異変
あの日から俺たちは、二人だけの時は名前で呼び合う様に成った。と言っても、主にアイツだけが俺の名前を呼ぶ。誰かが居ると絶対に呼ばない。誰にも知られたく無いらしい。
「最初の頃からすると、だいぶ上達したねぇ」
アイツは良く俺の事を誉めてくれる。
「そりゃ、先生が良いからだよ」
と言うとアイツははにかんで俯いてしまった。
そんな顔されると、こっちが困るし!
「…あの頃は、どんな料理の仕方やってたの?」
「うんとね……砂糖と塩を入れ間違うのはざらだったし、薄力粉と重曹を間違ったり、タバスコだけで味付けしたり。それから……」
と、俺の言葉を聞くごとにその顔は徐々に険しく成って行く。
「………それは………凄いね………」
レイラは囚人たちに、ちょっとだけ同情したのだった。
「でも今は、お前のお陰で旨く成ったって言われたし。有ん難なっ!」
星夜は屈託の無い笑顔を向ける。レイラは茹で蛸の様に真っ赤に成ってしまった。
…いや、ちょっと誉めたぐらいでそんな顔されたら、俺は一体どうすりゃ良いんだよ……。ハグするとか? 頬っぺにチュッとか……いやいや、駄目だ。そんな事して調子付がせた日にゃあ、俺は絶対に後悔する事に成る。と悶々と考える。
ご褒美をあげようと考える時点で、レイラに嵌まってるって事じゃないのか! と突っ込みたくなるのは作者だけでは無い筈だ。
そんな事を考えていると、看守が慌ててやって来た。
「どうしたんですか? 看守さん」
看守は言葉も無く茫然と立ち尽くしている。
「顔色、悪いよ?」
「……空が……」
それだけ言って、檻の前まで行き解錠し、囚人たちを解放してしまった。
「看守たちも…能力者だった…。俺たちも、終末の時の為に集められた様だ…」
看守はそう言って、囚人たちの首輪の鍵を外し始めた。
「どうして?」
「もう…必要無いんだよ」
看守は悲し気に微笑んでいる。その時が来てしまったのか。戦わなければならないのか。地獄の猛者達に…果たして俺たちは、勝てるのか……




