033 汚らわしい笑み
かつては超人無敵のキングオブエクソシストと呼ばれた明も老いには決して勝てなかった。人間はどうあがいても年齢を重ねて着実に死を迎える。近年は不老不死の存在も明らかになっているが、可哀想な存在でしか無い。不老不死の個体は数少ないので愛した人間に先立たれる惨めな人生がある。命は限りがあるから大切なのだと誰かが言っていたような気がするが、まさしくその通りだと明は思っていた。だから老いて衰退期に突入するのが人間らしくて好きだった。昔のように上手くはいかないが、培ってきた経験を元に騙し騙しやっていく。ミドルエイジになってからは衰退期も悪くは無いと感じていた。昔は恐怖など微塵も感じずにミッションを達成してきた。どんな強敵が相手でも真っ向勝負を挑み、苦しい戦況をも乗り越えてきた。それが自信となって今に繋がっている。だから目の前の現実から逃げる訳にはいかなった。たとえ目の前の老婆が超高速再生能力を持っていると言えど、恐れを抱いてはいかない。そう決意した明はぬいぐるみの顔を外して自分の顔をさらけ出した。そして老婆を睨み付けながら発声していた。
「お前のような人間が世界を崩壊に招くんだよ。人の足を引っ張る事しか脳の無い人間には粛清が必要だ。俺の言っている意味が分かるか? そうだ、お前に言ってるんだよ……醜い醜い老婆め。その汚らわしい笑いを今すぐ止めろ。これ以上、俺に殺意の炎を生み出させる気か」
冷静沈着な明が珍しく感情をあらわにしていた。それぐらい目の前の老婆は世界に必要とされていない人物だった。人の物を盗んで他人が困っているのを見てヘラヘラと薄ら笑いを浮かぶ。そんな人間には生きる価値など無い。法律を平気で破るような人間には天誅が下るべきだと明は確信していた。しかし、そんな明とは裏腹に、眼前の老婆は汚らわしい笑顔を絶やさない。その笑顔が何よりも不気味なのを知らないのだろうか。
「あたしに命令出来るのはあたしだけだよ。あんたみたいな頑固一徹のおっさんには何の興味も湧かん。あたしが満足するのは若い男の温もりだけさね……あたしの言動が嫌いならさっきみたいに殴り飛ばせばいい。でも、あたしはまた復活するよ。たとえミンチになるまで殴られようとも、肉片が残っていればそこから再生するのさ……イヒヒヒヒ」
老婆の笑い方は童話に出てくる意地悪バアサンのようだ。その笑い方に怒りが収まらない明だったが、確かに彼女の言う通りだ。奴をどんなに殴った所で再生されてお終いである。体力を消耗するだけでメリットなど無いのだから。




