第二話
それは小学校三年生の夏休み。
母親の実家に行っていた時だ。
こっそり大好きだった幼馴染の女の子と、仲良く肝試しに夜の学校に行ったのが原因だった。
今なら、怪しい大人な事を期待したかもしれないが、当時は一緒に肝試しに行くというだけでドキドキしてしまった。
ハイテンションなまま、僕たち二人は夜の学校に着いた。
登校日だった昼間に、廊下やトイレの何箇所か、鍵を開けて置いたらしく、結局その一箇所の女子トイレから忍び込んだ。
もう僕の頭の中は、ドキドキしっぱなしだった。
女子トイレと言うだけで、何か入ってはいけない神聖な場所だと思っていたから、
彼女に入るように促されても少し躊躇ってしまった。
それで、手を掴まれて強引に入って行ったのだが、平気で入っていく彼女が頼もしかった。
夜の学校に加え、女子トイレ、さらに、好きな女の子に手を掴まれて、正直、頭の中がパニックしていたんだろう。
「ここの鏡にね、夜中にライトを当てると……」
そう言いながら、昼間ですらほとんど人が通らない廊下の等身大の鏡に、彼女がライトを当てる。
相変わらず僕の手首を掴んだままの二人が写る。
「いい、まだよ……。そのままよ……あと数分ね」
なんでも夜中の0時丁度に、鏡の中に二人の未来の姿が写るらしい。
「あと10秒……8、7、6……キャーー」
カウントダウンをはじめて、5という前に、突如ライトが切れる。
懐中電灯が、彼女の手から離れ廊下でクルクル回っている。
青と赤のコスチュームを纏ったダイナマイトボディの綺麗な高校生ぐらいのおばさんが、僕と彼女を抱き抱えて、廊下を飛んでいた。
鏡面からは、ウネウネしたイソギンチャクの化け物みたいなモノが、飛び出していた。
「ちっ……」
屋上まで出てきて、僕たち二人を下ろすと、おばさんの腕は、一筋の赤い傷が出来ていた。
「あんた、私のパワーをやるから、私の変わりに正義の味方をやりな。」
突然、訳の分からない事を彼女に言う。
しかし、彼女は……。
「えーーーん、えーーーん。もうイヤーーーイヤイヤーもう帰るーー」
頼もしく思っていたが、どうやら僕と同じくドキドキしていたのだろう。
それで予想外の展開に、気持ちと理性が整理つかないのだろう。
ただ、泣きながら首を振るだけだ。
しかし、時間がなかった。
「何をしているの!!!このまま死にたいの?時間がないの、早くわたしを受け入れなさい!」
「いや、いや、いやーーー」
どこからか、ズンズンズンと足音のような音がだんだん近づいてくる。
それに、苛立つおばさん。
「ち、仕方ない。それなら、無理やりにでも……」
そういって、彼女に手を伸ばした時、僕は我に返った
「おばさん、何をするー。手を出すな!それなら、僕が受け入れてやる!」
あの時は、自分が何を言っているのかも、よく分かっていなかった。
ただ懸命だった。
大好きな彼女の事を守る事に懸命だった。
おばさんは一瞬馬鹿にしたように微笑み、まあいいかと呟くと、僕と彼女の頭に手を置くと、光った。
その瞬間、僕と彼女は、入れ替わり、おばさんはボクと完全に同化していなくなっていた。
光が収まると、屋上の扉をバケモノが抜けて来たところだった。
「記念すべき最初の敵は、お前か」
ボクは、ボク達を恐怖に陥れたバケモノを睨んでいた。
それまでの恐怖の欠片も存在しない。
ボクは変身を意識すると、外見は彼女だったそれから、さっきのおばさんに変わった。
そして、彼女も僕として生きてきた偽の記憶を上書きされ、その日の出来事は記憶から消された。
ボクは、完全に彼女の記憶から消えたはずだった。
しかも元々小学校が別々だった事もあり、もう二度と会うこともないと思っていた。
こうしてボク……いや、わたしの戦いは孤独に始まったはずだった。