バトルの肉付け7-擬音-
本項においては読者の感覚的な理解を優先する為、擬音語も擬声語も擬態語なども、オノマトペについては一律に“擬音”と書かせていただきます。ご了承ください。
日本語には他の言語と比べて非常に多くの擬音が存在します。
かねてより文学の世界においては擬音の多用は文章として美しくないものと考えられてきました。
一方、ライトノベルの業界は擬音の使用について寛容であり積極的です。
同様に、なろう小説においても、擬音は多用されている、と言えると思います。
このエッセイはなろう小説を念頭に解説を行っていますので、擬音の使用については全然オッケーだと考えています。
戦闘シーンについてはむしろ、擬音の使い方一つで印象がガラリと変わると言っていいほど、擬音が重要であろうと僕は思っています。
では効果的な擬音の使い方とはどのようなものでしょうか。
ここでまず、なろう小説にメジャーな擬音の使い方を紹介してみようと思います。
キャラのセリフ⇒擬音⇒相手キャラのセリフ⇒結果
多分このような感じになると思います。
具体例を示してみると、
「剣技!絶刀乱舞!!」
キンキンキィン!!
「バ、バカな!?この俺様がーっ!!」
敵は倒れた。
こんな感じでしょうか。
一応これで話は通じるので問題があるかと言われれば特に問題なしと言えなくもないかと思います。が、この展開が何度も何度も続くと、さすがに読者も辟易するでしょう。
チートスキルで無双する話はいつの時代も人気ですが、なろう小説における戦闘描写は一般書籍と比べてお世辞にも優れているとは言えません。
上記の例文についても、これがもし店頭に並んでいる書籍化作品であれば酷評されると思います。現にこの手の内容で書籍化されてネットのレビューが大荒れした作品が過去にありましたね。
このエッセイをここまで読んで下さった方ならば、上記の例文にどういう問題点があるかご自身で気付けると思います。そして改善の仕方、迫力の出し方についてもご自身で考えることが出来るようになっているのではないでしょうか?
その上で僕は今回、擬音を効果的に用いて更に戦闘シーンの文章をスタイリッシュにしてみようと思います。
擬音の独壇場と言えばやはりマンガでしょう。マンガこそ、擬音が最大限効果を発揮する舞台だと言って過言ではありません。音と絵が同じページに載っているのですから、視覚的には両者は完全に同期した存在として映ります。
一方小説においては、擬音と地の文やセリフの位置関係には必ずズレが生じます。タイムラグ、と言ってもいいかもしれません。両者を同時に、読者が読むことは不可能です。
ということは、擬音を提示した時に読者の脳裏にはまだ何の絵も浮かんでいないかもしれませんし、先に絵が浮かんでいるにも関わらず不適切な擬音によって音と映像に乖離が生まれてしまうかもしれません。
そこで、僕は擬音を用いる際にはなるべく、前項で述べたように、その擬音が文章全体から浮かび上がるようにします。
その時、俺の剣が空間を駆け抜けた。
キィン。
狙い澄ました一撃が敵を両断する。
このような感じで、地の文と地の文の間に余白を一行以上取った形で擬音をサンドします。すると、行為と行為の間に擬音が置かれることで、読者の脳内のイメージ、そしてその進行に寄り添う形で音を提示できるので、読みやすさと場面間のシームレスさを演出できるというわけです。
更に一捻り加えたい場合ですと、
キィン。
その時、俺の剣が空間を駆け抜けた。
狙い澄ました一撃が敵を両断する。
というように頭に擬音を持ってくることも大いにアリです。こっちのケースですと、擬音そのものが正に文章をいきなり断ち切る形で割り込んでくることで視覚的にも読者に面喰わせつつ、“何かが起こった”感を強く印象付けることになるでしょう。そして以降の文章での解説を読んで読者は納得できるわけです。
では最後に個人的に気に入っている変化球なパターンも紹介しておきましょう。
俺の剣が空間を、
キィン。
駆け抜けた。
このように、読点と続きの文の間に無理矢理擬音を挟みます。
するとよりスピード感、スリル感が際立つと思います。
これを一人称における独白パートで行いますと、
どういう攻撃が襲ってきたのか、それがわからな
キィン。
瞬間、更なる斬撃!
以上のように、主人公の思考そのものを途中で切り裂いて擬音が割り込んでくることによる緊張感を存分に表現できます。未知なる攻撃による恐怖、焦燥感、そして畳み掛けるようなピンチの演出、戦闘シーンを盛り上げることに、擬音が大いに貢献しています。
その他にも作者独自の擬音哲学によるおもしろい使い方はたくさんあると思います。
日本語で文章を書くのなら、豊富なオノマトペを研究してみる価値は十分にあるでしょう。
ここで気を付けたいことは、擬音は出来るだけ典型的なものを選ぶ、ということです。
上記の、キィン、なんかもそうですが、一般的にイメージしやすい擬音を選択する方が読者に伝わりやすいです。剣で敵を斬る場面で、ドゴッ、などという擬音を使うと、殴打かな?などと思われかねません。
ここは事前に何度か同じ擬音を作中に登場させておいて、読者にイメージを固めさせておくのがより慎重な策でしょう。
以上、擬音は戦闘シーンの大事な要素の一つです。
本項は僕の独自研究による解説なので役に立つかどうかは微妙なところですが、戦闘シーンを書き慣れていない作者様の執筆の一助になれば幸いです。
それではまた、次回にお会いしましょう!