バトルの肉付け4-スピード感-
本項こそ、このエッセイの全ての内容の中で最も実践的、かつ最も重要な部分だと僕は思います。
恐らく多くの方にとって“目から鱗”の内容であり、この内容のみの掲載だったとしても、本作は存在価値が見いだせるのではないかと。
戦闘シーンの激しさを演出する上で、最も効果的な方法、それはスピード感を出すことです。
これ、口で言うのは簡単ですが実際やるとなるとすごく難しいことだと思います。
漫画なら、効果線を書く、書きこみを多くする、線を太くする、などいくらでも方法は思いつきます。
しかし文章でスピード感を表現するとは、一体どうしたらいいのでしょう。
ここでまず考えたいことは、小説におけるスピード感とはどういうものなのか、ということです。
イメージしてみてください。
お気に入りの小説の、お気に入りの戦闘シーン、それを読んでいる時のあなたを。
きっと、物語世界に入り込んで一心不乱にページをめくっていることでしょう。
または、画面を、スクロールさせているかもしれません。
この何気ないアクション。
何気ない、“ページをめくる”動作。
これ、操作することが出来ないでしょうか。
いまひとつ、ピンと来ませんか?
端的に言ってしまいましょう。
戦闘シーンのスピード感は、“余白”で演出する!!
手抜きか!?
いいえ、違います。
わざと、読者のページをめくる動作を速めてしまおうということです。
読書に熱中している時、私たちの読む速度というのはどんどん早くなると思います。
そして戦闘シーンは、例えば設定を説明しているページに比べて余白が多くなっていませんか?
続きが気になる⇒早く読む⇒戦闘シーンに突入する⇒余白が多い⇒更に読むペースが上がる
こういう流れが自然と出来あがっていること、多くないですか?
ページをめくるスピードが速くなると、なんだか話の展開もスピーディーに感じませんか。
反対に、せっかく盛り上がる戦闘シーンがぶわーっと長文で埋め尽くされていてウンザリした経験はありませんか。
僕は、戦闘シーンこそ一文一文を短くすべきだと考えます。
そして余白を、出来るだけ多く取ってしまうのです。
自分の書いた戦闘シーンに、スピード感が足りないかなと思う時、まずは余分なものを削る作業をしてみましょう。
パソコンで執筆をしている方なら、最低でも画面上の半分以上は余白になるようにしてみてください。
情報は、出来るだけ箇条書きに近い形にします。一文に、多くの情報が載らないように。
例えば、複数のモンスター相手に次々と火炎魔法をぶつけていく場面。
オレは、素早く火炎魔法を詠唱し、眼前に迫るモンスターに狙いを定めた。
そいつを一撃で火だるまにすると、横手から現れたもう一体に向き直り、更に呪文を詠唱する。
森の奥から、続々と新手のモンスターが出てくる。
これでは、キリがない。
このような感じで4行。これでも文章としてはそれなりにスッキリしていますので、そのまま採用もアリだと思いますが、これをもっと、短くしてみます。
オレの眼前。
モンスターが迫る。
火炎魔法、詠唱。
爆炎。
モンスターが火だるまになる。
横手からさらにもう一体。
いや……それだけじゃない。
森の奥から続々と。
チッ。
キリがない!
これで10行。いかがでしょうか。スピード感、どちらがありますか?
余白を多く取ることの利点は、実はスピード感が演出しやすいということだけではありません。
この短い文章の中に一つだけ、長文を入れてみるとどうなるでしょう。
オレの眼前。
モンスターが迫る。
火炎魔法、詠唱。
爆炎。
モンスターが火だるまになる。
横手からさらにもう一体。
いや……それだけじゃない。
ここはモンスターの湧きポイントが複数設定されたエリア、しかも湧いてくるモンスターの平均レベルも高いために、危険度はこれまでより遥かに上だ。
森の奥から続々と。
チッ。
キリがない!
一つだけ長い文章が混ざっていると、よく目立ちますね。よく目立つということは、よく意識してもらえるということです。よく、読者の記憶に残るということです。
それに加え、文章全体にアクセントを加えることにもなります。
一定速度で進む物事には、人間すぐに慣れてしまいます。
そこで、時折このような長文を挟むことで読者に一度感覚のリセットを促し、刺激を持続させるわけです。
ただ単に速くするだけではなく、“タメ”を作り、スピード感の中にも起伏を用意すること。
これを心がけてみましょう。
さて今回は以上となります。
それでは皆さま、またの機会に!