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その瞳に宿すものは  作者: aoshishi
第Ⅰ章 誕生~幼少期
11/11

儀式の結果と今後の処遇(後編)

すいません!

昨日更新する予定でしたが、寝てしまっていました。

どうかお許しください。

では、後編をどうぞ。

『ではこれより、フレムハルト家、四男、リムハイド・フレムハルトの魔術適正の判別の儀式を執り行う。』


{…ようやくかよ。}

心の中でそう(つぶや)く。正直、あいつのために時間を割いているのが気に入らない。でもこの儀式は家族全員で参加しなくてはいけない、父様が言っていた。家族…か。

 ―始めは俺やフィグもあいつを可愛がっていた。俺達にとっては初めて下に兄弟が生まれた。赤ん坊のあいつは本当に可愛かった。指で頬を突いてやれば、一生懸命にその指を見えない手で探るように掴んできた。俺達は指を掴まれると何だが心が緩んで、優しい気持ちになったことは覚えている。でも、次第にあいつが羨ましくなっていった。それまでは俺達が一番小さくて、皆から大事にされていた。でも、あいつが生まれてからは、それも変わった。特に母様達だ。あいつの目が開かない原因を探るため、俺達の相手をしてくれる時間がどんどん減っていった。最初は我慢していた。俺達はあいつの兄なんだ。だから、我慢しなくちゃいけない、と。でも、寂しかった。悲しかった。その思いがどんどん積もっていった。でも我慢した、我慢し続けた。でもあるとき、それが爆発した。俺達と過ごす約束をしていた母様達が、いつまで経っても俺達の部屋に来てくれなかった。どうしてかな、なんでかな、いつもはちゃんと約束を守ってくれるのに。そう思って、俺とフィグは母様達を探しに行った。そして見てしまった。あいつの部屋で、あいつを挟んで、あいつを大事に、愛おしそうに抱えるように寝ている母様とあいつの姿を。その様子を見て、頭の中が真っ赤になった。頭の中がぐちゃぐちゃになって、二人で急いでその場を後にした。部屋に戻ると急に悲しくなって、フィグと二人でわんわんと大泣きした。その様子を使用人から聞いたのか、学校の休みで戻って来ていたリーナ姉さまが部屋に来た。俺達は堪らず、姉様に抱きつき、泣きながら自分達の思いを叫んだ。

「どうしてリムハイドはあんなに構ってもらえるの?自分達はいつもいい子にしているのに、いつもいつも母様達はリムハイドばかり構ってる。寂しいよ、辛いよ。でも我慢してる。でも、どうしても許せない。リムハイドは母様達を僕達から奪ったんだ。」

そう、リムハイドが許せなかった。俺達の気持ちも知らずにすやすやと眠っているあいつが。リムハイドが許せなかった。俺達から母様達と過ごす時間を奪っているあいつが。

リムハイドが許せなかった。俺達よりも多くの愛情を貰っているあいつが。

 そんな俺達をリーナ姉様はただ黙って抱きしめ続けてくれた。そんなことがあり、リーナ姉様はそれまで以上に俺達に構ってくれるようになった。それがとても嬉しかった。俺達は今では母様達以上に姉様に甘えるようになった。

 そしてあいつに対しては距離を置くようにした。あいつに対する感情が、はっきりしてしまったからだ。あいつが憎い、と。我慢してきた思いを言葉に出してしまったことで、それがはっきりした。近くによると何かをしてしまいそうで、怖かった。だから、俺達はあいつの近くに寄らないようになっていった。

 今ではあいつの顔を見るのも億劫だ。話をするのも面倒くさい。嫌気が差す。まぁ、あいつもほとんど話しかけてくることは無いが。相変わらず、あいつは母様達に何かを大事にされている。最近では母様達からいろんなことを習っているようだ。…まぁ、俺は勉強が嫌いだから、そんなに羨ましくは無いけど、フィグはいつも「あいつばっかりずるい。」って(こぼ)してたっけ。俺は体を動かすのが好きだけど、フィグは本を読むのが好きなんだよな~。まあ、俺が体術(アーツ)で、フィグが魔術(マジック)、そんなコンビを組もうぜって、決めてるから別にいいんだけどな。

 …お、ようやくあいつが倒れた。やっとかよ。無駄にがんばんなよな。さっさと倒れちまえば、儀式もさっさと終わるのに。…ようやくあいつの魔術適性がわかんのか。ま、あんまり興味もないけどね。そういえば、俺らのときは火柱が立ったんだっけ。俺らはなんか覚えてないけど。そういやフィグはどうしてんだ。あいつ昨日も遅くまで本読んでたから寝てんじゃね?俺はあいつの魔術適正に興味ないけど、フィグは気になってたみたいだから、寝てたら起こしてやろう。と、リーナ姉様を挟んで向こうに座っているフィグを見ようとした瞬間。

