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その瞳に宿すものは  作者: aoshishi
第Ⅰ章 誕生~幼少期
9/11

リムの決意とフィーネの決意

お待ちしていた方、すみませんでした。

遅々とした展開ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

では、どうぞ。

「リム様、儀式の会場に向かう前に身嗜(みだしな)みの確認を致します。」

「うん、お願いね、フィーネ。」

「はい、お任せください。」

いよいよこの日がやってきた。俺の今後を左右する魔術適正が分かる日、判断儀式の日だ。昨日は心獣たちと話をした後、フィーネの鼻血の池騒動でゴタゴタして疲れてしまった。そのままあっという間に夜になってしまい、今日のことで緊張する暇も無く寝てしまった。そのお陰か、頭はすっきりしているし、焦りとかもあまり感じられない。少し緊張はしているけど。

「…はい、大丈夫ですね。問題ありません。リム様ご自身だけでお召し換えなさるのも大分手馴れてまいられましたね。」

「うん、そりゃあもう。2年もやっていたら慣れもするよ。」

「私としては少し残ね…、いえ、もったいな…、でもなく、…ん、んん。傍仕えの身としては仕事をさせてもらえず、少し物足りません。もっと私を頼りにされても良いのですが…。」

「…うん、大丈夫。十分に頼りにしているから。」

最近フィーネさんに着替えを任すとやたらと身体同士が密着させてくるから気恥ずかしいのだ。しかも俺の匂いを嗅いでいるような気配もしたし…。うん、気にしない、気にしない。まあ、前から一人で着替えるようにしていたが、最近はほとんど一人で着替えている。原因はフィーネさんの鼻血。着替えている途中に頭から浴びたことがあったからだ。びびったわ、あの時は。


 半年前くらいだったろうか。

 ある日の朝、着替えの手伝いをお願いしていたら、急にフィーネが、

「これは…、まさか…。」

と何かに驚いたような態度を取ったので、何事かと思い、

「どうかしたの?フィーネ。」

と聞いても、

「…ああ、この魔力(マナウィス)は…。」

とか、

「…まずいわ、まずいわ、まずいわ、とにかく落ち着くのよ、私。」

とか、

「ああ、でもダメ。見れば見るほど可愛らしい…、はぁ…はぁっ。」

とか、なんだか錯乱し始めたような雰囲気になってきたと思ったら、突然、

「もう、ダメ~!!」

と叫び、同時に

ブッッッッー!

と、鼻血を噴出したのだ。なぜ噴出したのが分かったかというと、俺がそれを浴びたからだ、頭の上から。フィーネが俺の真正面に立っていたので、まともに浴びた。最初何が起きたか分からなかったが、血独特の匂いと浴びた血の生暖かさで気付くに至った。それと同時に正面でフィーネがバタンッ、と倒れる音がした。それからは大変だった。俺もしばらく呆けていたが、一緒に居たランゲの慌てている様子で我に返り、フィーネに声を掛けても、

「うふ、うふふ…。」

という反応しか返って来ず、ランゲに急いで人を呼びに行ってもらった。さらに助けに来た人も、フィーネが倒れている、しかも俺は血まみれ(フィーネの愛まみれ)でいるのを見て、気を動転させてまた一騒動。結局、母さんたちが来るまで現場は荒れに荒れた。あれはホントに疲れた…。それからフィーネは治療のため別室に運ばれ、俺は風呂場で浴びた血を洗い流すことになった。しばらくが経ち、別室で休んでいたフィーネは戻るなり、「本当に申し訳ありませんでした!」と、ものすごい勢いで謝罪してきた。たぶん土下座していたと思う。かなり反省してたようなので、許してあげたが。その後はなぜか一緒に戻ってきていた母さんたちと言葉を交わしたと思ったら、今度は深刻そうな雰囲気になり、

「…少し席を外します。」

といい、3人で部屋から出て行ってしまった。あれは一体なんだったのだろうか?


