは僕と食べるんだよ!!」
そうこうしているうちに、買い出しに行っていた二人が戻ってきたようだ。
レイは両手に山のように抱え込み、ルメスはトレーに入った二人で分けやすそうな商品を手にしている。
(……ふむ。ルメスは良く考えている)
お祭りという状況では、みんなで楽しめる物の方が受けがいいだろう。
それを見越したうえで、買って来たという点では女心がわかっているのはルメスということになる。
――が、甘いと言わざるを得ない。
リスティはお腹が空いたと言っただけであり、一言も一緒に食べたいなどとは言っていない。
「レイ、ありがとう! 遠慮なく貰うわね!」
つまりはこうなる。
レイからまったく遠慮することなく商品を受け取って次々口に入れていくリスティ。ルメスはそんなリスティを見ながら、敗北に打ちひしがれていた。
こうしてリスティは1ルピヨンも使うことなく、お腹を満たしていった。
「あああっ! もう、10ルピヨンもねえっ!!」
リスティからの僅かばかりの好感度の代償としてレイは自分のお小遣いを犠牲にした。
その結果、彼は祭りを楽しむためのお金の少なさに愕然としたようだ。
「……僕は、あと30ちょっと……?」
その様子を見ていたルメスも慌てて残額を確認したが、いまいち自信なさげだ。
「リム、みんなのお金を預かってあげたら?」
みんなが困っている様子なのを見かねてか、ルディがそんなことを言ってきた。
◇◆◇◆◇
「えっ…? 僕?」
突然の言葉に、一斉にみんな視線が集まる。
大人たちは僕のギフトを知っているがゆえに。
レイやルメス、それにキュリアは知らないがゆえに。
また、リスティやルディも知っているからこそなんとかできないかと期待を込めて。
その視線を受けて、僕は困ってしまった。
そりゃあ、全員のお金を預かることはできる。
ただし、預かったお金はいくら預かったか記憶しておかなければならない。
なんだかんだと言っても、僕はまだ3歳。覚えられる情報には限度がある。
一つのことを覚えるならば、なんとかなるが、複数となると難しいというのが正直な感想だ。
(……どうしよう)
期待を込めて見つめられると、裏切りにくい。
(なんとかして期待に応えねばっ!)
そう決意した時、まるでタイミングを見計らっていたかのように天の声が聞こえてきた。
《口座をお作りになりますか?》
……こうざ?
『こうざ』と言われて、頭がこんがらがった。
(こうざ? …こうざ、ねえ)
どういう意味なんだろうか?
地球にいた頃、聞いた記憶はあるんだが…。なにぶん、僕は基本的に動かなかったので得られる情報は少ない。
持ち主が、『講座に遅れる』と言っていたことがあったが……おくれるものってなんだろうか? 贈り物のことなのか?
《口座を作ることで、『貯金』したお金を細かく分別することが可能になります》
(なるほど!)
つまり、『口座』とは個別に作れる金庫のようなものなのか。
よくわからないけど、これなら問題解決だっ!
「わかりまちたっ!」
僕は元気よく答え、ひとまずルディとリスティからお金を預かった。
二人からしないと何も知らない子どもたちでは理解できないだろうと思ったのだ。
「ええっ! オレの金をどうする気だよっ!」
案の定、レイがごねてしまった。
ちなみに、キュリアは何も考えずにすっと渡してきて、ルメスも不審そうにしながらも渡してきた。
とりあえず、なんと言うべきか迷っておじさんを見つめる。
「…あ~、レイや。リムニルくんはお金を預かるギフトの持ち主なんだ」
ふっと笑みを浮かべ、おじさんは言葉を選びながらレイに説明していく。
言葉を選んでいるのはレイにわかりやすいようにだろう。
「えっ!?」
レイは驚いたように僕に顔を向ける。
(……何だ?)
「リムニルってギフト持ってたのっ!?」
どうやら単純に驚いただけらしい。
「そうだよ。リムニルくんはギフトを持ってる。つまりは、世界から愛された子どもなんだ」
世間一般で信じられていることを告げるが、レイは興奮したように「すげー」を繰り返しててんで聞いていない。
最終的にレイからも快くお金を預かり、ようやく祭りを楽しむ準備ができた。
なによりも祭りを通じて思わぬ力の発展に僕の胸は躍るのだった。
《現在の貯金額は1684ルピヨンです。内訳はレイ様8ルピヨン、ルメス様32ルピヨン、キュリア様47ルピヨン、ルディ様40ルピヨン、リスティ様50ルピヨン。残りが1507ルピヨンです》
ルディがあんなことを言い出したのは、自分がも細かく持っているのが面倒くさかったからだったということに後から気付き、やはりルディはルディだと思った。
それと同時にいつの間に買い物をして何を買っていたのだろうと首を傾げることになるのだった。
……まあ、変なモノだったらすぐにエルに見つかってわかるだろう。
リムニルは『ぶたさん貯金箱』だったので、付喪神とは言え自由に動けたわけではありません。なので彼が知らないことも多々あるということです。
次回もお祭りです。楽しみましょう!ブヒッ!
※リムニルが理解していない言葉は基本的にひらがな表記です。読みにくい場合はご意見をいただけますとありがたいです。