特別な力
間に合わなかった。アイツの腕はパックリと割れ、黒々とした赤い血が噴水の様に吹き出して………って…あれ? 血が出て無いって言うか、切れて無い……
「どうして……?」
首を傾げている俺に
「だから、僕は切ろうとしても切れないんだよ。幼い頃から…。不思議だよね」
「へっ‥、へぇ~。じゃあもしかして俺の胃が丈夫なのも何か特別な力なのか?」
「うん、そうかも知れないね。だから選ばれたんじゃない? ここのコックに」
「何の為に?」
「来たる、『終末の時』の為に……」
「お前、…何か知ってんのか?」
「さぁ。詳しくは知らない」
もしかして俺もここの囚人同様、気付かない内に捕らわれていたのか?
だとしたら、すんなり納得出来る。大体こんな料理もマトモに出来ない俺より、料理の上手いヤツは幾らでも居るだろうし、別に俺じゃ無くても良い訳だし。何よりここの給料は破格だった。相場の五倍ぐらい、俺の家族は貰っているはずだ。
「たまに来る手紙にも、生活が楽に成ったって書いてあったし…」
考えが言葉に成って発せられてしまっている。
「何? 手紙? 誰から?」
『手紙』に異常な反応を示すアイツ。声のトーンが非常に低い。
「えっと…」
「今すぐそいつを殺しに行く」
「ちょっ、ちょっと待って」
「駄目。君は僕のモノだから誰にも渡さない。今すぐ惨殺しに行く」
王子なコイツに対して、俺は背が低く、顔もお世辞にも綺麗とは言えないし、色黒だし髪もボサボサだ。コイツは、俺のどこを気に入ったのかサッパリ解らない。
「あぁ、あの…」
アイツの身体がワナワナと震える。
「俺の家族からの手紙だよ! この前見ただろ?」
「俺が十五の時に父ちゃんが死んじまって、母ちゃんも病気がちで働けなくて、だから長男の俺が仕事探して、……やっとここで雇って貰えたんだ。ここって給料良かったし…」
「そうなんだ。思ったより苦労しているんだね。大丈夫だよ。殺さないでいて上げるから」
次の投稿は……早ければあさって、遅くて来週の月曜日に成るかもです。済みません。




