『入学編5』女の子×王子×女の子=負け犬王子
今年もあと6日。年内にあと1話……イケる気がする!
「あんたみたいなのが、貴族じゃこの国もおしまいね!」
「ぬぁんですってぇええええ! この山育ちの野生娘がっ!」
建物の奥。
噴水の前で盛大に揉めている二人の女の子がいた。
一人はひらひらのドレスを身に纏い、いかにも貴族。
もう一人はドレスとは対照に健康的にほどよく日焼けした手足を見せつける、露出の多めの衣装をまとっている。
さらに、貴族の少女の後ろにはお付の者がいるようだが、止める様子は見られない。
「――おい、お前たちいい加減に」
そこへ颯爽と現れる王子を自称する哀れな男。
「「うるさいっ!!」」
「ぶへらぁっ!?」
「……かくして、乙女の間に入ろうとした男は為す術もなく地に沈むのだった」
「なかなかの詩人ですね」
「恐縮です」
がっかり王子の付き人ドルーマンさんからの称賛と差し出された飴を受け取りながら、倒れた王子とまるでそれがゴングであったかのように取っ組み合いのケンカを始めようとして止められる少女たちを見つめてみる。
……あぁ、今後のことを考えると頭が痛くなるよ。
彼女たちも同じ寮生だよね?
「とりあえず、アレは片付けておきますので」
……主人をアレ呼ばわりはどうかと思いますが、それよりもまさか……まさかですよね?
「リムニル様にはお二方から事情を聞いていただければ幸いです」
「……わかりました」
そうだよね。この面子だとそうなるよね。
大人は傍観=貴族子女の従者が抑えているので被害は出なさそう=子どものケンカに口を挟まない。
ヘラク=バカ。
ガッカリレオ=気絶+大バカ。
「……やだなぁ」
とりあえず、二人から話を聞いてみるしかない。
◇◆◇◆◇
「――くだらない」
「「はへぇ?」」
二人から事情を聞き終えた、正確に言うと二人の説明ではいまいち要領を得なかったので最終的にお付の人に聞いた――その感想がこれだった。
「ようするに、お嬢さまとこちらのお嬢さんはどちらが先に庭に出るかで揉めていたわけです」
そう語るのは今も自分のとこのお嬢さまを片腕で持ち上げつつ抑えている従者のメイドさん。
ルディ兄さんが作ったなんちゃってメイド服を着ているわけではない真のメイドさんだった。ただ、名前もメイドって分かり難いと思います。
「ちっがーう!!」
それに抗議の声を上げたのは空いている方の手で頭を押さえつけられ、マヌケに見える少女カミアだった。
「私が先に着いたら、この女が貴族の自分に譲るのが礼儀だって意味不明なこと言って来たのよっ!」
「意味不明とはなんですかっ!? わたくしの方が動きにくい恰好をしているのですから、あなたは入る前にわたくしに道を譲るべきだったのですわっ! このわたくし、侯爵にも名を連ねるロール・チャチマッキー! チャチマッキー家としてそれぐらいは譲っていただくべきでしたわっ!!」
……うん。すっごいくだらない。
ついでに言うと、チャチマッキーって言い難い。
というよりも本当は縦巻きじゃないよね? その硬そうなドリルを差してるんじゃないよね?
「お嬢さまは目的地が一緒だと気付いた段階で、ドレスの裾なんて気にせず走り出しておりました」
「……メイドさん、そういうことはもう少し声を小さくして言った方がいいのでは?」
ほら、お宅のお嬢さまが怒りで震えてますよ。
「……これは失礼」
メイドさんもそれに気付いたのか、一応の謝罪を告げる。うん、本当に一応だね。全然気持ちが篭もっていないのは初対面の僕にもわかるよ。
「いえいえ、お嬢さまを侮辱などしておりませんよ? ただ、さすがはお嬢さまと思っただけです」
「……くぅ、後で覚えてなさいよ!」
「…………まあ、今はとりあえずはじめましての挨拶をしておこうか? って言っても、一人のびてるけど……」
「ふんっ! あの程度で倒れるなんて情けない殿方ですこと!」
うん。情けないのは否定しない。あえて否定するなら、がっかりだよ?
「……君には言われたくないだろうけど、いいの?」
「……………? 何がですの?」
聞き方が抽象的すぎたか。
これにはロールだけでなく、カミアも首を傾げているようだ。実際はカミアは頭を押さえられてるから傾げることはできなかったんだけど、そこはニュアンスだよね!
