母様の友人
小説を書くってホント、大変だ。
その後、俺の目についての現状を把握した家族は、その場での解決を諦めたようだ。
俺の目をより詳しく検査できる人物への連絡を取るかどうかを相談していた。相談は父様と二人の母様の3人で行われていた。俺の兄弟たちはその成り行きを静観しているようだ。赤ん坊の俺にできることは何一つない。
このときの俺は、唯々自分の現状に打ちひしがれていた。周りの会話から察するに、自分が生まれたのは貴族で、王家を守護するような力のある地位にある大貴族であること。守護を生業にするようならば、戦えなくては自分が存在する意味がないのではないだろうか?そんなことを考えていた。事実、目が開かないとわかったときの家族の反応がその不安を増長させる。
そして、俺にはもう一つ懸念事項があった。髪の毛の色である。どうやら自分以外の家族の髪の色は”赤”。そう思われる発言があったはずだ。それなのに自分の髪の色は”黒”。
目が開かない上に、家族と異なる髪の色をしている自分。四大貴族ともなると、周囲の目もある。その中で自分はその目にどう映るだろうか?いらぬ憶測や推測が飛び交い、貴族としての地位に影響が出るのではないだろうか?と考えれば考えるほど、自分の現状が泥沼のようにしか思えなくなっていた。
リーデ母さんとフィーリス母様は心配し、俺を案ずるような気配であった。同じくマグフォルト兄さんも自分を心配してくれていたように感じた。しかし、お父様やその他の兄弟たちは俺に失望の感情を少なからず抱いたようだった。それが自分のこれからの処遇にさらなる不安を抱かせる。
しかし、まだ希望は残っている。先ほどの会話から察するに、フィーリス母様は回復の魔法?を使えるらしいが、どうも回復魔法にも種類があるらしい。そのことで父様と母様たちが相談していた。
「…アクアリウス家の者に頼みごとは…。」
とか、
「…でも、かわいいリムのためにどうかお願いします。」
「わたしからも…。」
と、云々。
父様はどうも俺の目のことが広まるのが嫌なのか、それとも相談する相手を嫌っているのか、どちらにせよ母様達の案には乗り気でないようだ。俺としては、”目が開けば見えるかもしれない”、”回復するかも”という希望が残っている。「自分の目を調べてほしい。」俺は不安の渦巻く中、唯それだけを願っていた。
相談の結果は、父様が折れる形となった。
検査の手配をしたようだ。4日後には詳しい検査の魔法が使えるアクアリウス家の人がきてくれるようだ。家族の対面が済んだ日、リーデ母さんがおやすみという前に、俺にポツリと言った。
「何も心配はないよ。きっと大丈夫。あなたを検査して良くしてくれるのは私達姉妹の昔からの友人なの。彼女は”癒し”の魔術分野では王国一の腕を持っているから。きっとあなたの目を良くしてくれるわ。何も心配しないで、リム。きっと良くなるわ。」
願いがかなった、何とかなるかもしれない。母様に抱かれながら、俺は安堵して暗闇の中で眠りに落ちていった。
検査の日になった。
この日まではなるべく目については考えないようにしていた。しかし、検査の日が近づくにつれて、目が開かなかったらという不安が少しずつ膨らんできていた。どうしようもなくて泣け叫んでしまうときもあった。その度に母さんがあやしてくれた。その度に、心が温かくなり、「ありがとう」と母さんに心で感謝していた。
検査を行う部屋は空気が澄んでいる。澱みがなく澄み切った水の中にいるようなそんな感じだ。この部屋には、俺と父様とリーデ母さん、そしてもうひとり、
「久しぶり、リーデ。まずはおめでとう。」
「ありがとう、メーシア。今日はリムのこと、お願い。」
「ええ。任せておきなさい!四大貴族が一つ!水を司るアクアリウス家が長女、メーシア・アクアリウスが来たからにはどんな怪我や病気、呪いもたちどころに綺麗に浄化して流してあげるわ!」
自信に満ちた発言をしている彼女ことメーシアさんの4人がいる。他の皆は別室でこの検査の結果を聞くために待機している。
「ふふっ。うん、頼りにしているわ。」
