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その瞳に宿すものは  作者: aoshishi
第Ⅰ章 誕生~幼少期
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プロローグ

序章 プロローグ


彼、佐々木 康介はあるときから足が動かなくなってしたまった。不自由に思うこともあったが、動かないものはしょうがないと諦め、その事実を受け入れていた。しかし、あるときから足が動かないことをひどく悲しく思うようになった。


足が動かないことから、彼は本を読むことを趣味としていた。趣味というよりはライフワークという方がしっくりくる。始めは推理小説から入り、新書の分野も内容の如何によらず、読んでいた。あるとき、友人からライトノベルという分野の小説を進められた。試しにと呼んでみると、なるほど面白い。現実にはない世界観、ありえないような人間関係、自由に旅する人々の生き生きとした生き方。どれもが新鮮だった。それからはライトノベルもよく読むようになった。特に力と力がぶつかるような戦いに魅入られるようになった。自らの拳に思いを託してぶつかり合う。そんな世界に憧れるようになった。

そのうちに、こう思うようになった。

「自分もこの小説のキャラクターのように自分の足で、自分の意思で歩いて生きたい」と。

敵と武器を持ち、あるいは拳で語り合うことなど、現実世界ではありえなくとも、小説の世界の登場人物のように自分の意思で歩いて行けたら、と思うようになった。


それからの彼は変わっていった。なんとか動くようにして歩けるようになりたいと。

その頃の彼は、武道や拳法に興味を持ち、その関係の本も読むようになっていた。特に中国拳法の八極拳、形意拳はよく小説にも出てきて、興味もあったのだろう。ほかにも日本刀を用いた居合い術も彼の興味を引いた。「自分の足が動くようになったら」と周囲の人間が驚くほど、彼は変化していった。今までは行かずに避けていたリハビリに対しても積極的になっていった。彼の変化に始めは戸惑っていた家族も次第にその変化を喜ぶようになり、彼のリハビリを応援するようになっていった。


そして、彼が走るまでもいかずとも支えもなく、自力で歩くことができるようになった頃、それは起きた。


「もう大分、あったかくなってきたな。」

彼こと佐々木 康介は散歩に出ていた。今は4月も終わり、大分暖かくなってきた5月の頭の連休の晴れた日。昨日は雨で一日家で武術の本を読んでいた。今日は朝まで曇っていたが、午後になり、日差しが射してきて、今散歩に出たら気持ちが良いだろうと思い、近くの公園までふらっと行こうと思い立ち、一人で出てきた。

「一緒に行こうか?」という心配する妹の誘いを断り、初夏のにおいがする空気を吸いながら、公園へと向かっていた。


「まぁ、愛美が心配するのはありがたいがなぁ。」

と、ふと思ったことを口にした。康介は先週ようやく杖がなくとも歩けるようになったばかりであった。今も一応杖は手にしているが、ほとんど使わずに歩いている。

「もうすぐだ、もうすぐ走れるようになる…、そしたら…。」


『走れるようになったら武道を習いたい。』


彼は、リハビリに取り組み始めた理由を聞いた両親にそう答えた。彼の両親は始め良い顔をしなかったものの、康介のリハビリに対する熱心な姿勢に、「走れるようになったら」とその願いを受け入れてくれた。


「もうすぐだ、はは。」

わくわくする気持ちと、自分の目標にようやく手が届きそうなたまらない気持ちが康介の中には満ちていた。


そんなとき。


『あぶない!!』


「えっ?」


振り向いた先には、蛇行してこちらに向かってくるトラックが見えた。

”逃げなくては。”

そう思った。

周囲の人は走って非難できている。

”でも自分は、自分の足では。”


『早く、何してる!』


”わかってる!”

”でも!”

”でも自分は、自分はまだ…、”

”…まだ走れないんだよ!”


必死に歩いた。

自分の今出せる限界の速さで。

死にたくないと、必死に。

でも、それでも。

歩くことでは、逃げ切れなかった。


{ドグシャ!}


トラックがガードレールにぶつかる音がした。

振り向いて

そうしたら、


「あ」


「きゃあああ!」

「ああああっ!」


”ドッ”と、

目の前に赤い花が咲いた。

自分が宙を待っているのがわかった。

手から杖が舞った。

ああ、そうか。

自分は

轢かれたのか。


冷静に分析している自分がいた。

周りが煩い。

「…救急車を…」

「だれか近くにある診療所の…」

「おい、この子、佐々木さんとこの…」

周りが何かを言っている。

音は拾えているのに…、痛い?

ああ、痛みで意識が朦朧としているのか…。

はは、もう少し…だっだのになぁ…。

走れるよう…になっ…ていれば…なぁ。


「え?お兄…ちゃん?」

…あ。


「お兄ちゃん!嘘でしょ!?」


ああ、愛美か。確か…友達と出…かけるとかで。

俺の散歩に付いて行こうか?…って。

友達…との約束に…遅れるのはだめだ…って

俺がそれを…遠慮した…んだっけ。


「お兄ちゃん!しっかりしてよ!」


はは、良かっ…た。

愛美が…付いて着てたら、二人とも巻き…込まれてたな。

良かった、ほん…と良かった。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん…!しっかりして!」


ごめん…なぁ、いろいろ迷惑…かけたよなぁ…。

こんな終わ…り方なんだなぁ、は…はは。

まだ、左手は動くな…。

血…、付いちゃう…けど勘弁…な。


「お兄ちゃん!おにぃ…、え?」


ポン、と彼の手が妹の頭に乗った。

そして、


「ごめ…ん、ありが…と…」


手が滑り落ちた。


「あ…あア…。」


「愛美ちゃん!久保診療所の先生が今来る…「ああああああ!」…って…。」

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」



この日、佐々木康介は死んだ。

享年は18歳だッた。

トラックの運転手からは多量のアルコールが検出され、業務上過失致死に問われた。

その後には彼の家族には大きな悲しみを残したが、事故現場にいた愛美が立ち直ることで、次第に立ち直って行ったという。


そして、世界が変わる…。


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