「いや、だってアレ一応は王子だから」
「……はっ??」
「――ぷっ! あーはっはっは! 笑わせないでよもぅ~!」
対照な反応だなぁ……。
ロールは思考が追い付いてなくて、カミアは端から嘘だと決めつけてる。
「……たしかに、国王様や第1王子とお姿が似ているような気がしますね」
「「!!」」
おっ、二人から緊張が伝わってくる。
「どどど、どうしようっ!? わ、私……王子様にあんなこと…………いや、でもあれが王子かぁ」
そうでもなかったか。
気持ちは分からなくもないけど、王子だと認識した上でガッカリされるってなかなかないと思うね。
「……はぁ。まあ、どうでもいいですわ」
おや。こちらは意外。
王族ってこの国の頂点だし、貴族の彼女からすれば直属の上下関係があると思ってたんだけど。思いの外というか想像できないぐらいあっさりした反応だった。
「学院では身分は考慮しない。それが国王様や歴代の王族の方々が提唱していることですもの。ならば、臣下としてそれに従うのがわたくしの役目ですわ」
いいこと言ってる風に聞こえるけど、さっきは身分を持ち出してたよね?
「――そういうことだ」
「あれ? 起きたんだガッカリ」
「オレの名前をそっちで固定するなっ!」
「王立学院では身分を振りかざしてはならぬ。先達がそう言っていたように、オレもそれには従う。だから、王族としてお前たちに罰を与えることはしない」
「あ~、そうですかぁ……」
「…………」
(軽っ!? カミア、もう少し感動というものを……。それにしても、ロールは無言かぁ。何か考えてるのかな?)
「そのうえで学院に通う間はクラスメートだからな! 個人的な復讐はするからそのつもりでいろっ!」
「うっわ、器ちっさ……!」
「……まったくですね。仮にも王族の一員が情けない」
「王族とか関係なしに女にやられた時点でなぁ……。しかも、それで復讐ってお前……」
あぁ~、そっか。
ロールはこれを予測してたんだなぁ……。
だとしたら、貴族って面倒。そして、王族って鬱陶しい。
「それにしても、クラスメートにギフト持ちが三人に貴族が一人、王族が一人か……。教師ルリス、このクラスはこれで全員か?」
「いえ、もう一人女の子がいますよ。……ただ、まだ到着はしていないようですね」
「えっ!? クラスってたったの六人なの!?」
思ってたより少ないなぁ。
「ふっふっふ! では説明してやろうっ!」
うっわぁ~、また無駄に張り切っちゃったよ。
こうして王子の講義後半戦が始まるのだった。
◇◆◇◆◇
「この学院では、一つの寮に教師が一人、そして数名の生徒という形式を取っている。これは卒業まで変わることはない」
「基本的に寮内では自分のことは自分で、また各寮の掃除なども自分で行う。と言っても、大半が高位貴族。オレやロール嬢のように供を連れている者ばかりなので問題はない」
「なんでそんな制度にしてるんだ? ハッキリ言って、人材の無駄じゃない?」
それよりも大人数でまとめていた方が楽だと思う。
「まあ、疑問に思うのも無理はない。だが、これには王国の政治的な事情が絡んでくる」
「あっ、面倒な話はわかんないからパスで!」
「オレも!」
カミアとヘラク、どうやらこの二人はバカらしい。
「僕も面倒なことは聞きたくないからいいや」
だけど、一応便乗しておこう。
「あなたたち……」
あっ、やめて僕をこの二人と同類と見なさないで!
「――ですが、わたくしもそういう話は遠慮したく思います」
「お、お前ら……!」
おぉ~。
まさかのロールの裏切りでガッカリ王子がさらに凹んだ!
「……まあいい。簡単に言うと、卒業生を働かせるためだ」
……?
「……どういうこと?」
「ったく、いいか? この学院の生徒は何回も言うが、ほとんどが貴族だ。だが、学院を卒業したからと言って貴族はすぐに職があるわけではない」
「……? 貴族だったら、別に働かなくてもいいんじゃないの?」
「そうそう。だって、金持ってんだろ?」
「いや、そうじゃないだろ」
頓珍漢な方向の答えを出した平民二人。まあ、僕も平民だけど……。
「たしかに貴族は平民に比べれば金を持っている。だが、それも王国の運営という仕事に携わっているからだ。さすがに無職で親や家の金を当てにしていては財が底を尽きるのは時間の問題……かと言って全員に仕事を与えられるかというとそうではない」
「……予算が問題ってこと? 具体的には給金かな?」
「そうですよ。さすがはリムニル君。コイーンから聞いていた通り、お金に関しての頭が回るみたいですね」
まあ、任せてよ!
