005 お世辞マシーン
異世界に転移されたからと言って、明の方向性は何も変わらない。根っからの悪人を成敗して民を救うのが明の流儀だ。これまでもそうしてきたし、恐らくこれからも人助けを生業として生活をしていくだろう。この世界にどれだけいられるかは不明だが、とにかくこの一戦がその先駆けになりそうな気配がしていた。相変わらず目の前の男は堂々とした態度をして明を睨み付けている。こいつがエレナの両親を殺した張本人だと一瞬で把握可能な程、悪人顔をしているのだ。ここまで『人殺ししてますよ』感に溢れている人間を見るのは初めてじゃないが、そうだとしても凄まじい人相をしている。人間の性格は顔に出るとよく言われているが、まさしくその典型的なパターンである。
「俺の名前は玖雅明だ。この村をお前が支配していると聞いてやって来たが、熱い歓迎をもたらされたよ。お前の部下は手強い連中だった」
勿論、これはリップサービスだった。明ぐらいの人生成功者になると口から簡単にお世辞が出てくるようになる。それは誰しもが明に称賛の言葉を傾けてくるからだ。自分ばかり褒められても全く嬉しくないので、お返しに相手を褒めようとする気持ちが、明をお世辞マシーンへと姿を変えさせた。