儀式の結果と今後の処遇(前編)
…遅くなりました。活動報告に載せていたように、何とか週末更新を果たしました。
『ではこれより、フレムハルト家、四男、リムハイド・フレムハルトの魔術適正の判別の儀式を執り行う。』
{ついに自分の魔術適正が分かるときがきたのか!適性の結果によって自分の立場がどうなるのかがこれではっきりするな。緊張しているの半分、でもワクワクしている気持ちもあるな。}
俺は魔術協会から派遣されてきた儀式を執り行う監督者の前に跪きながら自分の心情を観察していた。なぜなら、
『おお、大いなる意思の元に今新たなる魔素の恵みを受けし者、このものはリムハイド・フレムハルトなるもの…』
判別をする前の、この何かに捧げる祝詞みたいなものが超長いらしい。時間にして約30分。跪いて頭を下げながらの状態を30分も耐えなくてはいけない。しかもフィーネ曰く、
「あの言葉にはほとんど意味はありませんよ。」
とのこと。やってらんね~よ。じゃあ、なんでそんなこと必要なの?と聞いたら、
「一種の願掛け、みたいなものですね。適性の結果が少しでも良くなりますように、と願いを込めて置く感じです。まぁ、それで結果が良くなったという話も、聞きませんけどね。」
なるほど。うん。ますますやってらんね…。
『…よって、彼なるものに大いなる意思の寵愛と加護を与えたまえ。』
…やっと、終わった。あ、足ががくがくいってる。意識も朦朧としてるし…。くっ…、あともう少し。もう少し耐えれば判別が終わる…。それが終わったら倒れても良いらしいから。この儀式を受けた子供はみんな倒れるらしいし…。…ん?みんな倒れる?…もしかしてこの無理な格好で、拷問みたいな無意味な言葉を聴き続けるのって…、儀式の神秘性を出すために、儀式が終わると子供がみんな倒れるという状態を作り出すためにし…ている…、だけじゃ…。あ、無理、倒れる…。
トサッ。
リムハイドが床に倒れる音がした。
よかった、横向きに倒れている。
「リム!」
横に座っていたリーデ姉さんがリムハイドを心配し声を上げた。
「大丈夫よ、姉さん。それにまだ儀式は終わっていないよ。」
「あ、ええ、そうね、フィー。…これからだものね。」
自分の生んだ娘、長女のリュリーナの儀式のときをふと思い出す。
リュリーネのときは顔面から床に激突して顔中鼻血塗れになったっけ。あのときは焦った。あの子、女の子なのにあの倒れ方は不味い。気を失っても横に倒れるように片膝をついた状態で跪いているのに、あの子はなぜか顔面から倒れるし、ドグシャッ!という悪い意味でいい音を出して。まあ、顔の傷のほうは魔術で回復してこと無きを得たけれど…。
さて、これでいよいよリムハイドの適性がみんなにバレてしまうか。フィーネに呼ばれて、姉さんと適性の確認したときは正直言葉も無かった。どうしてこの子はこんなに不遇なのかと。目が見えないだけなら、まだこの家にいることはできる。周りから冷たくされ、厄介もののレッテルを貼られても、貴族、それも大貴族の一員として扱われる。でもそれはあくまでもその資格があれば、の話だ。火の魔術適性、これが高いことがフレムハルト家の一員であるために必要な条件。火の貴族を代表し、四大貴族という地位に立ち続けるフレムハルト家の一員である以上はその条件を満たしていなくてはならない。過去に適性が低いものは家を追いやられることも珍しくなかった。他の火の貴族でも同様で、私の実家のバーナディック家でも家督を継いだ父の兄が、火の魔術適正が弟である私達の父より低いという理由で家督を継ぐ権利を剥奪され、家を追放された。このことは他の水、風、土の貴族でもありえること。それを考えると、リムハイドの適性がマグナスにバレたら…。
それにおそらくだけど、未だに原因の分からないあの閉じた眼の中の瞳も火の魔術適正が低い以上、”赤”である可能性はほぼ無い。もし目が開いたとしても瞳が赤色でなかった場合、髪の毛の黒色ということも含めて考えても、外見も魔術適正の面から見ても火の貴族に相応しくない。そう判断せざるをえない。もちろん私や姉さんはそんなことをとやかくいうつもりは無い。だって、あの子は大事な私の子供のひとり。私がお腹を痛めて生んだ子ではないけれど、私達姉妹の子供だ。みんな等しく愛している。けれど夫のマグナスがどう思うかはわからない。正直に言えば、おそらくリムハイドをこの家には「不要」としている。
