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囚人と厨房係  作者: いとか おる
16/21

異変

 あの日から俺たちは、二人だけの時は名前で呼び合う様に成った。と言っても、主にアイツだけが俺の名前を呼ぶ。誰かが居ると絶対に呼ばない。誰にも知られたく無いらしい。



「最初の頃からすると、だいぶ上達したねぇ」


 アイツは良く俺の事を誉めてくれる。


「そりゃ、先生が良いからだよ」


 と言うとアイツははにかんで俯いてしまった。


 そんな顔されると、こっちが困るし!


「…あの頃は、どんな料理の仕方やってたの?」

「うんとね……砂糖と塩を入れ間違うのはざらだったし、薄力粉と重曹を間違ったり、タバスコだけで味付けしたり。それから……」


 と、俺の言葉を聞くごとにその顔は徐々に険しく成って行く。


「………それは………凄いね………」


 レイラは囚人たちに、ちょっとだけ同情したのだった。


「でも今は、お前のお陰で旨く成ったって言われたし。有ん難なっ!」


 星夜は屈託の無い笑顔を向ける。レイラは茹で蛸の様に真っ赤に成ってしまった。


 …いや、ちょっと誉めたぐらいでそんな顔されたら、俺は一体どうすりゃ良いんだよ……。ハグするとか? 頬っぺにチュッとか……いやいや、駄目だ。そんな事して調子付がせた日にゃあ、俺は絶対に後悔する事に成る。と悶々と考える。


 ご褒美をあげようと考える時点で、レイラにまってるって事じゃないのか! と突っ込みたくなるのは作者だけでは無い筈だ。





 そんな事を考えていると、看守が慌ててやって来た。


「どうしたんですか? 看守さん」


 看守は言葉も無く茫然と立ち尽くしている。


「顔色、悪いよ?」



「……空が……」


 それだけ言って、檻の前まで行き解錠し、囚人たちを解放してしまった。


「看守たちも…能力者だった…。俺たちも、終末の時の為に集められた様だ…」


 看守はそう言って、囚人たちの首輪の鍵を外し始めた。


「どうして?」


「もう…必要無いんだよ」


 看守は悲し気に微笑んでいる。その時が来てしまったのか。戦わなければならないのか。地獄の猛者達に…果たして俺たちは、勝てるのか……









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