『新生活④』震えております
少し遅れました。
『え~~、じぇあるからして、こにょ王立学院は……』
……退屈。
入学式が始まって登場したお爺さん。ここの学院長っていう人の話が凄い退屈だよ。
だって、この人おんなじ話をずっと繰り返してんだもん。
「……おいおい。あの爺さん大丈夫かよ?」
「たしかに、不安ですわね」
「ずっとぷるぷる震えてるしね~。あれ、そのまま倒れるんじゃない?」
「あわっ、あわわわっ!」
「……お前たち、学院長には聞こえてないだろうが声を抑えろ。教師ルリスが周りから睨まれているぞ」
睨まれてんのは入る時の騒動のせいじゃないかな?
「皆しゃん、ご入学おめでとうごじゃいましゅ」
あっ、また最初に戻った。
◇◆◇◆◇
『……学院長はお疲れのようなので挨拶はこれまでとさせていただきます』
脇を抱えられて下がって行く学院長。
だけど、壇上にいる教師陣は全員苦笑してるな。もうちょっと慌てるのが普通じゃないのかな?
「……なんか、学院長の失態ってわりには落ち着いてるね」
「……そうだな。もしかしたら、何か思惑があるのやもしれん」
「…………はぁ」
「おい、なんだその溜息はっ!」
……いや、だって。
「ガッカ……ガリレオと同じ意見だから自信がなくなったんじゃねえの?」
「おいっ、今ガッカリと言おうとしただろう!?」
「「本当にがっかりだ(ですわ)」」
「ほら、また誰か出て来るみたいだよ?」
騒がしくすると注目されちゃうじゃん!
ここは他人のふりをして、ヘンウェンに話題を振っておこう。
「……誰かに似てるような?」
「うん。僕もそう思ってた」
誰に似てるんだろう?
僕たちに共通している人なんだからここ数日会っているんだよね?
でも、大人だとルリスさんしか会ってないと思うけど、ルリスさんとは似てないんだよな……。
「なっ、なっ、なあああああっ!?」
「がっかりうるせえ!」
「なんなの? 発狂したの?」
「……少し静かにしていただけます?」
「……まったく」
「あは、はは……」
「お、オヤジ!?」
親父?
「――って、王様!?」
「「マジで!?」」
「……まあ、王立学院なのですから陛下が来るのは当然では?」
ノリが悪いなぁ。
向こうの世界ではそんな王様が作った施設は知らないからわからないけど、普通はトップって滅多に動かないんじゃない?
「オレは何も聞いてないぞっ!?」
「「「そりゃそうだろう」」」
「身分を振りかざさない場所なのですから、息子であろうとも教える必要はないとお考えになったのでは? というより、兄上の時のことは覚えていないので?」
「う゛っ!」
図星を突かれたようだね。
――ガリレオ様は面倒なことからは全力で逃げ出す御方ですから。
あっ、今ドルーマンさんの幻聴が聞こえた気がする。
◇◆◇◆◇
『皆、我が王立学院を心から喜ばしいと思う』
『王立学院は将来、国にとって有益な働きをする者を期待していると同時に諸君らの可能性を示す場所である。どうか、皆には派閥の垣根を越えた関係を築いてもらいたい』
「……ふむ。父上も立派なことを言う」
「今更、言い繕っても意味ないよ? さっき、親父って言ってたのは皆聞いてるんだから」
「ぐぬっ!」
やっぱり、そう言う魂胆だったか。
「だ、だが、言っていることは正しいのだぞ!?」
そんなことわかってるというか、誰も国王様の言葉を疑ってなんていないよ。
疑ってるのは知ったかぶりをしているガッカリレオの言葉だけ。
「先程もそうだったが、親の身分だけでなく、派閥というのも越えなければならんからな!」
『垣根を越えるというのは年齢を重ねるほど、難しくなるものだ。例えば、余は王であるが、友もいる。その友は幼き頃から付き合いのある者や偶然の出会いから友となった者まで幅広い』
壇上では王の言葉に頷いている人たちがいる。
大人だからか、それとも彼らがその友だからか。
少なくともたくさんの経験をしてきたことが窺える言葉だ。
『しかし、中には友であっても対立する時が来る。単純な喧嘩から、あるいは意志とは関係なく所属する組織や家柄、身分といった立場からの対立の場合もあるだろう。……そのような時は対立しないことは難しい』
まあ、喧嘩ならともかく本人同士は仲良くしたいと思っていれば難しいかもね。
こっそり関係を続けるか、それとも割り切るか……。
『それでも覚えていてほしい。例え、どのような状態であろうとも友は友なのだと!』
『よって、王立学院では身分などを理由に差別、敵対することを禁止しているっ! それを破った者は例え誰であろうとも厳罰に処す。事実、先程ひとり処分を下した』
国王からの言葉にどよめきが起こる。
そりゃあ、一国の長の口から程度はわからないが不祥事が起きたと知らせられれば衝撃だろう。
「……いないな」
「いないって誰が?」
「あら? お分かりになりません? 先程、殿下にへりくだった教師ですわよ」
あぁ、言われてみれば。
ルリスさんも含めて教師も壇上に上がっているのに、彼だけはいないみたいだ。
「つまり、不祥事はあの教師ってこと?」
「……そうだろうな。おそらく、教師ルリスが報告を上げたのだろう」
それにしてもわざわざ式の直前にやらなくてもいいような気がする。
物語とかだと作為的というか、タイミングがおかしいような状況だ。
元から見計らっていたとしか思えないね。
「それぐらい、父上も本気ということだ。……これは身を引き締めねばならんな」
何かあるのだろうか?
