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萌える漢になるために  作者: 〆田 鯖男
3/3

なめてました

 都内のファミレスでメガネ小学生と一緒に食事。


 文字面だけでもヤバいだろ。とりあえず会話だ。


 「あの初めまして、作家の池野鮎彦と申します。今日は時間のない中ありがとうございます。」


 「こっこっこっ、こちらこそ。私は甘塩 鮭子です。あのラノベを書いてまして。」


 担当編集の星川さんの話によるとオレの目の前に座っているこの甘塩さんは大人気ラノベ作家らしいが中学生なのだろか。ラノベはティーンズノベル。十代の作家が書いていても不思議じゃない。 しかしなんで緊張しているんだこの子。


 「あの鮎彦先生」


 甲高い若すぎる声ではなしかけてきた。その声で続ける。


「鮎彦先生の『喋る頭』を読んで感銘を受けました。だから先生がラノベ挑戦で苦しんでるって担当のひとから聞いてそれでその、あの、力になりたくて』


 今日逢ってくれた、そういうことか。『喋る頭』は三年前書いたものだ、内容はかなりアナーキーなものだったのに彼女わかったのかなぁ。聞いてみよう。


 「読んだのっていくつ位のときかな」


 「私が大学四年のときです」


 え、この子天才だったの。何回飛び級したらそうなるんだ。そう思ってしまう程彼女は幼かった。だから目の前の黒い艶のあるキュートなボブヘアーのその子にこう尋ねた。


 「今何歳」


 「こ、ことしでにじゅうごです。」


 ・・・・・


 ショックでラノベを教えてもらうとかどうでもよくなった。


 いや、こんなことで諦めてたまるかオレはライトノベルを書いて売れっ子作家デビューするんだ。聞こう。ライトノベルのことを。童顔についてはまた後で考えよう。いや、敢えて聞こう。童顔のことを。


 頭の中が崩壊のオレが一方的な沈黙を続ける。それを破ったのは彼女だった。


 「あの鮎彦さんはラノベ、好きですか嫌いですか絶対怒ったりしないので正直に聞かせてください」


 彼女の真剣な雰囲気が伝わって、オレは考えて答えることができた。


 「オレはそんなに今のライトノベルのありかたが好きじゃないんです。ゲームやアニメにインスパイアされたものが多いし、書き手の個性を感じとれないものが多いし。それになんかそのオタクの人達の欲望だけを満たす作品ばかり目立つ気がするんです。小説ってそうじゃなくて読者に『夢』を持たせるのが」


 「つまりラノベはくだらないって言いたいんですね」


 怒られても仕方ない。でも正直な気持ちだ。


 次に彼女が言った言葉は以外だった。


 「私も同じようにくだらないと思います。」


 「私の作品も先生がいったようにゲームとかに出てくる設定のものが多いです。てもそうした設定にするのは読者が喜ぶからだけじゃないんです。私は、私達ラノベ作家は好きなんですゲームが、アニメが、漫画が、安い恋愛が、メイドが、萌えが、ラノベが。それだけなんです、くだらなくてもなんでも好きだから書いてるんです。」


 彼女の輝く瞳の中には、悔しいくらいの綺麗な光の粒が見える。とても可愛らしくて、尊い光。素敵な熱がある彼女に見とれていてまた黙ってしまっていた。


 彼女はそれからいろんなことをオレに教えてくれた。今のラノベのこととかゲームとか。


 喋りだすと止まらない彼女はオレに対する緊張が溶けはじめた頃こんな話をしてきた。


 「例えば、今私がこのパフェを食べる音、鮎彦先生ならどう書きますか」


 「うーん、『モグモグ』とか『パクパク』かな」


 「でも現実の音は」


    『んっちゃ、くちゃ、ぴぴ、んぐ』


 童顔の女性の咀嚼の音を聴くなんてちょっとなぁ。でも鮭子さんは真剣だ。オレも真剣に聴いた。


 「この音を小説の食事のシーンにそのまま文字にして使ったとして、読者はリアルに感じると思いますか」


 答えは簡単。


 「いや、それはないと思います。だってこの音は『鮭子さんが今パフェを食べてる音』だから読者には共感できない。」


 「私もそう考えます。ライトノベルの似たようなに感じる設定や表現も同じなんです。たとえ現実から離れている設定や表現でも十代、二十代の人が共感するものがラノベにはあるんです。萌え、ハーレム、ダンジョンが彼ら、私達にはリアルなんだと感じれる。それを敏感に察知できたり、そこから新しいことができたりするのがライトノベルの面白さだと思うんです」


 なんかラノベが無性に読みたくなってきた。これも彼女の力なのか。もっとこの人と話したい。


 でももう夕方の6時。家に帰らなきゃ。


 「あの鮭子さん、今日はとっても勉強になりました、あのこれ連絡先ッスどうぞ。じゃそろそろ帰ります今日はありがとうございました。」


 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのこれ、私の本、よかったら読んでくだしゃい」


 急に顔を赤らめた鮭子さんは本を一冊渡して、会計をすませ店を急いで出ていった。経費で会計を済ませたところで鮭子さんが大人の女性だと確認できた。


 それからの帰りの歩き道で気づいたことがあった。


 そうだ、小説は面白さ以外なにも必要ないんだって鮭子さんと話して思い出した。小説家になる前は、自己満だったかもしれないけど自分が面白いと思うものだけを書いてた。くだらなくても、幼児なものでも。賢い作品とか考えさせられる作品に取り憑かれたのはいつからだろう。そうだ最近だ、テレビや小説評論誌なんかに出てる賢いゴミみたいな言葉に酔いはじめた最近だ。


 もう一度、好きなものを書こう。そう気づけたのは鮭子さんのおかげだ。


 それにしても鮭子さん、あの顔と背丈のわりに胸おおきかったなぁ。そんなことより早く鮭子さんの本読みたいなぁ。


 そうこう考える内に我が家の玄関だ。あ、そうだ家の鍵あいつに貸しっぱなしだった。


 『ピンポーン』 


 「鯵美、アジちゃん、いるか」


 あいつ寝てるかな。


 『ガチャ』


 「おかえりぃ、のっくん。早かったね」


 「ただいま、鯵ちゃん」


 











 







 

 




 


 



 

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