 俺は水の中に沈んだ。

{なんだこりゃ!}

びっくりして、次に怖くなった。何が起きたか分からない。必死に隣に座るリーナ姉様にしがみ付いた。

{ああ、よかった。姉様はちゃんといる。}

と安心できた。でも今度は吹き飛ばされそうになった。

強風が俺を襲ってきた。

{わけわかんね!なんだこれ、なんだこれ!…こえぇ…!}

そうして恐怖に震える俺をかばうように姉さまが俺達を引き寄せてくれる。

どれくらいの間、そういていただろうか。風が弱まり、姉様が身を起こすのに合わせて、俺も顔を上げた。そして周囲を見渡すと、それが目に入った。

 青と緑の交じり合った球体が。その中心にはあいつが居た。そして分かった。さっきの水と風はあいつのせいだ、と。無性に腹が立った。あいつに驚かされたことが、だ。あいつの方をを睨んでいると、先程見えていた球体が薄くなっていき、今度は石っころみたいなのがあいつの周りを十個くらいぐるぐると飛んでいる。それがなくなると、火が見えた。

蝋燭にでも付いていそうな、息を吹けば消えてしまうようなちっさい火が。それを見てなんだか、拍子抜けして「な~んだ、びっくりさせやがって」と思い、腹が立っていたのが馬鹿らしくなってきた。ちょっと笑いそうになっていると、隣の姉様が「ははは…。」と小さく笑うのが聞こえた。あの火を見て姉様も笑ってるんだろう、そう思い顔を上げる。そこには正面の祭壇の方を見ながら、「何かを失ってしまう」という悲しみを持って無理やりに笑っている姉様が居た。なぜそんな顔をしているのか、それが分からず姉様の見ているほうを向いても、やはりそこには倒れたあいつがいるだけで、その時の姉様の気持ちはついに分からなかった。

 その後、儀式の結果、あいつが家を出て行くことになり、心がすっとしたのは良く覚えている。でも同時に心に棘が残った。その棘が何だったのか。それはあいつがこの家に戻り、俺達を助ける事件が置き、あいつ、リムハイドに再会することになるまで分からなかった。 


 

 儀式が始まると、僕は眠くなってきた。昨日は夜遅くまで魔術(マジック)についての書物を読んでいた。そのため、いつもこの時間には昼寝をしているけど、今日はそうもいかなかった。あれの魔術適正を判別する儀式に参加しなくちゃいけないからだ。こんなことに付き合っている時間はないのに。僕は強くなりたいんだ。強くなって大好きなリーナ姉様を守れるようになりたいんだ。そして姉様にもっと褒めて欲しい。だからもっと魔術(マジック)の勉強がしたいのに、この儀式は必ず家族が全員で参加しなくちゃいけない決まりがあるから、そうもいかなかった。

 そんなことを考えていたら、ウトウトしてきた。

{少しくらいなら眠ってても良いよね。あの儀式の言葉を聴いてるとこっちまで眠くなるよ。}

そう思って、なるべく寝ているように見えないような体勢をつくり、椅子に座りなした。

次第に意識が遠退いていく。半分寝ているような状態のまま、ふと今儀式を受けているあれのことが頭に浮かんだ。そのまま、夢を見るように昔のことを思い出して言った。

 あれを最初見た時は、驚いた。見たことも無いような美しい髪の色をしていた。黒い髪の毛。光を受けるとキラキラとして、宝石が輝いているように見えた。自分より下に出来た弟という存在は、僕にとっては自分が兄になるということを意味していた、あれのためにいいお兄様になってあげようと始めの頃は考えていた。フォル(にい)もそう考えていたのだろう。一緒になって可愛がっていた覚えがある。でも、それも次第になくなっていった。それまでは僕達兄弟が何かと大事にされていた。でもあれは目が見えないということもあって、みんながそちらに目を向けていった。正直寂しかった。始めの頃はそれでも我慢が出来ていた。でも、一緒に過ごす約束していた母様達が、いつまで経っても来ないので、探しに行ったとき、気持ちよさそうに3人で眠っている姿を見たとき、目が熱くなって、胸がキュウッ、苦しくなった。あれが生まれるまでは俺達が母様達とよく一緒に寝ていた。でもあれが生まれてからはそれもなくなっていった。僕達はあれの兄様になったのだ。だから仕方が無い、と思っていた。でもあの光景を見たとき、我慢できなくなった。お母様達が取られてような気がして悔しくて、フォル兄と一緒に部屋に戻って泣いてしまった。

