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王と竜と公爵令嬢

作者: てんきどう
掲載日:2026/06/07

夢でヒントを得たお話です。

よろしくお願いいたします。


加筆修正しています、


「スターリング公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」


 この国の皇太子リノレン様から婚約破棄を宣言されました。

 私の人生って、なんだったのかしら。

 彼は最後まで、私の名前さえ呼ばなかったわね。



 私は幼い頃から、敵国ネロリ国へ人質として追いやられていた。皇太子の婚約者で準王族。だから人質の価値があるとされたのだ。

 そして、やっと帰ってこられたと思ったら、帰還祝いのパーティで婚約破棄。

 私は使い捨てられたわけです。


「おまえの事は分かっている。ずっと熱心に手紙を送ってきたからな。俺に夢中なんだろう。始めは読んでやったが詩なぞくだらなくて捨てたよ。そのうち忙しくて封を開けることもしなかったが!」


 私を知った気になって、手紙を確認することすら止めていたのね。あの手紙には詩になぞらえて、ネロリ国の情報を書いていましたのに。

 返事が来ないことを疑えばよかった。


 彼の腕にぶら下がっている派手な美女は、私の義妹です。私が人質になっている間に、父が愛人と作った娘。誇らしげに言います。


「お姉様は愛されていないんですの」


 知っているわよ。下品なニヤニヤ笑いをやめてほしいわ。



 ……こんな事なら、ずっとネロリ国にいれば良かったわ。

 少なくともあの国には、幼馴染がいた。

 泣き虫で臆病な、私の第四王子様が……。


 公衆の面前で辱められながらも、私は彼を思い出して、ほんの少しだけ笑った。




*****



 ネロリ国の第四王子ドラコ・レックス。

 彼は、母の身分が低く王位継承権はあったが、泣き虫で臆病で、王位につく可能性はないとされていた。

 そして兄達に虐められては、王宮の隅で泣いていた。


「ハイドレンジア。兄上達がひどいんだよ。ぐすんぐす……」

「また泣いているのですか、ドラコ様。あんまり泣くと、涙で目が溶けちゃいますよ」

「えっ、それはヤダ……」

「それでは泣き止んでください。いい子いい子してあげますから。ほら、涙を拭いて」

「えへへ。ハイドレンジアはやさしい……」


 顔を涙でぐしゃぐしゃにしていたドラコ。

 彼は、唯一優しくしてくれるハイドレンジアが大好きだった。

 世界で一番綺麗で優しいハイドレンジア。 

 この国に人質にきた姫君だというけれど、そんな事は関係なかった。

 いつか彼女は、婚約者のいる母国に帰る。その時が永遠に来なければいいのにと思っていた。


 彼は暇を見つけては、彼女のあとを追いかけ回す。

 彼女が彼を見る目も、かけてくれる声音も、とても優しく美しい。ずっと一緒にいたいと願っていた。


 彼女の婚約者とかいうリノレン皇太子からは、全く連絡もこなかった。だから彼女はもう国に帰らないで、この国にずっといると思っていた。

 でも国の情勢が変わったとかで、彼女が帰国する事になった時は、彼は泣いた。わんわん泣いた。


「必ず君に会いに行くから。待っててね」

「……来なくていいわ。私の国とあなたの国は仲が悪いもの。あなたに何かあるかもしれないもの」

「そんなの関係ないよ。君が大切だから。会いたいから行くんだよ!」

「馬鹿な人」


 ハイドレンジアは、いつものように美しく、そして困ったように笑う。

 それが別れだった。


 彼女との別れの後も、ハイドレンジアは彼の大切な人だった。

 いつか出会える日を夢見て、勉強も鍛錬もドラコは頑張った。魔法も使えるようになったが、それは隠していた。あまりにも優秀だと分かると、兄達のやっかみが酷くなるからだ。いつか王族をやめて、ハイドレンジアのいる国へ行こうと、ドラコは漠然と夢見ていた。

 


 ドラコは、海辺を歩いていると怪我をした竜に出会った。彼は竜に手当てをしてバハムートと名前をつけた。食べ物を持っていくうちに、バハムートは彼によく懐いた。


 兄達の政権争いが激しくなって、何処の派閥にも属さないドラコは、ターゲットにされてしまった。

 ドラコは強かった。密かに鍛えた剣で、襲ってくる敵を倒し続けた。

 長兄は毒殺され、次兄は反乱を起こして失敗し、三男は敵国のスパイになっていた事がバレて失脚した。

 王位継承者が次々消え、重臣達は最後に残ったドラコを推戴した。


 気づくとドラコは王になっていた。

 妻は娶らなかった。


 戴冠式の夜、ドラコは部屋で暗殺者に襲われた。

 もう少しで死ぬところだった。

 隠し持った魔法で敵を倒す。魔法を秘密にしていたので、敵の攻撃の裏をかけたのだ。

 

 ……ドラコは死ぬかと思った時、ハイドレンジアを思い出した。

 だから、駆けつけた重臣達に告げた。


「ハイドレンジアに会いに行く」


 そのまま、バハムートの背に乗って、窓から飛び出した。


「王よ!」

「一泊二日で戻る。後はまかせた!」


 竜ならば、馬車で何ヶ月もかかる旅もあっという間にいける。

 ドラコ王は海を突っ切ろうと言うが、バハムートはもうすぐ雨が降るから海沿いがいいという。

 彼は自身を魔法で軽くして、魔力で丸く彼自身とバハムートを包んだ。

 バハムートは雨の中を、ドラコ王の魔法によって濡れずに飛ぶ。国々に通ることを申請すると、大仰になって手続きが必要だから何ヶ月もかかってしまう。海沿いの崖や学校、教会の上を飛んでいく。見えない魔法をかけてあるが、晴れると影が海沿いにうつり、牧師に気づかれた。ドラコは一瞬、話をするかどうか悩んだが、そのまま飛びつづけた。

