『初体験④』教義は平和と貯金
なんとか9月中にあげられました。
「……むぅ」
「ちょっと、離していただけません?」
困った。これは困った。
何故か僕の両サイドでヘンウェンとニンフィーニアが睨み合ってる。
「あの……」
「何? リムニル君?」
「何ですかっ神様!」
……う~ん、困った。どちらかに話を振ればどちらも食いつきそうだし、話を振る順番で喧嘩が起きそう。
助けてという視線をニンフィーニアのお爺さんに送ってみたけど、オーディンさんはふぉふぉふぉと笑って動く気配がない。
どこか満足しているみたいな顔してるけど、何なんだろう?
「言っておきますけど、リムニル様は私の神様ですよ?」
違うよ。僕は神様じゃないよ?
「……リムニル君は私の友達です。彼が迷惑してるのがわからないんですか?」
いつも自己主張の控えめなヘンウェンがこんなにハッキリ……!
驚きの方が感情を多く支配しているよ。
「なんですって!!」
そんな場合じゃなかった!
とうとうニンフィーニアがシスターらしからぬ態度でうがーと怒りを顕わに――。
「これこれ、ニンフィーニアや。それではリムニル様も困ってしまうじゃろうて。まずは、認めてもらうことが肝要じゃぞ?」
「お爺様!? いえ、大司教!」
「今はお爺様でよい。これは教会の問題ではなく、お前の信仰の問題じゃからな」
これは意外なところから助け舟でいいのかわからないけど、とりあえずこの場は凌げそうだ。
「我らは神のお許しを得てその教えを広めるのが役目。神の望まぬことをするのは信者に非ずじゃ」
だから、神様じゃないんだって。
「それはそうでした!」
ニンフィーニアも目から鱗が落ちたみたいな表情してるけど、そもそも僕は神様じゃないからね。生きたまま信仰の対象になるなんて危ない宗教団体みたいじゃないか。……よく考えればまんま宗教団体の人間だったね。
それが新興かそうじゃないかの違いだったよ。
「では、リムニル様」
「……はい」
ここは諦めが肝心。
無理難題吹っ掛けられたら、改めて断ろう。
「リムニル様の布教したいお教えとは一体なんでしょうか?」
「……布教?」
言われてもピンとこないな。
っていけない、いけない。先に断ればいいんだった。
「布教と言っても難しく考える必要はありません。あなた様がこれは素晴らしい。皆がこれを知ればもっと平和になれる……そう考えることを仰っていただければいいのです」
「そうなんですか……」
そう言われるとたしかに簡単な気がしてきた。
「そんなこと考える必要はないと思います。リムニル君は今のままで十分です」
「……はぁ。これだから素人は。いいですか? 素晴らしい教えというものは多くの人が知り、実践することでより価値が増すのです。リムニル様がいくら素晴らしい方でもお一人で新しいことを始めるのは難しいのですからね」
あぁ、喧嘩はしないで……。
だけど、そうか。
自分一人じゃ広められないことも彼女らの力を借りればなんとかなるのかも。
幸い、ニンフィーニアは僕の味方になってくれそうだし。……オーディンの方はよくわからないけど。
「私の方がリムニル君を知ってる」
「いいえ、私の方が深く理解しています!」
ええいっ、うるさい!
今、良いアイデアが出てきそうなんだっ!!
「争いは止めて! 僕の考える中に争いはない」
「はいっ! それがリムニル様の教えなのですね!」
「うん。…………あれ?」
おかしい。
何かおかしい。
今、言っちゃいけないことを口走ったような……。
「しかし、争いをしないというのは色々な教えに出てきますが、他の教えで推進される場合もあります。出来ればもう一つほど柱となる教えが欲しいですね」
やっぱり!
争いをしないでっていうのが教えの一つに数えられちゃってる!?
「ちが、今のなし」
「えっ? では、どのような教えですか?」
「いや、そもそも教えを語るような立場じゃあ……」
「――リムニル。諦めろ」
その時、肩がポンと叩かれた。
「ニンフィーニア殿はどうやら梃子でもお前を新しい信仰対象にするつもりのようだ」
「……真剣な顔で言っているところ悪いけど、今お呼びじゃないんだ」
「おいっ、仮にもオレは王子だぞ!」
わかってるけど、真面目な時ほど碌なことしないから……。
「おぉっ、聞いたかニンフィーニアよ。どなたかは知らんが、王子までお前が神の遣いに仕えることを認めてくださったようじゃ」
「……あっ」
「何、そのしまったっていう顔」
「おそらく、公的な立場のある者の宣言なので暫定的な効力が生じています。ここで断っても、正式な手続きを踏んで戻って来ると思いますよ」
ほらーーー!