「はぁ。ままならないわね…。」
そう小声で小言を零し、大詰めに入った儀式に目をやる。しかし、リムハイドはよくあの言葉が終わる最後まで耐えたものだと、感心する。普通は15分も耐えられないはずなのに。
このような儀式を行うのは地人族だけだ。他の人種は魔術の適性判別にこのようなまどろっこしいことはしない。判別方法は人種によって異なるが、地人族の場合は4属性全てを使うことができる故に、このような儀式を執り行うようになっている。適性が4属性もあることで、地人族は他の人種に比べて適性の判別が難しいのだ。
5歳という年齢で、あのきつい体勢を保ち、尚且つ無意味に聞こえる言葉の羅列をひたすらに聴く。言葉の中には人の意識に働きかける言葉が随所に置かれそれが疲れて朦朧としているところに聞こえてくることで、意識が朦朧としていき、無意識のある領域が活動を始める。そこは魔素の使用を司る無意識の領域。そこが活動をし始めると本人の意思とは無関係に体内にある魔素を自分の魔術適正のある属性に変換して多量に排出し始める。
このときは人が普段身に纏う魔力が、属性を感知する力を持たない人でも五感を持って感じることができるほどの濃度を持つようになる。それを持って個人の魔術適正を判別することになっている。この儀式会場には特殊な結界が張られていて、感知がよりし易くなっている。更にこの結界には儀式の結果を魔道具(特殊な加工の施された紙)に記録する術式が組み込まれているのだ。そうすることで、人の目による確認と道具による確認を取り、より正確な適性判別を行えるようになっている。そこまでするのは、地人族が4属性も扱える故のこと。ここまでするのは、どの属性がどれだけ使えるのかをはっきり見極めて、優れた魔術使いを多くしたいという国の方針があるからだ。
兎も角、この儀式で誤った判別が起こることはまず無い。そして先日私や姉さん、フィーネがリムハイドの魔力を感知し、判別した魔術属性にも誤りはない。特に”宝核の眼”を持って判別したのだから確実だ。結果を知ってしてこの儀式に望んでいる私達は、今はもうリムハイドを見守ることしかできない。
自分の思考に沈んでいたそのとき、突然私の感覚全てが”水”に沈んだ。
{え?}
冷たく静かで、でもどこか安心できるような、身も心も清らかになっていくような感覚に見舞われた。しかしその突発的に私を襲ったその状況は以上で対応しようとした、次の瞬間、今度は”風”に揉まれた。荒々しく、全てを吹き飛ばしていく、暴力的なまでの奔流。自分を包む魔力が無意識に防衛の膜を形成しようとしているのが分かる。周囲に居た他の家族も慌てている。
{何!?この状況は!?あ、まさか!}
隣の姉さんを見ると、同じような状況に陥り、何が原因かを考え、思い当たり、こちらに確認を求めるような表情をして私を見ていた。
{ありえない…!でも、それ以外にありえない。}
頷きあい、この状況を引き起こしたであろう人物を見やる。そこに居たのは、先程から倒れたまま動かないリムハイドがいるだけ。しかしその周囲には彼から属性変換され放出された魔素により、より知覚しやすくなった彼の魔力が渦巻いていた。水と風、青と緑の流れが、彼を中心に渦巻いている。さきほど私達を襲ったのは余波が私達まで届いたからだろう。彼のもっとも近くに居た儀式の監督者は腰を抜かし、呆然としている。しかし、自分の役割を思い出したのか、ハッとして立ち上がり、リムハイドの魔術特性を見極め始めた。リムハイドの風、水の魔術特性が高いことは事前に知っていたがこれほどとは思わず、私も少なからず放心していたが、監督者の立ち直るところを見て、少し冷静になれた。少しずつリムハイドを包んでいた渦が晴れてきた。すると今度は拳ほどの大きさの土の塊が彼を守るように、彼の周囲に十数個、グルグルと浮かんでいる。やがてその土の塊もハラハラと解けて消えていった。そして最後に残ったのは、小さな灯火。はかないほどの、今にも消えそうなほど頼りない火。それが彼の上に漂っている。
{ああ、やはりこうなるわよね。}
それを見て出てきた感想は、それだった。
それは誰が見ても分かるものだった。その状況を見て誰もがこう思うだろう。
