言い争い
「僕は、料理人だよ。一度は最高峰の名声も手に入れた。調理道具は料理人にとって命だ。殺人の武器になんて、絶対にしない。誓うよ」
囚人に成ったかつての料理人は、とても紳士的に、俺の信用を得る様に爽やかに笑ったのだった。
「うおぉぉぉい、めし係ぃ。最近メシが旨く成ったなあぁぁ。お陰で、便所に駆け込まずに済むぞおぉぉぉ」
「お前の臭かったもんな。ハハハハ」
「うっせえよ、お前もだろ」
「あぁ。皆、臭かった。わはははは…」
大分離れた独房から、大声で怒鳴る様な声が聞こえてくる。俺は、あはははと頭を掻いた。
一週間が過ぎた頃だった。
アイツは、黒々とした火掻き棒を手に、無表情で、独房に一番近い場所までツカツカと歩み寄った。そして、鉄格子をガンガン叩きだした。
「黙れ、この子に話し掛けるな! 殺されたいのか!!」
「ハァァァア? お前誰だあぁぁぁ。殺れるもんなら殺ってみろ ごら゛あ゛ぁぁぁ!」
「そうだ、そうだ、こっち来てみろ!」
「ほらほら どうしたあぁぁ」
「来られる物なら来てみろ!」
と挑発の声が止まない。
もう‥、恐いよ! 恐過ぎるよ! 誰か助けてぇーーー
「ぶっ殺す」
一言 言って、鉄格子を揺さぶり始めた。ガチャガチャと鉄の擦れる音が激しく響いた。
この厨房は、囚人が脱走しても中に入れない様に、ぐるりと鉄格子で取り囲まれている。ここには武器に成る物が豊富にあるのだ。
余りの煩さに看守達が駆け付けた。
「静かにしろ! 037号」
「煩い。お前も殺されたいのか!」
尚もガタガタ音を立てる。いつもの綺麗で優しそうな顔が、醜く歪んでまるで鬼のようだった。
「仕方無い」
看守は、腰にぶら下げてある、プラスチック性の黒い小さな箱を手に持ち、中央の赤い丸のボタンをポチッと押した。
途端にアイツは、「うわあぁぁぁぁ」と絶叫し、バタリと倒れた。独房の方でも同じような叫び声が上がりバタバタと何かが倒れる音がした。
なっ…何だ?