バトルの肉付け1-強調-
前回、シンプルな形のベース文を作っていく過程のお話をしました。今回はそれに少しずつ肉付け、装飾を行っていき、より小説的読み味が増すようにしてみましょう。
前回使用した例文をもう一度、書き出してみます
オレは、スライムを、中距離から、基本的な火炎魔法で、一撃で、倒した。
この文は意図的にパーツを分けて読点で区切っています。
まずはこの読点全て取り払ってみます。
オレはスライムを中距離から基本的な火炎魔法で一撃で倒した。
読点だらけの文よりいくらか綺麗な感じがしますね。ですが、これだと情報の単なる羅列であり小説的読み味はほとんどありません。ではどこか一か所だけ読点を入れてみると、どうなるでしょう。例えばこのような形です。
オレは、スライムを中距離から基本的な火炎魔法で一撃で倒した。
オレはスライムを中距離から、基本的な火炎魔法で一撃で倒した。
オレはスライムを中距離から基本的な火炎魔法で、一撃で倒した。
読点の後に続く単語が、文章中で最もよく印象に残りませんか?あるいは読点の直前の単語が、最もよく印象に残る方もおられるでしょう。
心理学では、ある複数のワードの中で最初に提示されたものをよく覚えていることを初頭効果、最後に提示されたものをよく覚えていることを親近効果と呼びます。
心理学的考察はあまり深くやるとくどいので省略しますが、文章の味わいの中で最も簡単に操作しやすいのは実は句読点の場所、回数だったりします。
それもそのはず、別に何か特別な内容を追加しなくても、ただ、。を打つだけで読み手の印象をガラリと(は言い過ぎか)変えることが可能なのです。
ところで前回作った例文の設定を覚えていますか?
ファンタジー世界に飛ばされた主人公が最初の戦闘で基本的な魔法スキルを使おうとする場合、でしたね。
この状況設定に基づいて考える時、例文の中で最も適切なものはどれでしょう。これは、作者の好みによって異なるため正解というものはありませんが、私なら、3番目の文を選びたいところです。
理由は、読点の前後に“基本的な火炎魔法”と“一撃で”というワードが並んでいるからです。
作中最初の戦闘ということなら、主人公が現在どれくらいの戦闘能力があるのか、読者にしっかり伝えなければなりません。そこで、初頭効果と親近効果に基づいて、この二つのワードを強調したいというわけです。
さて、初頭効果、親近効果はもう少し応用が利きます。例文の並びを変えてみましょう。
一撃で、オレはスライムを中距離から基本的な火炎魔法で倒した。
基本的な火炎魔法で、オレはスライムを中距離から一撃で倒した。
こうしてみると、二つの心理的効果がよりくっきりと見えるのではないでしょうか。前者は、とにかく一撃で倒したという事実を強調したい時にオススメ。後者は、基本的な火炎魔法を使ったのだということを強調したい時にオススメです。
更に、この二つのワードを極めて強く、読者に印象付けしたいならば、
基本的な火炎魔法で、一撃で、オレはスライムを中距離から倒した。
と、読点を二個使ってみるとよいでしょう。畳みかけるような文章で強調したい個所がより鮮明になっています。
複数の文章から成る長文の戦闘シーンにおいても、こういった句読点の操作、言葉の並び変えは威力を発揮します。例えばこのような文はどうでしょう。
オレは、火炎魔法を詠唱した。
紅蓮の炎が、モンスターの全身を瞬く間に包み込む。
モンスターは、爆発四散した。
火炎魔法でモンスターを倒すシーンです。
この三つの文は、時系列順に並んでいます。
つまり、主人公が魔法を唱え、それによって生じた炎がモンスターを包んで、モンスターを倒すという、時間の流れに沿った書き方です。一番、素直な表現方法と言えます。
これを、少しいじってみます。
モンスターは、爆発四散した。
オレが詠唱した火炎魔法、その紅蓮の炎が、モンスターの全身を瞬く間に呑み込んだからである。
並び変え、そしてちょっとした修正を加えてみました。今回は時系列順にはせず、先に結果を書いています。
ここではモンスターを倒したという事実を文頭に持ってきて強調し、その上で、読者の興味を喚起しています。
時系列順に並んだ文章は、読者にとって最も親切ではありますが、往々にして平板な印象を与えてしまいます。そこであえて時系列を逆転させ、結果を先に書くことで読者を面食らわせることができるのです。
このような変化球を時折混ぜておくと、戦闘シーンに深みが増し、刺激的な物語になるかなと思います。
さて、肉付けと言いつつ、特に肉を付けずに終わった今回、いかがだったでしょうか。
こんな感じでしばらくは、戦闘シーンの肉付けについて語っていこうと考えています。
では、また次回!