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カルネージルーラー  作者: 鈴堂アキラ
プロローグ
1/21

プロローグ~前篇~

 終焉とは斯くも唐突だ。

 どれほど続きを期待し望もうとも、終わりは本人の意思とは無関係に訪れる。

 事故死による一瞬も、余命を宣告された緩慢も、先の生を断りも無く奪われるという意味では等しく唐突である。

 それは、個人の枠を超えた終焉だとしても例外ではない。


 それが、母星――地球の終焉であったとしても。


 1


 時間に直すのならば、余命3時間といったところだろう。

 この3時間が地球の、延いては全人類に残された寿命なのだ。

 現在、地球は天変地異と呼ぶに相応しい、未曽有の大災害に見舞われていた。

 無数の竜巻、数え切れない新種の伝染病。津波に地震に地割れ。大気圏外からは、まるで吸い寄せられたかのように隕石群が地球へと向かっている。極め付けは3時間後に発生すると予想される、原因不明のブラックホールである。

 何故これほどまでの大災害が発生したかについては、専門家や科学者は首を捻るばかりである。


 口を揃えてただ一言。唐突もしくは突然。


 以前から計測結果に些細な変化が生じ、あらゆる計算や調査はしてきたが、劇的な変化が起こったのはつい先日である。

 そのために準備が遅れ、全てが後手に回ってしまったのだ。

 本日明朝には急造のシャトルが各国の名立たる為政者や研究者を乗せ、大気圏外へと脱出を試みたのだが、同時に先行していた小隕石群の餌食となり、空に大輪の華を咲かせた。

 徹底的なまでの偶然の殲滅は、残された人類に絶望と諦観を強いるには十分であった。


 自暴自棄となった人類は、自身が望む最後を求めて始めた。

 ――ある者は晩餐を。

 ――ある老夫婦は一足先の安楽へ。

 ――ある集団は神への祈りを。

 ――ある者は悪欲の限りを。

 ――ある者は仮想世界への逃避を選んだ。

 人類に残された正確な時間は3時間16分。

 まるで神の怒りに触れた人類に、それこそ最期に許された慈悲の時間は、刻々とゼロへと進む――。


 2


「――我々は最期の瞬間まで報道を続けます! それが報道に携わる者としての覚悟であると共に、最後まで皆さんの目となって、地球の行く末をお伝えします!」


 未だに中継放送が続く画面には中年男性のリポーターが、小隕石群が大気圏で斑に染める茜色の空を背景に捲し立てる。それこそ壊れたラジカセのように幾度も。


「――世界の終焉……か」


 暴動に飲み込まれた映像を最後に、中継が途絶えた画面に、顔色一つ変えずにポツリと呟く男。

 引き籠りの20代前半の青年。それが今の彼を表す全てだ。


 彼はそのまま歩き出し、迷うことなく眼前の椅子に座る。

 目の前には机があり、その下にはPCが置かれ、机の上にはコントローラとヘッドマウントディスプレイが置かれていた。

 ヘッドマウントディスプレイを頭部に装着した青年は、慣れた指捌きでコントローラを容易く操作していく。


 一通りの操作を終えた青年は、少しだけ名残惜しそうにコントローラを撫でてから、そっと机の上に戻した。もう二度と、このコントローラに触ることは無いだろう。

 ディスプレイの向こうでは、透明な背景に浮かぶ起動準備に入ったことを示す白色のパーセンテージが、勢い良く数字を変えていく。


 絶望しかないこの世界でも、青年にとって僥倖とも呼べる出来事が二つあった。

 一つは電気供給。

 供給は可能な限り続けることが政府と電力会社から、記者会見の場で発表された。内臓バッテリーでも2時間しか持たないので、途中で現実に戻される心配は無い。

 もう一つは大災害と小隕石群。

 大災害の影響は青年の住む地区では比較的に少なく、小隕石群の衝突コースからも外れている。


 これで青年が望む『仮想世界で迎える人生の終焉』を妨げる要素は、殆ど無くなったと考えていいだろう。

 敢えて不安要素を上げるのなら、暴徒が闖入して来る可能性があることぐらいだ。


(このまま、誰にも邪魔されずに人生を終えたいな)


 一度だけ目を瞑り、再び目を開けた時には、数字の代わりに『GAME START』の文字が大きく表示されていた。


「さあ、つまらない人生の最期を飾ろう――」


 現実への別れを告げると共に、死出の旅立ちへと向けて眼前の光景が一瞬で暗転した。

 世界設定その1

 

 舞台は近未来。世界情勢は第三次世界大戦の気運が高まりつつある。主人公の国である日本は今のところは戦争非参加。大災害は世界大戦勃発直後に発生している。

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