だから言ったじゃん。碌なことにならないって!!
「じゃあ、決めた! 僕の教義は平和と貯金! これがモットーです!」
こうなったら、やってやるよ!
◇◆◇◆◇
「ほうほう、貯金ですか」
これはまた意外な教義じゃのう。
孫が見初めた御方じゃから悪い人ではなさそうじゃが、どういう意図があっての発言か……。
「ちょ、貯金ですか!?」
うむ、驚いておるようじゃな。
「ですが、教会の教えには無駄な蓄えは身を持ち崩すことに繋がるという教えで……」
「無駄?」
おおっ! こ、これは……!
儂にもわかるほどの神気!! いや、これは感情の流れか。
「わかってない! わかってないよ! お金を貯めることは無駄じゃない!!」
「いい? お金を貯める、貯めて貯めて使わない……これはたしかに無駄さ。だけど、お金を貯めるということは夢を蓄え、その先へ自分を導くことなんだ!」
う~む、言っておることは正しい。
たしかに何かしようと思っても、そのために必要な金銭がなければ妥協することになるからの。
「しかし、平民の方々にお金を貯めておくだけの余裕があるとは思えませんっ」
おぉ、これは食い下がるの。
実際、孫は同年代の中では世界をよく知っておる。
貧民が明日をどう生きるか迷っている状態でお金を貯められるかと言われれば否じゃからな。
「その考えが間違ってるだ!」
何じゃと!?
「そんな……!」
「貧しい民がいるのは、金を蓄えるだけで使っていない人がいるからだ! だけど、僕の貯金は違う。貯金をすれば貧しい人は貧しくなくなる!!」
「……いや、それはさすがに強引すぎるだろう」
ううむ、自称王子はああ言っておるが、もしもこの御方の考えを実現できれば世界は変わるやもしれん。まだどのようなモノか全貌を理解できんのは儂に信仰が足らないせいか、それとも考え方が突飛過ぎるのか……。
何にせよ、ただの子どもというわけでは断じてなさそうじゃな。
◇◆◇◆◇
「貯金は皆が幸せになるために使われるお金の循環だ!」
もうヤケクソだよ!
どうせ、断っても断らなくても同じなら、これからの将来設計に巻き込んでやる!
「いいかい? まず、貯金をするのはそれこそ富裕層や少しでもお金に余裕がある人たちだ」
これは大前提。
お金がないのに貯金は出来ない。
「次に預かったお金は、ただ貯めるわけじゃない」
「……と、言いますと?」
フフフ、よくぞ聞いた。
「――使う」
「使う!? ひ、人のお金をですかっ!? それは泥棒では……?」
「いいや、そうじゃない!」
僕には確信があるんだ。
「世の中には明日をどうやって生きるか迷っている人がいる、そう言ったよね。だけど、その逆にお金が余り過ぎて邪魔だと思っている不届き者も存在するんだよ!」
誰かは言わないけど、どこかの王子のようにね!
「そう言う人からのお金を使って、貧しい人の生活を改善する。そうすれば貧しい人は貧しくなくなって、働きやすくなる。つまりはお金がまた生まれる!」
バッと腕を広げ、足元にお金をばら撒く。
「おいっ、それオレの金だろう!?」
うるさいな。演出は大事なんだよ。
宗教っていうのは人々の支え、初めは騙されたと思っても最終的に救われればいいんだから。
「あぁ……後光が!」
たぶん、硬貨に反射した光だけど……。
お金は後でちゃんと回収するので問題ないというよりも器用にスキルを使って足元に落ちたのは足から回収している。
それがまたお金の循環に見えるはず!
「さあ、君も貯金を始めよう!」
「はいっ、始めます!!」
ふふっ、僕の貯金計画はもう止められないっ!
このパフォーマンスが功を奏したのか、細かいことは放っておいてくれるそうです。
というよりも孫の喜ぶ姿を見て、どうでもよくなったのかも。
当初の目的はわからないけど、僕や近くにいるガッカリ王子に接近できたしね。
ちなみに、オーディンさんも貯金に参加してくれるそうです。
「みんな仲良く貯金をする。我ながらいい教えを思いついたとものだ」
自画自賛しておこう。
元ぶたさん貯金箱の面目躍如。付喪神が現人神になってしまったと考えれば大差ない。
もうそろそろ、リムニルの村からは出発しますが次回の予定としては久し振りに能力がパワーアップします(あくまでも予定)。 ブヒッ!