 でも、そこにリュリーナ姉様が来て、俺達を抱きしめて慰めてくれた。そのときのことは今でも思い出せる、抱きしめてくれた姉様の匂い、姉様の胸の中の暖かさ。あのときのことを思い出すと心がホカホカして、安堵することができる。そのときに、決めたことがある。僕は姉様を守れるようになりたいと。今、僕達を抱きしめてくれている姉様が居なくなって欲しくない、いつも一緒に居たいと、そう思った。

 リュリーナ姉様はそのことがあってからは、僕達をそれまでよりよく遊んでくれたり、話をしてくれたりするようになった。その逆にあれにあまり近づかなくなった。それがとても嬉しかった。母様達はあれに取られたけど、姉様は僕達のことを選んでくれたんだって思えて。母様達が嫌いになったわけじゃなかったけど、姉様がそれまでよりずっと好きになった。フォル兄とは「リュリーナ姉様は二人で守ろう」って約束をした。その時のことを僕は覚えているけど、フォル兄はちょっと忘れてしまっているかも。僕とコンビを組むつもりみたいだから、まあ良いけどね。フォル兄は体術(アーツ)、僕は魔術(マジック)が得意だから、バランスはいいのかな。だから僕は魔術(マジック)を勉強したいんだ。最近は母様達も僕達に時間を使ってくれるようになってきた。そのときはよく魔術(マジック)について教えてもらっている。でも、あれにも同じように魔術(マジック)についてを教えているようだ。どうも僕よりも難しいことも教えてもらっているようなのだ。それが羨ましいし、悔しい。あいつに負けているようで。だから、あれのために自分の時間を奪われている今が勿体無い。僕はもっともっと勉強したいのに。

 そんなことを考えていると、儀式の声が止んだ。ようやくあれが倒れたらしい。随分と頑張っていたんじゃないかな。そろそろ起きようとした僕を未知の感覚が襲う。

―いきなり、だった。いきなり僕は水の中に沈んだ。混乱し自分がどこにいるのか一瞬分からなくなった。今自分がいる場所と状況を思い出して、大好きな姉様のいる方に身を寄せる。そして触れた姉様の手を掴む。よかった、姉様は隣に居てくれた。そう思って安心することが出来た。でも安心できたのも束の間で、今度は強風が僕達を襲う。ここは室内なのになんで?冷静になる暇も無く、状況の変化についていけない。そんな中でも、姉様は僕達を守るように自分の方へ僕を引き寄せてくれる。そうだ、僕は姉様を守るんだ、だからこんな状況に怖がってはいれないんだ。そう思って、身を打つ風を体を小さくして避けていると、その風も次第に収まっていった。何が起きたのか、ようやく考えられるようになり、今の状況を生んだ原因が頭に浮かぶ。ゆっくりと顔を上げ、あれの方を見る。するとそこには、青と緑の球状のベールに包まれたあれが居た。あの水と風はあれの魔力(マナウィス)のせいだったのか。そう思い当たり、僕はその強さにとても驚いた。そう居ていると、そのベールが薄れていき、複数個の土の塊があれの周囲を回りながら浮いていた。ここまでで気付く。あれの魔術属性は水と風が強く、次に土の属性が強い、ということに。あれ、じゃあ火は?僕達はフレムハルト家だ。火が得意な筈なのに。と思って見ていると、その土の塊が崩れていき、火が顔を出した。でもその火は小さかった。頼りないほどの火。夜に本を見ることが辛うじてできるくらいの弱弱しい火。あれ、ということは、あれの魔術適正は火が一番弱いのか?先程の状況を引きこしたあれを少し怖く思っていたが、そのことに気付くと、嬉しくなった。あれよりも僕は火の魔術適正が高い。そのことが嬉しかった。そんな思いでいると姉様が小さく笑い声を零すのが聞こえた。何でかな?と気になりそちらを向くと、あれの方を見てつらそうに笑う姉様が居た。悲しいのに笑うことでごまかしている、そんな感じの笑い方だった。どうしてそんな笑い方をするの?悲しいことなんて何もないよ、姉様、だからそんな顔をしないで。姉様が心配で、だからあれから目を離して姉様の方をずっと見ていた。

 