 そんな昔のことを思い出していると、

「リム様、準備も整いましたし会場に向かいましょうか。」

とフィーネから声が掛かった。

「うん、じゃあ行こうか。」

そう言う俺にフィーネが歩行の補助用の杖を手渡しながら、

「…リム様。私はこれから何があろうと、ずっとリム様の味方です。ですから、今日に儀式の結果、どのような立場に置かれましても、私はいつまでもリム様の侍女でございます。」

と、決意を秘めた言葉を掛けてきた。不意にそんな言葉を放つフィーネに疑問を持ち、

「いきなりどうしたの?急にそんなことを言うなんて。何かあったの?」

と聞くと、

「いえ、何でもありません。さあ、急ぎましょう。皆様がお待ちです。」

と、はぐらかされてしまった。

{なんかすっきりしないな。ほんとどうしたんだろう?}

そんなことを思いながら、俺はフィーネの足音に先導されて、儀式の会場へと向かうことにした。


「それにしても、リム様はすごいと思います。。」

「えっ?いきなりどうしたの?」

儀式の会場となる別館へと移動している途中、フィーネが話しかけてきた。

「いえ、目が見えないにも関わらず、自分ひとりで何事もなさろうと、いろいろと挑戦して、失敗しても諦めずに努力をしていらっしゃいます。お召し換えにしても歩くことに関しても。」

「そうかなぁ。普通じゃないかな?自分で自分のことをしようとするのは。」

「そうでしょうか?私がもし目が見えず、リム様のようなお立場でしたら周りに頼って生活していると思いますよ。」

「うーん…、まあ人それぞれじゃないかな。俺も始めはフィーネや母様達に頼っていたけど、なんかこのままじゃいけないなって思うようになったんだよ。」

「そうなのですか?…と、少々おまちください。」

外へと出る扉が開く音がする。

「お待たせしました、段差がありますのでお気をつけください。」

「うん、ありがとう。」

室内は絨毯が敷き詰めてあり、フワフワとした感触を歩く度に感じていたが、外は石が敷き詰めてある。たまに段差があるので、杖を頼りに気をつけながら足を進める。いつかは杖なしても歩けるようになりたい。外の空気を胸に吸い込むと、初夏の空気が胸を満たした。そういえば、前世でもこの時期に生まれたんだっけ、と不意にそんなことを思い出していると、

「先程の会話の続きなのですが。」

とフィーネが話しかけてきた。

「どうしてこのままではいけないとお思いになられたのですか?」

ふむ、フィーネには理由を話してもいいかな?

「うん、フィーネには話してもいいけど、みんなには秘密にしてね。」

と前置きをしつつ、誰にも話していなかった俺の意思を伝えることにした。

「俺、10歳になったらこの家を出ようと思うんだ。」


「俺、10歳になったらこの家を出ようと思うんだ。」

リム様の突然の言葉に私は歩みを止めました。後ろから追いかけるように響いていた足音も間を空けて止まりました。その意味を問おうと振り向き、私はリム様と向かい合いました。

「…どうしてですか?」

突然のことで頭が追いつかなず、次に出てきた言葉は先程の発言の意味を問うものでした。

「うん、理由は色々あるよ。まだ、時間大丈夫かな?」

「…大丈夫です。少し早めに部屋を出ましたから。」

「…そうなんだ。」

先程までは聞こえてきた初夏になると鳴き出す虫達の声を耳から追い出し、リム様の次の声を待ちました。

「うん、じゃあいいか。そんなに大した理由じゃないよ。そうだなぁ、一番の理由は”冒険者”になっていろんなところに行ってみたいということかな。」

無言で続きの言葉を待つ。天から指す日差しが少し暑い。その暑さで私の心はジリジリと焦がされる。心配していたことが当たってしまっているような予感がします。

「楽しそうって思うようになったんだ。フィーネの冒険者時代だった頃の話とか冒険者の本を読んでもらっているうちにさ。自分でもいろんなとこに行きたいって。目は見えないけど、なれない訳じゃないでしょ?冒険者の中には片腕の人も居る、片目が見えない人も居るって話してくれたでしょ?」