まあ、へまをしなければ大丈夫だろう。
「うん。そうだね。ガリレオのせいで巻き込まれるのはごめんだから」
「お、オレだけではあるまい?」
釘を刺されて動揺するのは小物の証ってね。
「僕は平民だからね。いくらギフトがあっても大した問題にはならないと思うよ?」
「あら、そうとは限りませんわよ?」
関係ないと突っぱねたら思わぬところからカウンターを喰らったよ。
「……どういうこと?」
こちらは正真正銘の貴族様だ。
何かあるなら情報を仕入れておかないと。
「おい、オレの時と態度が違わないか?」
後ろでガッカリが何か言ってるけど。無視だ無視。
「ほら、例えばこの学院では大丈夫だからと身分を気にしない態度を取っていると卒業してからが大変でしょう?」
そっか。卒業したら当然、身分は元通り。
平民は平民に。貴族は貴族に。
あんなガッカリでも王子という身分に戻るのか。
「もちろん、そんなことをするのは低レベルですし、ほとんどは関わり合いにならずに終わるでしょう。可能性がないとは言えませんが、ほぼゼロと言ってもいいほどです」
「じゃあ、何が問題なのよ? ハッキリ言ったら?」
じれったい言い回しにカミアの我慢が限界に達したようだ。
ロールはその様子に呆れた目を向けると、「そういうところですわよ」と漏らしていた。
「いいですか? 身分を持ち出すことが禁止されているのは貴族だけではありませんのよ?」
「? そりゃそうでしょ? だって、ここには一応王族だっているじゃない」
何を言っているんだという態度。
ロールも頭が痛いね。
僕は大体わかったから放置してようかな?
と、思ったけどヘラクとヘンウェンもわかってなさそうだし後から説明する立場になりそうだからちゃんと聞いておこう。
「そのガッカリは置いておきなさい」
「おいっ、仮にも侯爵令嬢がそれでいいのか!?」
「……喚かないでくださいますか? で・ん・か?」
これでいいのでしょうという口調で黙らせると、話の核に触れる。
「つまり、身分を問わないのだからと平民が貴族に無礼をし、規則を盾に理不尽を働くことも禁止されているのですよ」
「……さっぱり意味わかんない。リムニル、わかる?」
ほら、来たよ。
「うん。ロールが言いたいのは、例えばさっきのニク……肉団子が言ってたように自分は偉いんだぞっていうことはもちろんだけど、平民が学院の中では貴族は何もできないだろうって脅すこともダメだよって言いたいんだよ」
うまく伝わったかな?
「別に平民はそんなことしないんじゃね?」
「いや、貴族に虐げられたことがあればしかねないよ?」
だって、学院の中では身分は対等。
卒業するまでの期間とはいえ、これは大きい。
その間に貴族に今までの鬱憤を晴らそうとする人が出てきてもおかしくはない。
ただ、そうすると貴族の権力を使用できない場面を狙っての行動になるから平民側が罰せられることがあるってこと。
「……まあ、平民は僕たちみたいなギフト保持者でも推薦って形で入学してるわけで、わざわざ不利になるようなことをする人は少ないと思うから取り越し苦労になるんじゃない?」
結局、そんなバカなことをしないだろうというのが僕の結論だ。
そのためにもわざわざ王様があんな脅すようなことを言ったんだろうしね。
次回はリムニルの母、エル以来の閑話的な裏話です。
あの人の真実が明らかに……! 乞うご期待です。 ブヒッ!