 だから、見ていなかった。あれの火が最後、どうなったかを。別にそれを後悔しているわけではないけれど。どっちにしろ、そのときのそれを見ていても僕には分からなかったんだし。それが分かるのはあれ、リムハイドがこの家の危機に戻ってきたときだった。そのとき、あいつが戻っていなければ、姉様を守れなかった。だから、今まではそれほど、あいつを苦々しくは思わない。もっとも今でも好きではないけれど、ね。



 僕にとってリムは目に入れても痛くないくらい可愛い弟だ。もちろん、リーナ、やフォルナス、フィグハルトも大事な妹、弟ではあるが、リムは同じ母であるリーデ母様から生まれたという意味では、やはり彼女達とは兄弟という感情の持ち方に少し違いがある。

 生まれつき目の開かなかったリムのため、僕や母様達は出来る限り手を尽くしてきた。王都にある万民のためにある国立の学校に通る僕は、時間があれば図書館を訪れリムの症状を解決するためのヒントを探し、学校にあるその手の研究室にも顔を出して、話を聞いたり情報を集めたりしてきた。しかし、残念な今日この日を迎えるまで、リムの症状を解決する手段は見つかっていない。この記念すべき大事な儀式の日を目が開かぬまま迎えることになったリムを不憫に思う。儀式の進行を見守りつつ、今日の主役のリムのことを思う。

 最近のリムの、この家での扱いは不満に思う。使用人たちは皆、近づかず、リムの世話は傍付きのフィーネに丸投げしているようだ。兄弟であるリーナやフォルナス、フィグハルトも最近はリムを避けているようだ。その心境が分からないわけではない。母様達はリムのことをなんとかしようと躍起になり、ここ数年はずっとリムのことに掛かりきりだからだ。特に双子の弟達は幼かったこともあり、母を取られたという感情が生まれてしまっていてもおかしくは無い。現にフォルナス、フィグハルトはそのことでリーナに泣きついたと彼女から聞いた。その後、彼女は彼らをそれ前よりも大事にするようになった。僕もそれ以降は彼らのことを気に掛けるようになってはいたが、彼らはリーナに良く懐いているようなので、あまり心配はしていない。

 今気がかりなのはこの儀式の結果がどうなるか、だ。考えたくは無いが万が一、リムの魔術適正がこの家の者に相応しいものでなかった場合、父様がどんな処遇をリムに下すかきがかりでならない。その父様は僕の隣に座り、ずっとリムを見続けている。父様は一体何を思いながらこの儀式を見守っているのだろうか?

 この家でほとんどの者がリムを避け、彼に冷たくすることの原因の一つが父様のリムへの態度にあると思う。生まれた当初は、気に掛けてはいたようなのだが、年々リムを煙たがっているような、そんな様子を見せるのだ。その様子を皆が見ることで使用人たちはリムに近づくことにより、当主の不況を買うことを恐れ、父様を尊敬している(ちょっと過剰気味に)リーナはその影響をかなり受けている面がある。フォルナスとフィグハルトも少なからず、その影響を受けているだろうし。

 リムの味方になってくれているのは、本当に少ない。古参の使用人に数人(彼らは祖父様の代から使えているため、父様にも無碍(むげ)にはできない)と母様、僕、そしてアクアリウス家のメーシア様くらい。まだ幼いリムを守ってやるには少し心もとない感じがある。何せこの家の当主は父様であって、皆意見は出来ても、父様が決めたことには早々逆らえるものではないためだ。

だからこそ、この儀式の結果がものを言う。フレムハルト家の象徴である”火”。この適性が高くでることで、リム自身がフレムハルト家の一員だと皆に知らしめることが出来れば、少しは彼を見る目も変わるはずだ。髪も黒く、瞳の色も分からず、魔術適正が不明であったということが、今のリムの状況を生んでいる原因の中で、大きいことだと僕は考えている。

 だから僕は祈る。リムが強い火の適性を発揮してくれることを。少しでもリムの境遇が良くなることを。目を閉じ手を合わせ、握りながら祈りの言葉を心で唱えながら待っていると、トサッとリムが倒れる音がした。随分と耐えたものだ。頑張ったんだなと、内心でリムを褒めながら、強くなっていくリムの魔力(マナウィス)を感じながら、リムの方を向いた。すると彼の周囲に変化が訪れた。