「でも!でもそれは人同士や魔物(モンスター)との戦いの中で失った場合であって…!」

「うん、わかってる。元からそういう障害というか、五体に不足がある人がなるような職業じゃないことは承知しているよ。」

「では、なぜ…!?」

「自分で自分の限界を決めたくなかったんだ。”目が見えなくてもやれることがあることを証明してやりたい”ってこともあって冒険者になりたいんだけどね。」

リム様がこちらに顔を向けながら5歳には思えない微笑みお浮かべ、その表情のまま言葉を続けます。

「冒険者になりたいこと、自分の限界を決めたくないこと。このふたつのことは”目が見えなくてもやれることがあることを証明してやりたい”って思いがあってそう思うようになったんだ。」

「なぜ”目が見えなくてもやれることがあると証明しよう”と思われたのですか?」

疑問が口から無意識のうちに出ていた。なぜかそれを聞かなくてはいけない。そんな気がしたからなのでしょうか?

「…うん、そうだね…。」

顔を伏せ、私の疑問に答えることを少し躊躇なされて、やはり先程と同じような表情のまま、

「フレムハルト家に生まれたことの義務とかこの家の中での俺の立場というかなんというか、そういうことだよ。」

この言葉で私はやはり気付いていらっしゃいましたか、と心配していたことが当たっていたと思うのと同時に、まだ5歳になったばかりであるにも関わらず、そこのことに気付くリム様の聡明さに内心で動揺をしていました。マグナス様は事がある度にフレムハルト家の家訓、貴族とはこうあるべきであるという教訓を子供達に言い聞かせています。そのことを幼いながらも理解してしまっているのでしょう。それにこの家の中での立場というのはおそらく周囲から自分がどのように見られているか理解してしまっている、ということでしょう。それはつまり「役立たずで邪魔にしかならない四男」として扱われていることを。目が見えず武を重んじる家にありながら、戦うことが出来ないとされ、火を象徴に掲げる貴族でありながら、黒い髪を持っている。そのことで当主であるマグナス様からは疎まれている。それをリム様が理解なされていることは今ここではっきりした。では、なぜ…。

「そのことは物心付いた頃から薄々気付いては居たんだけどね…。最近ははっきり自覚するようになったよ、みんなの俺への接し方とかからさ…。だからというかなんというか。それが悔しかったんだ。お前は役に立てないと無言で言われているみたいで。それが嫌なんだ、我慢できないんだ。」

一息開けて自分の決意を述べるように、先程の私の疑問の答えをなさいました。

「…だからさ、それの考えは間違っている、俺はなんだって出来るんだ。俺のことは俺が決める、周囲が俺の可能性を決めるな!ってことを証明してやろうって思ったんだ。この家で俺のことを邪魔者扱いしている人みんなに対して”目に見えなくても戦えること”を。そのためには自分の力が最も試される”冒険者”になることが一番良いんじゃないかって考えるようになったんだ。」


 いままで心の中に秘めていた考えをフィーネに話す。俺がこの屋敷の中でどういう風に思われているかは、理解できたつもりだ。「邪魔者」。つまりはそういうこと。父様にとっては俺は貴族としての役割を果たせない邪魔者として俺を見るようになってきているようだ。リリューナ姉様も父様と同じ考え方を持っているようだ。更にフォルナス兄様、フィグハルト兄様は、母様たちが俺の目の問題を解決するために時間を使うため幼い頃からあまり構ってもらえず、何かと俺のことを優先するため、嫉妬心を持ってしまったようだ。そのため、最近ではあまり話しかけても貰えなくなってしまった。それとフィーネ以外の家に仕えている人たちもほとんどが俺に距離を置いて接している。おそらく父様達から反感を買い、職を失うかもしれないと考えているのだろう。俺が今置かれている状況はあまり良いものではないだろう。