『彼には火の適性がほとんど無い。』
監督者の顔を見れば、気の毒そうな、そしてやりきれないような表情を浮かべ、リムハイドを見ていた。はっとして、夫を見やる。そこには何の表情も浮かべず、唯、リムハイドの上を漂う小さな火を見ているマグナスが居た。
{ああ、ダメだ…。}
マグナスを見てそう感じてしまった。何も表情を浮かべないあの顔。あれは何かを決意し、実行することを決めたときの彼の顔だ。その決意は何を言っても覆らない。今までの経験から言えることだ。何を決意したか、今はマグナスしか分からないけれど、少なくともリムハイドに取って良いものだとは思えない。マグナスはリムハイドにどんな処遇を下すつもりなのか。不安が胸に広がる。私は俯き、マグナスからもリムハイドからも目を離した。
だから、それを見逃した。マグナスの表情の変化も、リムハイドの発した火の変化も。それを見逃したことを知ったのは随分後のことだった。
―5年前、私、リュリーナに新しい弟が出来た。名前はリムハイド。最初は可愛くて仕方が無かった。始めて見た時は、髪の毛が黒くて、それがとても神秘的で綺麗で、なぜか泣きそうなくらい感動してしまった。目が開かないことを可哀想と感じ、私も可愛いリムハイドのために何かしてあげようと、そう思っていた。でも、次第にその思いも小さくなっていった。リムハイドの目の開かない原因を調べるお母様達。始めは私も出来ることは協力していた。でも時間が経つにつれて、私の心に少しずつ諦めの思いが募っていった。更に、貴族のしての責任や義務などをお父様から習うにつれ、私のリムハイドを嫌悪する心の動きが生まれてきた。私はお父様を尊敬している。お父様のすることは全て正しいと考えている。だから、お父様がリムハイドを疎んじられているのも感じ取っていた。それでも私はリムハイドを完全に嫌いにはなれなかった。でも、リムハイドを愛しく思う心が、諦めと嫌悪に傾く出来事が起きた。フォルナス、フィグハルトの悲しみの言葉を聴いたことだ。お母様達がリムハイドのことで時間を割くようになった。そのため、まだ幼かった弟達は甘えることが出来なかった。はじめは我慢していたのだろう。でも私が王都の学校の長期の休みで帰ってきた際、それまで我慢してきた思いを泣きながら私にぶつけてきた。
「どうしてリムハイドはあんなに構ってもらえるの?自分達はいつもいい子にしているのに、いつもいつも母様達はリムハイドばかり構ってる。寂しいよ、辛いよ。でも我慢してる。でも、どうしても許せない。リムハイドは母様達を僕達から奪ったんだ。」
私は何も言い返せなかった。ただ、彼らを抱きしめてあげることしか出来なかった。それまでの家族は何一つ問題なく、円満だった。皆が笑い合っていた。でもリムハイドのせいで愛する弟達が苦しんでいる。リムハイドも弟ではある。けれど彼には本当に貴族としての資格があるのか?この誇りあるフレムハルト家の一員としての。目が見えないのから、王家を守るための武を収めることも出来ない。それに火を象徴とする家にあるのに、髪の毛は黒く、目の開かない故に瞳の色さえ分からない。なぜこの家に生まれてきた。どうして家族を苦しめ、悲しませるのか?家族はお互いに尊重し合え、助け合えるものではないのか?グルグルと、ぐるぐると私の思考と心が絡まり、やがて晴れた。そこに残ったのは、リムハイドに対する嫌悪だった。それから私はリムハイドから距離を置いた。そして双子の弟達を母達の変わりに目いっぱい可愛がることにしたのだ。
そして今日、私はリムハイドの魔術適正の判断儀式に参加している。フォルナスとフィグハルトの間に座り、跪く彼を見やる。随分と持つものだ。もう30分経ってあの言葉も終わってしまうのではないか。私は10分と持たなかったが、根性だけはあるのか。ああ、倒れた、やっとか。…ふむ、やはり普通は横に倒れるのか。フォルもフィグも横に、コテン、と倒れたし。私は顔面からいったなぁ…確か。意識が朦朧としていたから痛みは無かったけど、倒れたとき薄っすらと目の前が真っ赤になったのは覚えている。後からお母様から小言言われたっけ、「あの倒れ方は有り得ない。」と。「別に良いもん。私は肉体系女子だから体が丈夫だもん。」って言ったら、呆れられたっけ。
っと、ようやくリムハイドの魔力が見え始め…、え?