 

 


*****




 ざわめく王宮のパーティで、ハイドレンジアは追い詰められていた。


 ……私は物心ついた時にはもう「役目」があった。

 母国の皇太子の婚約者で、この国に人質として連れてこられた。誰の前でも泣かなかった。感情を見せては駄目だった。常に準王族らしく振る舞えと言われ続けた。

 差別され、監視されて、孤独に耐え抜いたのだ。

 国には名ばかりの婚約者。

 国に帰れば隣には女がいた。

 そして今、冤罪をかけられて婚約破棄された。

 

 泣いては駄目。泣いたら、負けたと思われてしまう。あまりにも興奮したせいか、目に水分が溜まっていく。……泣きたくないのに、負けたように見えてしまうわ。


「婚約破棄を受け入れます」


 リノレン皇太子は、私の言葉を聞くと歪んだ笑いを浮かべた。


「そうか。貴様にはもう用はない。衛兵、あの女を捕らえて牢に入れておけ。そうだな罪状は……」

「私を虐めた罰、なんかどうですかあ。殿下ぁ」

「それがいいな!」

「ふざけないで!」


 衛兵達が近づいてくる。

 父である公爵も知らんぷりだ。裏で何か取引でもあったのだろうか。

 こんな人達を信じて、ずっと努力してきたなんて!


 私は衛兵達に追い詰められて、ジリジリと壁際のバルコニーへ後退るしかなかった。



 その時、背中から大きなマントが私にかけられた。

 私の後ろには海を見渡せるバルコニーへ通じる窓がある。でも誰もいなかったはず。

 だれ!?


「ハイドレンジア。やっと会えた」


 太陽のように笑った人は、幼馴染みのドラコだった。


「……来たのね」


 困ったように照れたように、彼は笑う。

 最後に会いたい人に会えたから、私は素直に肩の力が抜けた。楽な気持ちになれた。


「来なくていいと言いましたのに」

(違う。こんな事が言いたいんじゃないのに。素直になれないのが悔しい)


「君の元気な姿を確認したくてね。君の元気な姿を見られたら、俺が元気をもらえるんだ」

「相変わらずストレートね」


 そう、こういう人なのだ。私にストレートに気持ちを見せてくれる。だから、私も素直になれるのだ。


「ずっと君にプロポーズしていた。君には不幸なことだが、婚約破棄されたみたいだから、今度こそ私の妻になってほしい。君以外を、私の妻には考えられない」

「……仕方のない方ね。あんな遠い国から……」


「返事は?」


 泣き虫のくせに。私を迎えに来ると言った人は、本当に追いかけてきてくれたのは、あなただけよ。


「いいですわ。お受けいたします」

「やったあ!」


 彼は子どものように無邪気に笑うと、私を嬉しそうに抱き上げた。


「一緒に帰ろう。帰って式を挙げたら、君は王妃だ」


 私は驚いて目を見開いた。

 私がネロリ国を旅立った後に、何があったのだろう。この国では情報が届くのが遅いのよね。

 義妹の扇子が、悔しそうな音を立てて折れた。


「ま、待て!」


 元婚約者の皇太子が声を上げた。もう私には関係のない方だ。


「……なにか?」


 私との話を邪魔された怒りで、ドラコの魔力が王宮の広間を埋めつくす。

 威圧された貴族達が、腰を抜かして倒れていった。

 相変わらず底抜けの魔力量だ。


「魔力のコントロールが上手くなったのね」

「一生懸命練習したんだ。君に会いたくて」

「ああ、そうだ。この国の王はどこかな。ハイドレンジア嬢を、ネロリ国国王が貰い受ける。異存はないな」 


 ドラコの魔力で、王宮の床がミシミシと音を立てた。

 王は慌てて隣にいた宰相に囁く。宰相が文官を呼び寄ると凄い勢いで執筆させて、玉璽を王が押した。

 その書類をドラコに恭しく差し出した。

 ドラコはその書類を私に見せる。


「……確認して」


 私は書類を隅から隅まで読み込んだ。不備はない。ドラコや私に不利なる事は書かれていなかった。私がネロリ国の住人になり、王族に嫁ぐことを許可する内容だ。


「大丈夫よ」


 ドラコは書類を鞄に大切そうに入れると、私をかかえたまま、バルコニーから飛び出した。

 相変わらず無茶な人である。

 バルコニーの下には竜がいて、私達を受け止めた。 そして、ふわりと飛び上がったのだ。


「この竜は……」

「名前はバハムート。俺の友達!」

「そう。友達ができたのね。よろしくね。バハムート」


 バハムートは、誇らしげに吠えた。



「ハイドレンジア……?」


 元婚約者が、初めて私の名を呼んだ。


「皇太子殿下。私はもう貴方の婚約者ではありません。名前で呼ばないでください」

「そ、そんな……。君を牢で愛人にしてやるつもりで……」

「最悪です」


 ドラコの魔力が暴風となって、殿下を後ろの方へ吹き飛ばした。竜が元婚約者を睨みつける。


「……いい気味だわ」

「君が望むなら、この国を君に捧げようか?」


 ドラコが不穏な事を真顔で言う。


「ダメよ。貴方にそんな事はさせられないわ。帰りましょう、私達の国へ」

「うん!」



 ドラコと私は竜の背に乗って、どこまでの広がる青空のもと、心地よい風を受けて旅立った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


挿絵(By みてみん)

挿絵を描かせていただきました。

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