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囚人と厨房係  作者: いとか おる
9/21

特別な力

 間に合わなかった。アイツの腕はパックリと割れ、黒々とした赤い血が噴水の様に吹き出して………って…あれ? 血が出て無いって言うか、切れて無い……


「どうして……?」


 首を傾げている俺に


「だから、僕は切ろうとしても切れないんだよ。幼い頃から…。不思議だよね」


「へっ‥、へぇ~。じゃあもしかして俺の胃が丈夫なのも何か特別な力なのか?」


「うん、そうかも知れないね。だから選ばれたんじゃない? ここのコックに」


「何の為に?」


「来たる、『終末の時』の為に……」


「お前、…何か知ってんのか?」


「さぁ。詳しくは知らない」



 もしかして俺もここの囚人同様、気付かない内に捕らわれていたのか?


 だとしたら、すんなり納得出来る。大体こんな料理もマトモに出来ない俺より、料理の上手いヤツは幾らでも居るだろうし、別に俺じゃ無くても良い訳だし。何よりここの給料は破格だった。相場の五倍ぐらい、俺の家族は貰っているはずだ。


「たまに来る手紙にも、生活が楽に成ったって書いてあったし…」


 考えが言葉に成って発せられてしまっている。


「何? 手紙? 誰から?」


 『手紙』に異常な反応を示すアイツ。声のトーンが非常に低い。


「えっと…」


「今すぐそいつを殺しに行く」


「ちょっ、ちょっと待って」


「駄目。君は僕のモノだから誰にも渡さない。今すぐ惨殺しに行く」




 王子なコイツに対して、俺は背が低く、顔もお世辞にも綺麗とは言えないし、色黒だし髪もボサボサだ。コイツは、俺のどこを気に入ったのかサッパリ解らない。



「あぁ、あの…」


 アイツの身体がワナワナと震える。


「俺の家族からの手紙だよ! この前見ただろ?」


「俺が十五の時に父ちゃんが死んじまって、母ちゃんも病気がちで働けなくて、だから長男の俺が仕事探して、……やっとここで雇って貰えたんだ。ここって給料良かったし…」


「そうなんだ。思ったより苦労しているんだね。大丈夫だよ。殺さないでいて上げるから」











次の投稿は……早ければあさって、遅くて来週の月曜日に成るかもです。済みません。




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