013 ナイフはナイフでは無い
明とエレナは共に次の村に向かおうとしていた。ところが目の前には女老害の詐欺師が聳え立っていて、先に進ませようとしない。これには明の憤りを感じざる終えない。目の前の女老害はしわくちゃな顔をしている癖に髪色を染めて若作りをしているのがよく分かる。こういう人間は自分がまだ若いと思い込んでいるので、若者を騙そうとしているのが見え見えだ。今回に限っては相手が明だから通用しないだろうが、これ以上こんな奴に時間を掛けるのは無駄だと思い、明とエレナは素通りしていた。すると女老害は怒り狂った様子で吠えながら走ってきたではないか。ドスドスドスと音を立てながら近づいてくる音が本物の老害を彷彿させている。明はやれやれと思いながら後ろを振り返ると、次の瞬間には女老害の姿形が変わっていた。なんと、彼女はオオカミの姿になっていたのだ。これには明も驚きを隠せないまま手首を噛まれていた。
「……この雌狼が!」
さすがの明も人外が相手では容赦しなかった。オオカミの腹を思いっきり蹴りあげた。するとオオカミは地面に激突し、次の瞬間には元の女老害の姿形に戻っていた。今度は本当にアバラが折れてしまったようで、目に大粒の涙を浮かべながら嗚咽を漏らしていた。先に襲ってきたのは紛れも無く女老害なのだが、やはり痛がっている姿を見ていると痛々しくなってくる。
「あんた……頭おかしいんか! なんであたしに攻撃するの!」
「お前が正真正銘の老害だからだ。老害はこの世から根絶されるべき対象の一人だ。アバラの二三本が折れただけでマシだと思え」
明はそう言い残してその場から去ろうとした。ところが女老害は右手にナイフを握って渾身の力を振り絞るかのように殴り掛かってきた。女老害にとっては渾身の一撃のつもりだろうが明にとっては痛くもかゆくもない。明の右拳にナイフが当たった瞬間、ナイフは音を立てて割れ散った。
「そんな……嘘やろ。あたしナイフで攻撃したのに!」
そもそも本当にそれがナイフなのか甚だ疑問である。異世界に存在しているナイフが鋭利で切れ味の高いなど誰にも分からない。だからこそ明には通用しなかった。自分が生活していた世界とは全く違う異世界なのに、そこに存在しているのが自分と同じ世界のナイフだと言い切れるはずもない。
「お前は武器に頼りすぎている。もう少し自分の体術に自信を持ったらどうだ? もっともそのしわくちゃな見た目ではもう修行に耐えるのは無理のようだが」