 青の激流が生まれた。

{は?}

疑問は身を打つ水に流されていく。

{なぜ!?}

この状況は間違いなくリムが起こしている。腕を上げ、顔庇う。しかし水の流れは容赦なく僕の身を打つ。耐えがたくなるほどの冷たさが身を襲う。僕自身の魔力(マナウィス)を強め、やり過ごしていると、今度は一変して緑の強風が吹き荒れる。このままだと吹き飛ばされてしまうと錯覚するほどの強さだ。だから、身を守るためにより魔力(マナウィス)を込めて強風をやり過ごす。ようやく風が収まりつつあり、視界をふさいでいた腕を下ろし、リムの倒れている方をを見る。そこには先程の青と緑の奔流が半球体を描いていた。その半球体の中心にはリムが倒れている。くそっ!と内心毒づいた。

 魔術適正の判断儀式では強いものほど強い属性ほど先に発現していき、弱いものほど後の発言にある。先程のことを鑑みると、リムは明らかに水と風の適性が高い。発現の順番は水が一番だったが、あの魔力(マナウィス)の感じからして水と風の適性の高さは同等だといえるだろう。

 でも、まだ土が残っている。火が最後でなければ、まだ救いはある。そう願いつつ変化を待つ。しかし、その願いは空しく終わる。

 半球体の魔力(マナウィス)が薄まっていく。次の現れていたのは、土の属性だった。土の球体がリムを守るようにグルグルと複数個浮かびながら周回している。そしてそれがパラパラと崩れていき、最後に残った火が現れる。

{ああ…、そんな、どうして…。}

啞然として、呆然として。ただそれだけした考えられなかった。

灯火と言っていいのか、あまりに小さな火。先程までの水と風、更には土の属性の発現とは比べ物にならないほどの弱い属性の発現。そこからは理解できることは、リムの火の属性に対する適性の低さ。

{ああ…、終わった。}

ただ、そう思うしかなかった。あとはただ、俯き項垂れるだけだった。


 だから、最後までその火を見ていなかった。それを見ていたのはどうやら父様一人だけだったのだろう。儀式の監督者もその火を見て、すぐに祭壇のほうを振り向いていたようなのだ。最後まで火を見ていれば、リムに対して何してやれず彼を不遇を思い続けることも、その後リムを家から出すことを決めた父様のことを責める心を持ち、この家のあり方にも疑問を持ち続けることもなかったのかもしれない。



「…ム、…リム。起きなさい、リムハイド。」

リーデ母さんの声が聞こえる。ぼんやりとしていた意識がはっきりとして行き、自分が儀式に望んでいたことを思い出し、身を起こした。

「リム、ご苦労様でした。無事に儀式は終わりましたよ。」

「あ、はい。母さん。あの…適性の方はどうでした!?」

自分の適性が早く知りたくて、少し気持ちが(はや)る。

「そう…ね、気になるわよね…。」

「…?」

なぜだろう、母さんの反応が芳しくない。不思議に思い首を傾げる。

「…場所を換える。ここは長話をするような場所ではない。本館の方に場所を移す。そこで、お前の魔術適正を伝える。…いいな。」

父様のいつも通りの硬い声が耳に届く。感情を込めない話し方。貴族の当主としての在り方、それに拘っているような印象だ。まあ、いつものことだから仕方が無い。俺に対してはずっとこんな感じだったし、今更そそのことについてとやかく思うことも、…なくなった。

「分かりました。あ、母さん、すいませんが俺に杖をください。」

「あ、うん。ええっと…。」

「はい、どうぞ、リムハイド。」

「あ、ありがとうございます、母様。」

「ええ…。」

と、フィーリス母様から杖を受け取る。どうも母さん達の様子が暗い。さっきの母さんの反応も合わせて考えると、どうしてこんなことになっているのか、なんとなく分かって来た。

「先に行くぞ。」

「あ、お父様。私も一緒に行きます。さあ、フォル、フィグ。行きましょ。」

「うん、さっさとわかった。」

「はい、姉様。」

父様に続き、リュリーナ姉様、フォルナス兄様、フィグハルト兄様も次々とこの場を後にするため扉のほうに歩いていく。俺も移動を始めようと、立ち上がり杖を握りなおしていると、

「…手を引いていこうか?リム。」

と母さん達以外で残っていた、マグ兄様が声を掛けてきた。感情を隠しているような声色だ。…ふむ、やっぱり俺は何かやらかしたらしい。

「いえ、大丈夫です。一人でも歩けるようにならなくてはいけませんし。」

「そうか…、では僕も先に行くよ。」

行きがけに俺の頭をグシグシと撫でていく。よく兄様はこうして撫でてくれる。…父様がそんなことをしてくれたことは、昔数えるくらいあったくらいだな…。ちょっとそんなことを思い出した。撫でられて乱れた髪を直すのも合わせて、そんな苦い思いを払うように、頭を振る。