私の目の前が青一色に染まる。と同時に、身が水の中に突然放り込まれる錯覚に陥り、目を瞑り、息を止める。両脇に居た弟達が私の手を強く掴んだ。それに応じて私もフォルとフィグの掴んだ手を引き寄せ、3人で身を寄せ合う。ほんの短い間、身を硬くしていたが、この身を浸す水が私達に害意がないように思え、気を緩めた瞬間、今度は正面から突風が吹いた。息が詰まる。体を小さく折りたたむように頭を伏せた。耳元を轟々と風が流れる。一体何が起きたのか。両脇の弟達を守るように二人を更に身に引き寄せた。しばらくすると、風が弱まっていった。私は弟達と恐る恐る身を起こす。周囲を見渡すと、無表情に正面の祭壇を見るお父様、その隣に呆然とした表情で同じ方向を向くマグフォルト兄様が見えた。お母様達も少し厳しい顔で祭壇方向を見ている。みんなに習い、私もそちらに目を向ける。するとそこには先程、私を混乱させた状況を作り出した現況が居た、自身の周囲を有り得ないような濃度の魔力に包まれたリムハイドが。彼の周囲には水と風の属性が色となって現れ、彼を中心に渦を巻いている。その光景は有り得ないほど美しかった。始めて彼の黒い髪を見たときと同じくらい心が動いた。清らかで、でも強くて優しくて。青と緑が混ざり合い、幻想的な光景を生み出していた。その光景に心奪われていたが、次第に自分がなぜここにいたかを思い出す。そう、これは魔術の適性を判断するための場。今、自分が目にしている光景が意味しているのは、リムハイドの魔術適正そのものなのだ。すると、彼の適性は…。
{水、そして風の適性が強いということ。それも普通の人では有り得ないほどに。}
フォルとフィグのときは、ここまでの状況にはならなかった。…まあ、それでも二人から火柱が立ち上り続けたのだけど…。リムハイドの周囲を覆っていた青と緑の殻が薄れ、今度は彼の周囲を覆う、多くの土塊が見えた。それが役目を終えたように崩れ去ると、最後に残ったのは、火。あまりにも弱弱しい、吹けば消し飛んでしまうような、そんな火が見えた。そこから分かることは一つしかない。彼には火の適性がない。あってもほんの少しだ。それが分かったときの私の中に浮かんだ言葉は「…え、何で?」だった。あれほどの魔力を持ちながらどうしてあなたには火の適性がないの?と。だってそうでしょ?宝の持ち腐れじゃない。全然意味が無い。そう、全然、意味が無いのだ。フレムハルト家にありながら、身に宿しているのはこの家には必要の無い力。それなのにその力は強大だ。強大であっても、象徴である火でない以上、誇りにもならない。唯、邪魔になるだけじゃないか。本来彼が持つべきなのは火の属性。でも実際持っていたそれはちっぽけで、役に立たない。
{はは、笑える。ハハ、嗤える。これで分かった。彼はこの家に必要ないんだ。必要なかったんだ。なんだ、そうか。そうだったんだ。ハハハ…。}
彼の儀式の結果を見て私が自分で得た感情は、「可笑しさ」だった。自分ではそう思っていたのだ。でも、そのときの私の表情は、フォルとフィグにはこう見えたそうだ。
「リュリーナ姉様はなんだかとてもつらくて悲しそうで、それなのに無理やり笑っているような表情だった。」と。
そんな心境だったからだろう。私はその小さな火の最後の変化を見逃してしまったのだ。リムハイドの持つその「火」の本当の姿を。そのことに気付くことになったのは、その後数年が経ち、家を出たリムハイドが再びこの家に戻ってくる出来事があったときだった。
前編後編に分けることにしました。したといいますか、後半書いていたら、明日になりそうで…。後半も明日(9/22)には更新する予定です。少々、お待ちください。