「そう、全員を適正な仕事に就かせるだけの金はない。それにポストもな」
「上の地位に行くほど、しがみ付いて放さないものですからねぇ……」
これまたしみじみと。
コイーンさんも上に目障りな人がいるってことかな?
「ではどうするかということで学院が考え出したのが後輩たちの指導という仕事だ。まあ、さすがに学院を卒業してすぐというわけにはいかんが、数年たって成人しても家を継ぐ可能性のない者たちには仕事を与えている」
「しかも、教師は望むポジションが空けば優先してもらえるので入れ替わりも結構激しいんです。在学中に担当がころころと変わることもありますよ」
「年々、門戸を広くしてより多くの生徒を集めているしな。平民の数も年々増加し、優秀な者が増えてきている。喜ばしいことだ」
おおっ! 初めて王子らしいことを。
「それに何よりも学院は無駄に広い土地を持っているからな! これもすべて『圧縮』のおかげよ!!」
「……さっきから出て来るそのギフトはどんな力なんだ?」
「ああ、そう言えば説明の途中でしたね!」
ガッカリ王子に丸投げしようとして、使えなかっただけですけどね。
「わかりやすく言えば、空間の距離を縮めるというものだ。しかも、その空間の中には許可を受けた者でないと入ることもできない。完璧な結界というやつかもしれんな」
「じゃあ、ここに入れなかったのも……」
「そういうことだ。王立学院ならば、鍵と呪文が必要だ」
「そういやあ、あんたさっき変なこと言ってたよな? たしか……忘れた!」
「は、はは……。ヘラク君、君も使うようになるんだからできれば覚えてくれよ?」
「――その前に、あなたの鍵は回収します」
「うわぁ……このタイミングで言う?」
「当たり前です! そもそも、学院の関係者と生徒以外は持っていちゃいけない物なんですからね。引率ということで特別に……」
言い争う声を遮るようにガッカリ王子が咳払いしたことでその場は気まずそうに鍵を返すコイーンさんだった。
「その者の在籍時、学院は襲撃を受けてな。まあ、貴重なギフト保持者を集めていたからなのだが……」
「……その人はそれ以降、自己保身のために学院に結界を張りました。気付かなかったかもしれませんが、この学院は丘の上ではなく山全体を使って作られているんですよ?」
「山っ!?」
「なんてこった……! 全然気付かなかったぜ」
「そんな凄い力を持ってたんだぁ~」
「記録によると碌でもない人間だったらしいがな。自己中心的で権力を嫌う割に、自分の為ならばいくらでも利用する。……敵も多かっただろう」
「まるでガリレオ様のようですね」
「どういう意味だっ!?」
「その人は結局その後どうしたんですか?」
「当時は戦争が激しい時期でしたので、ある大戦で力を使う見返りとして隠居したと言われています」
「……その後の消息は不明でしたね。噂では広大な土地を買ってその土地を隠すようにしたと聞いたけど、事実は不明だよ」
「まあ、お前たちが気にする必要はない。そいつの結界は王宮にもあるが、仕事を引き受けるのにもいくつも要求を突き付けてきおって……! 王家ではそいつの話をするのは業腹なのだ!」
「(王家は民のためにそのお心を砕いて砕いて国の発展を願っておりますが、かの者は王家の依頼でも自分に関係のない人々を助けようとは決してしませんでした)」
「(……なるほど。その力があれば民の生活はもっとマシになっていた。それを考えての怒りですか)」
ドルーマンさんがこそっと教えてくれたが、このガッカリ王子も王家としての誇りがあるんだろうな。
なんだかんだでさっきもケンカを止めようとしたぐらいだし。
民思いなのは間違いないな。
「その恩恵を受けて安心して学院生活が送れるんですからよしとしましょう! さあ、最後の一人を待って新生活を始めましょう!」
「「「お~!!」」」
門出にはいい日だ。
やる気が漲ってくる。
「……あっ、あなたはさっさと仕事に戻りなさい?」
「はぃ」
教師らしい口調で婚約者に叱られたコイーンさんはしゅんとして帰っていくのだった。
なんとかギフトの説明も出来たので、あとは1話で最後の寮生を出して入学編は終わりにする予定です。 ブヒッ!