 でも、そんな状況の中でも母様達、マグフォルト兄様、フィーネ、その他数人の侍女、執事たちは俺を大事にしてくれている。それは本当にありがたい。未だに俺の目の問題を解決するために奔走してくれている母様達、マグフォルト兄様、俺の身の回りで不都合が起きないようにいつも一緒に居てくれるフィーネ、そして距離を置かずにフィーネ同様に接してくれる皆。そんな皆を俺は大切に思っている。

 いつか将来家族の中で俺のことで揉め事が起きるかもしてないと最近思うようになって来た。フィーネにはみんなに”目が見えなくてもやれることがあることを証明してやりたい”とは言ったが、本当はこの家の中で俺のために対立する状況が置きつつあるを避けたいというのが本音だ。…まあ、家を出る理由は冒険者になりたいってのも大きい理由ではあるけど。とりあえずは…。


「だから、俺はこの家を出る。そして冒険者になって父様達を見返してやるんだ!」

そういうことにしておこうと思う。


私はリム様の思いを聞き、今まで彼が自分ひとりで身の回りのことをこなせるように努力していた理由が理解しました。まだ幼いリム様がそこまで考えて行動していたことに驚きました。そして自分の決意を述べる姿に”懐かしさ”を感じました。私が付いていこうと思った先代の御当主と同じ雰囲気、それが今のリム様にはあります。周りに流されず、自分が正しいと思うことをやり遂げようという気高き心。それがリム様にも受け継がれている。そう感じざるを居ませんでした。だから私は、ある決意をしました。

「…わかりました。リム様の決意、このフィーネ、しかと受け止めました。しかしながら、今のリム様は冒険者というのがどれほど死と隣りあわせであり、この世界がどれほど危険であるかを十分に理解できているとは思えません。」

「うん、分かってる。でももう決めたことだから。」

「はい、ですから私も決めました。」

「?。何を?」

「はい、リム様には明日以降私が冒険者に必要な心得、知識、技術、そして戦い方。私が過去に経験してきたことを踏まえてそれらのことをお教えいたします。」

「え?」

「私は先程、何かあってもリム様の味方で居る、と言いました。ですからそれは、リム様の決意をお助けすることでそうありたいと思ったのです。」

「フィーネ…。」

「もちろん、リム様がこの家を出ることはリム様が皆様に話されることをお決めするまで、私が誰かに話すことはありません。ご安心ください。」

「…うん、ありがとう、フィーネ。」

本当はこれから分かるリム様の魔術特性のことで、ますます屋敷内での立場が危うくなるリム様を守るつもりで言った決意は、今別のものになりました。リム様を立派な冒険者にする手伝いをするというものに。

「では、儀式会場に向かいましょうか。」

「うん、そうだね。」

先程まで不安を抱えつつ会場へ進めていた重い歩みも、今は軽いものとなりました。

{ご安心ください、フェアリーデ様、フィーリス様。リム様は今日の儀式の結果がどのようなものに挫けてしまわれるような方ではありません。その結果さえ受け止めて強く前へ進んでいけるような、先代様のような立派な器をお持ちの方です。}

と、心の中で思いました。先程までは暑いとしか感じなかった初夏の日差しも今は良いものだと感じられました。胸に抱いた決意をほのかに熱してくれるような、そのような日差しです。リム様の決意を聞くことができてよかった。そのときの私の心はその思いで満ちていました。


「…では、リム様、準備はよろしいですか?」

「うん、大丈夫。」

「では、扉をお掛けします。そのまままっすぐお進みください。」

「うん、ありがとう。いってくるね。」

「はい、いってらっしゃいませ。」

別館の儀式の会場となっている部屋の扉を私は開けた。

そこをゆっくりと進んでいくリム様の背を見送りました。

そして、ゆっくりと扉を閉めました。

{さて、では明日からどのようなことをリム様にお教えしていきましょうか。}

そう考えつつ、私は部屋の外でリム様の儀式が終わるのを静かに待つことにしました。



次・こ・そ!リムハイドの魔術特性がはっきりとします。

今週中には次話投稿します。

あと、作者名をユーザー名と統一しました。

活動報告を書くことにしたので、今度はそちらも御覧ください。では。

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