「さ、行きましょか。」

「そうね、行きましょう。フォード卿、あと皆、この後はお任せしてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。この場のことは私達にお任せください。」

と、おそらく今まで控えていた使用人たちの一人が返事をする。それに続いて儀式の監督者のフォード卿(ようやく名前を聞けた。)が応じる。

「…ええ、ええ、結界についても私が解除しておきます。あと、…私は今日はただの監督者として、結果を記録した魔道具はマグナス卿にお渡ししましたし…。その後のことはフレムハルト家のこと。私が今日見たことは胸のうちに秘めることになるでしょう。ご安心を…。」

…うん、確実だ。なんかやったわ、俺。それも相当な感じなことを。思い当たることはもう一つしかない。魔術適性、それが良くなかった。それしか考えられない。

{うわ~…、なんかいやだな。結果聞くのが楽しみなのは、変わりないけど、こう、もっと明るい感じで聞きたかったなぁ。…まあ、出てしまったものは仕方ないか。}

と自己完結して、気を切り替えていこうとしていた。と、そのとき、扉の方から慌てる声が聞こえて来た。


「…なんだ、これは…!」

「どうしたの?お父様…って、フィーネ!どうしたの!?」

「え?え?何、どうかしたの?…って、うわっ!なんじゃこりゃ!」

「…うっ、これは何?フィーネが倒れて…、って、血!?これ凄いが…!」

「フィー母様!大変!フィーネが!フィーネが血の池に沈んでる!」

「これは…ひどい…。」

慌てるみんなの声が聞こえる。…うわぁ、またかよ。言葉も出てこない。なんか最近鼻血出してばっかのイメージが彼女に付きつつある。

「はぁ…、またなのね。」

「リムの魔力(マナウィス)に当てられなければ、平気なんじゃないの?」

「さぁ?そう言っているのもフィーネ自身だったし。この前来たメーシアに見てもらってたみたいだけど…。そのことを聞いてもメーシアも『リムハイドが悪いのよ。しょうがないの。私には手の打ちようがないわ…。』って匙を投げてたし。ついでになんか『私も下手すると、こうなるかも…。』って小さく呟いていたっけ?」

…不穏だ。メーシアさん、不穏なこと言わんといて。確かに彼女は来るたびに抱きついてきて、やばいくらい可愛がってくれるけど…。いや、大丈夫、彼女は大丈夫。うん、そうに違いない。自分にそう言い聞かせて、懸念を振り払う。

「母さん!早く!なんかうわ言までいいだしてるから!」

「あ、うん。今行く。」

フィーリス母様が急ぎ歩いていく。それを追うように母さんと扉の方に向かう。


「『癒しの炎よ。今、傷つき病める者の災いを払いて、その者を癒したまえ』。…っと、これで血は止まるはずよ。後は大丈夫。みんなは先に行きなさい。」

「…うむ、では、後は任せた。皆、行くぞ。」

「はい。」

「分かった、先に行きますね。フィー母様。」

「お任せします。」

「先に行くね。」

と、フィーネの治療を施しているフィー母様を残し、皆は先に本館へ向かう。俺もそろそろ行こうかな。…というかフィーネのうわ言はなんだったんだ?俺の名前が出てきてたから、俺が原因でフィーネが倒れたような印象を皆に与えてたじゃん!そんなことを思っていると、またフィーネがぶつぶつ言い出した。

「うふ…、リム様と二人きり…、うふふ、…手取り足取り、…いろんなことを…、うふ、うふっ。」

大丈夫かな、フィーネ。主に頭が。最近頓(とみ)にそう思う。こう、なんか俺を捕食しようとしている様な、身の危険を感じることが増えてきた。

{…ちょっと気を付けていこう。うん。}

このとき、フィーネに対しての警戒を強めることを心に決めた俺だった。


―場所は変わり、本館にある広間の一つ。家族が集まり、話し合いをする場として使われているこの場に全員が揃う。フィーネの処置を終わらせ、遅れてきたフィー母様が席に着き、いよいよ俺が先程の儀式の結果を知るときが来た。父様が俺の方を向いた感じがした。その視線を感じ、一呼吸間を取り、声を掛けてきた。