母さんの言っていた”彼女”こととは四大貴族の”水”に連なる貴族に一人、のようだ。母さんはこのメーシアさんを信頼しているのだろう。それにメーシアさんにしても、自分にならなんとかできる!という自信に満ちている。俺は不安が軽くなっていくのを感じた。今自分がおかれているのこの暗い世界に光が差すような感じた。
と、そんなことを思っていると、
「挨拶はもういい。さっさと始めてくれ。」
「はいはい、相変わらず短気ですこと。火の様にカッカとする癖は未だに健在なの?マグナス?」
「ふん!こんなことでなければ、貴様の顔など見たくもなかったさ。」
「はいはい、わたしもよ。誰があなたの仏頂顔を見たいもんですか。私もリーデとフィーのお願いでなければ、ここには来なかったし、このお願いも受けなかったわよ。」
「ふん、それより…。」
「わかっているわ。今日のことは誰にも話さない。今日ここに来たのはリーデにおめでとうって言いに来たのと、リムハイド君のかわいいかわいい顔を見に来ただけ。ただそれだけよ。」
「…わかっているなら、言うことはない。」
「まったく、なんで二人ともこんな頑固で短気な奴に惹かれちゃうかな。もっといい人がいたでしょうに。」
「ふふっ。マグナス様は良い人よ。心から惹かれたから私たちはこうしてフレムハルト家に嫁いだのよ。だってマグナス様って…。」
「あ~…!いい、いい!そういう惚気はもうたくさん!」
「え~、聞いて欲しかったのに~…。」
「…帰るよ?」
「ごめんなさい…。」
「分かればよろしい!」
「…ふん。」
てなやり取りがあった。う~ん、メーシアさんって母様達と友達みたいだってのは分かっていたけど、父様とも昔から知り合いだったのかな?と、そんなことが分かるやりとりがあった。
「あうぁ、あうぅ。」{メーシアさん、どうかどうかお願いします。}
「あらあら、かわいらしいわね。ふふ。大丈夫、私がきっとあなたの目を良くしてあげる。安心して身をゆだねていて頂戴。ではでは~、…はじめましょう。」
と、軽い感じから、少し態度を改めたメーシアさんに母さんが俺を預ける。
そして、俺の目の検査が始まった。
「それにしても…。」
と、メーシアさんは俺の目蓋の上に手をかざしながら、
「黒い髪の毛なんて珍しいわね。なんの混ざりけもない漆黒なんて。魔人族でもここまで髪が黒いなんてことないんじゃないかしら。」
という。俺は検査を受けながら、先ほどこの部屋が澄んでいるな、と感じたのはこの人の存在があったからだろう。その気配はメーシアさんを中心に広がっているのだ。そして、目蓋や目のあたりに、部屋に入ったときに感じた清らかな澄んだ水、のような気配を感じていた。それがとても心地よい。なぜか右目のほうが、その気配をよく捉えられた。寧ろその気配と右目が同化したような、そんな感じがする。そんなことを思っていると、父様が俺の不安が増えるような、そしてこの世界を知るヒントとなる発言をする。
「ああ、確かにそうだ。色味のない黒髪なんて今まで聞いたこともない。それにフレムハルト家の先祖の中には魔人族と血が混ざった、という記録はなかった。先祖帰りは万が一にもありえないということだ。それに私達、”地人族”の魔素を保有しておく身体機関は”目”だ。その目の色が”赤”であれば、何の問題もない。だから例え目が見えなくとも構わないのだ。フレムハルト家を証明できる身体特徴があれば、なんの問題もない。」
「あなた…、そんな言い方…。」
「はぁ~…、相変わらずの貴族様思考だねぇ。…まぁ、貴族としてあろうとするその姿勢はいいんだけど、少し肩から力を抜ければもうちょっとマシになるんだけどねぇ~。」
「貴様のように軽々しくはなれん、ただそれだけだ。」
「はいはいっと。」
{な、なんか無茶苦茶不安になる発言を父様から頂きました!え?え?目の色とか髪の色ってそんなに重要なの?しかも”魔素”とか、地人族とか、魔人とか…。もう分からんわ!}
親達の会話を耳にしながら、俺はじっとして大事になりませんように…、とこの世界に神がいるかどうかはは分からないが、もしいるならば、とだた祈っていた。
(独り言)
あいや~…、リム君の目についての診断結果にまで行き着かなかった。




