023 女老害、再び
目の前に横たわっているのは間違いなく女老害だった。この醜く腫れあがり、しわくちゃになっている顔を忘れるものか。と、明は一瞬攻撃に躊躇した。悪人を成敗する気持ちよりも何故、女老害が颯爽と駆けて盗みを働いていたのか、そこに疑問を感じてしまったからだ。先程、女老害のアバラをへし折って再起不能にさせた。にも関わらず、眼前の女老害はピンピンした様子だ。明が疑問に思うのも無理は無かった訳である。しばらくの間、無言で女老害を見ていると、後ろから足音が聞こえた。一瞬だけ振り返ると、後ろからエレナが迫っていた。「ハアハア」と息を荒くして歩幅を速めている。どうやら100メートルを9秒台で走る明の俊足に、付いてくるのだがやっとのようだ。
「あきらしゃん……早すぎますよ」
彼女は口から涎を垂れ流し、鼻から鼻水を覗かせていた。どうやら急な運動をしたせいでゲロゲロしてしまったようだ。彼女の嘔吐癖はどうにかならないのかと、明は思わず項垂れてしまう。あそこまで虚弱体質をしていると先が思いやられるからだ。しかし今はそれどころでは無い。明は、左手を前に突き出して手招きをし、エレナに近づいてくるよう指示を出す。
「こっちに来い。哀れな道化を見せてやる」
無論、道化とは女老害の事である。エレナはそうとも知らないで、吐しゃ物を吐きだしたばかりのゲロ顔を赤く染め、口角を上げていた。どうやら彼女は本物の道化がいると思い込んだ様だ。あまりの純粋っぷりに明も肩を落として意気消沈せざる終えない。
「え、こんな場所にピエロさんがいるんですか!」
「そんな顔をされて言うのは何だが……例え話だ。現実を見てくれ」
明は自身の体を右に傾けて、見えやすいようにした。無論、右手では女老害の首を掴んで逃げないように拘束して。すると、先程までルンルン気分になっていたエレナは愕然とした表情に変わっていた。女老害の顔を見るなり、地面に尻もちを着いてペタンと座り込んでいた。良く見ると、口元をアワアワと震わせているではないか。
「さっきの当たり屋じゃないですか……な、な、なんでここに!」
「驚くのはそこじゃない。俺が与えたダメージが完全に修復しているところだ」
この女老害に関しては信用性は低いが、こうして女老害の顔を間近見ていると不吉な気分に陥る。それだけは確かだった。彼女の醜い顔は悪人にふさわしく、まるでファンタジーコミックの世界から出てきた魔女のような見た目をしているのだ。