「…では、リムハイド。お前に先程の儀式の結果を伝える。」

「はい。」

椅子に座る姿勢を整え、言葉を待つ。

「お前の適性は、水と風。その二つの適性が最も強く現れた。」

「えっ。」

息を呑む。

「続いて強く現れたのは、土の属性だ。」

「は?」

「…最後になったのは、火。この結果言えることは…、分かるな?」

それは…。

「それは、俺の適性は火がもっとも、弱い、ということですか?」

「ああ、そうだ。弱い、限りなく弱い。無いと言っても過言ではない。それほどの弱さだ。」

「………。」

俺は言葉を失う。他の皆も皆一様に黙ったままだ。この場の空気が重い。

「分かったな。結果はそう出た。それだけだ。」

そういうと、父様が席を立つ気配がした。

「では、この場はこれで解散とする。…リムハイド、夕食の後、私の書斎まで来なさい。その時にフィーネも伴って来るように。」

そういい残して部屋を出て行った。

俺は呆然としたまま、そこに居た。

気付くと母さんが俺を抱きしめていた。母さんは泣いていたようだった。

「大丈夫、大丈夫よ、きっと大丈夫。」

とそういいながら、母さんはしばらく俺を抱き締め続けていた。


 夕食が終わり、フィーネと共に父様の書斎へ向かう。夕食は普段より豪華だった。祝いの席になることを想定して準備していたのだろう。夕食の場はそのメニューの華やかさにそぐわない空気の中行われた。皆一様に黙り、黙々と食べていた。その原因を作った俺にはそれはそれは重かった。食べた気がしない。そんな感じで、その空気を引きづったまま、重い足取りで、目的の場へと向かう。

 {さて、何を言われることやら。}

気が重い。けれども時間は待ってはくれない。フィーネも何も言ってこない。ただ二人で黙々と進んでいく。

「こちらになります。」

とフィーネの歩みが止まる。父様の書斎へは始めていくため、フィーネの先導で進んでいた。

「うん、分かった。」

と、応じて扉の前に歩を寄せる。始めて訪れる父様の書斎を前に緊張している。緊張している原因はそれだけではないけれど。ここではおそらく、俺の今後の処遇を言い渡されるのだろう。それしかここに呼ばれる理由が思い浮かばない。硬くなった自分を自覚し、ふっと息を吐き、緊張を緩める。そして息を吸い込み、気合を入れる。そして。

コンコンッ。

「お父様、リムハイド、フィーネを伴い参りました。」

「…、ああ。入りなさい。」

扉越しに返事がある。

「失礼します。」

「手伝います。」

「うん、ありがとう。」

五歳児があけるには、ここの扉は少し重かった。フィーネに手伝って貰い、書斎に入る。

「ソファに座りなさい、フィーネ、案内を。」

「はい、旦那様。」

フィーネに手を引かれ、ソファに腰掛ける。座ると適度な反発を身に受ける。

「私は如何いたしますか?」

「お前もリムと共に話を聞きなさい。」

「はい。」

その指示に従い、フィーネが俺の座るソファの後ろに移動していくのが風の動きで良くわかった。

{あれ?そういえば儀式の後から、人の動きというか風の動き?が前以上によく分かるようになったな。}

と意識が別の方に飛びかけた。が、父様が対面のソファに座る気配がし、

「では、リムハイド。話を始める。良いか?」

という声にはっとして、意識の向きを軌道修正する。

「はい。」

父様が俺を見ているのがよく分かる。

{やっぱりだ。周りの空気の動きが良く分かる。それに共なう人の動きも。}

そう思いつつ、言葉を待つ。

「まず、儀式の結果だが、リムハイド、分かっていると思うが非常に残念なことに、お前の”火”の魔術適正は、フレムハイド家にあるべきものとして、あまりにも低い。」

「…はい。」

「私は機会がある度にこう言ってきた。このフレムハイド家の人間として恥ずべき者はここにはいてはならぬ。我がフレムハルト家はリュミナス王家を守護し支える四大貴族の一角として、一に火の魔術(マジック)に精通し、一に体術(アーツ)を磨き、また知を持って民を収める。貴族の誇りを胸にし、常に他の貴族の模範となること。それこそが四大貴族としてフレムハルト家の生まれついたものの果たすべき役割である、と。」

「はい。」

ふぅー、と父様がため息を吐く。

「そう、このフレムハルト家に生まれたものとしてどうしても必要なこと、それは火の魔術を扱う才能だ。それが火を象徴とし、火の貴族の代表として四大貴族の地位にあるこのフレムハイト家の人間に欠かせないことの一つなのだ。それが、お前には、ない。それが今日分かったことだ。」

「はい。」

俺はただ肯定することしかできない。

「そのことでお前を責めている訳ではない。そう、これは仕方のないことだ。魔術適性とは生まれつき決まっているもの。リムハイド、お前が火の属性の適性がなかったことは疎どうしようもないことだ。そうだな?」

「…はい。お父様」

「まあ、お前が黒い髪の色をして生まれてきたときから、このようなことになるのでは、と不安であったのは、確かだったのだが…。付け加えて、目も開かず、瞳の色も確認できなかった。恐らくだが、リムハイド、お前の瞳は青か緑、その色を持っていると思って間違いない。左右とも同色か、それとも別々の色をしているか、それは定かではないが。」

「…お父様、何をおっしゃりたいのでしょうか?」

「その目も未だに開かず、閉じたまま。目が見えぬままでは戦うことも出来ず、自分の身すら守れぬ。そうは思わないか?…まあ、知だけは歳に似合わぬほど持っていると、その点は私も認めている。」

「お父様、何を言いたいのでしょうか?はっきりと言ってください!」

語気を強めて父様に問う。

「そうだな、ではそうしよう。リムハイド、お前には数年後、この家から出て行ってもらう。このフレムハルト家から。その際には家名も返上してもらうことになるだろう。」

「お待ちください!マグナス様!」

今までずっと黙っていたフィーネが会話に待ったを掛けた。

「家名返上とは…、そこまでする必要があるのですか!?」

{家名返上?なんだそれは?}

疑問が顔に出ていたのか、フィーネがそのことを説明する。

「リム様、よくお聞きください。家名返上とは名を捨てる、ということ。その生まれた家との関係を完全に断絶するということになるのです。一度捨てたことになると、容易なことでは元に戻ることは出来ません。これは貴族が相当な問題を起こした際に用いられる罰則に用いられることもあるものです。それを…、それをまだ幼いリム様に用いるなんて…!一体何を考えておいでなのですか、旦那様!」

フィーネが怒りで声を荒げ、父様を問い詰める。

{は?え、つまり俺は、父様に勘当されたってこと?}

「…これはもう決めたことだ。今後何があろうと変えるつもりは無い。」

「…そんな!奥様方は知っておいでなのですか!?」

「これは私が独断で決めたこと。他の誰の意見でもない。私が一人で決めたことだ。」

「…許されると思われるのですか、こんなことが…!!」

「許される、許されるではない。もう、…決めたことだ。」

「そんな…、そんな馬鹿みたいなこと…!」

フィーネが俯き、怒りに身を震わせていることが周囲の空気から感じられる。と、再び父様が俺に向かって話し始める。

「いいな、これは私が独断で決めたこと。恨むならば、私を恨むのだ。いいな。」

そう言って父様はソファから立ち上がった。仕事用の机だろうか、そこに回りこむように歩を進め、引き出しを開け何かを取り出しているようだ。

「フィーネ。」

「…はい。なんでございますか?」

未だに俺の処遇に納得がいって折らず、声色が怒りに満ちている。

「これをお前に渡す。」

「…なんでしょうか。これは…。」

「ホーングランドの別荘の鍵だ。」

「ホーングランド?フレムハルト家の領地ないでもっとも遠い位置にある、というより領地の端で回りは人も居ない別荘では…、まさか…。」

「リムハイド。」

「…はい。」

「お前はそこにフィーネと二人で行くように。今日より3日。それまでに出発すること。…わかったな。」

父様は有無を言わさぬような、物言いでそう告げる。

「な…!旦那様!」

「そこに居てよいのは7年。それまでに一人でも生きられるようになるのだ。7年が経ち、まだそこに居座るようならば、強制的にそこを追い出す。それまでに力を付けるのだな。その後は冒険者になるのも良し、王都の学校に行くのも良し。学校に行くのならば、通い終えるまでの資金は出してやろう。だが、この家に戻ることだけはならぬ。いいな。私が言いたいことはそれだけだ。」

「お待ちください!そんな理不尽を、まだ幼いリム様に強要するのですか!」

「くどい!…これはもう決めたことだ。…良いな。」

父様は、そういい残して隣の部屋に行く戸を開けて、出て行ってしまった。

「なんという、なんということでしょか…。」

フィーネはそう力なく呟いた。

その場に残された俺には自分が父様に捨てられたという思いが強く心に刻み込まれた。ただ力なく悲しみが目を通して溢れるのを拭うことなく、フィーネに寄り添われながら、その場を後にした。


 リムハイドの処遇を言い渡し終えたマグナスは独り、暗い書庫の中、誰に言うわけでもなくこう呟いていた。

「これでいい…、これでよかったのだ。これしか方法はなかったのだ…。すまぬ、リムハイド…。」

と。


ええ、やっと主人公が動き出します。

これからやっとファンタジーっぽいことを出していけると思います。

今後も更新は不定期ですが、二週間以内の更新を目指していきます。

よろしくお願いします。それでは。

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