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放浪のエル  作者: ゆう
第一章
19/88

十八



 ほとほと呆れるばかりだが動けないものは仕方がない。

 私も少し休憩しておこうかと思ったのだが、スケルトンやロックゴーレムという動く石の塊のような魔物が次々と湧いてくるので駆け回って戦っているうちにルトは回復した。

 もう何を見ても驚かないと言ったからにはそうしてほしい。



「エルは休まなくて大丈夫?」


「大丈夫ではないがどっちにしろここじゃ休めない。安全な場所を見つけるか、次の階層へ進んだ方がいいな」


「わかった。僕もできる限り援護するよ。進もう!」



 疲れは感じないが体の疲労は溜まると前にシロが言っていた。いざという時に体が動かなくなる前に休憩は挟みたい。

 だがここは魔物が多すぎる。また湧いてきたスケルトンを剣で叩き割ってから私たちは四階層の探索を再開させた。


 やはりこの階層も広い。そして魔物の出現率が桁違いだ。止まっている暇がないくらいに。

 最初のコウモリの大群以降そこまで強い魔物は出てきていないのだが、なにぶんロックゴーレムはただの剣で斬れないだけに少し面倒くさい。

 援護すると言った言葉通りルトが魔術で攻撃するようになったので、それからロックゴーレムは任せている。その戦い方がまた不思議で見ているのはなかなか面白かった。


 ルトが指先でくるくると宙に術式を描き、すぐさまそれに手のひらを翳す。すると空気中の水分が集まり凝固して鋭い氷の結晶ができるのだ。これは氷の魔術、アイシクルランス。

 術式も結晶も数秒しか保たないようではあるがその一瞬の威力は結構高い。それでロックゴーレムの核を正確に撃ち抜く様は見ていて気持ちが良かった。



「戦えるじゃないか」


「いやいや!これ結構頑張ってる!」


「術式と同じ大きさの結晶しか作れないのか」


「うん。僕の魔力量が少なすぎて術式は拳大が限界なんだ。すぐに消えてしまうし、外から取り込める魔力の量にも限りがあるんだよ」



 背後でシロとルトが会話しているのを聞いて考えてみる。

 術式を書けば魔術を発動する最低限の魔力は集められるけど、戦闘中に限っては悠長に集めていられる余裕がない。

 その点紙に描いた術式は消えない分魔力を集めるには効率がいい。しかし攻撃魔術を発動すると紙の方が保たずに消滅してしまうんだとか。

 だからルトは自分を役立たずと言うのか。使い方の問題な気がするんだけどな…



「あっ!エル、階段だ!」


「よし、飛び込め」



 そうして見つけた階段に二人して飛び込んだところでようやく落ち着くことができた。

 どうやら階段に魔物は入ってこないらしい。階層ごとに違う魔物が出現するのはそのせいか。


 今度の階段はかなり短く、続く五階層も四階層と同じような景色になっているのが見えた。

 上空でドウクツコウモリが待機しているところまで同じである。あれは簡単に片付くとはいえ、また湧き続ける魔物と戦いながら次の階段を探すのは体力的に無理がありそうだ。



「少し試してみたいことがある」



 私たちは少し話した後休憩もそこそこに五階層に降り立った。

 今度はスケルトンやロックゴーレム、上空のドウクツコウモリが一斉に襲ってきたのでルトが短い悲鳴を上げる。



「ルト!」


「う、うん!いくよ!」



 臆している暇はない。

 ルトが今までと同じように宙に術式を描いたのを見届けて、今度は私が割り込んでその術式に手のひらを翳す。

 そうして思い切り魔力を流し込んだその瞬間だった。



「う、っわ……!」



 私たちを中心に突風が巻き起こり、手元の術式は瞬く間に巨大化した。



「え……ちょっと……まさか、こんなことって……」



 戸惑うルトは置いておいて、面白くなってしまった私は尚も魔力を送り続けた。

 形成されていく氷の結晶は術式に比例して大きく育ち、やがて鍾乳洞を埋めてしまうんじゃないかと思うくらいになった時。私はそれを発射させた。


 それはもう、ダンジョンが崩壊したかと思うような衝撃だった。


 発射した直後は世界から音が消えたように静かだったのに一拍後にもの凄い破壊音を響かせて、氷の結晶はただ真っ直ぐに五階層を突き破ったのだ。当然そこにいた魔物を全て飲み込んで。



「し、しぬかとおもった…………」


「おれが護っているんだから死にはしない」


「でもちょっと寿命縮まった気がする…なにあの災厄級のアイシクルランス……えっ、僕の術式から生み出されたの……?いやそんなことあるはずが……」


「シロー!ルトー!来てみろ!休めるぞー!」


「……なんであの子あんなに楽しそうなの?」



 抉られた鍾乳洞は綺麗に何もない一本の巨大な通路へと変貌していた。魔力感知で周辺を見ても魔力の反応はひとつもない。

 綺麗さっぱり吹き飛ばせた爽快感に私は異常にハイテンションだった。


 やっぱりルトの術式はすごい。

 外から取り込む魔力で魔術を発動しているのだから、シロの魔力を強制的に流し込んだら威力が上がるんじゃないかと私は考えたのだ。

 だから術式を書いてもらい、ルトに変わってそれに触れた。

 結果は思った以上。やはりシロの魔力が強すぎることもわかった。でも何よりも、今の私に魔術が使えた!この喜びが大きい。



「ふふふ、これで何がなんでもこの依頼を達成しなければならなくなったな……」


「ねぇ僕の術式悪用されない!?怖いんだけど!?」


「悪用なんてしないとも。私利私欲の為に使うだけさ」


「それを悪用って言うんじゃないかなぁ!?」



 まったく、とため息をつきながらもルトは焚き火の用意を始めた。

 周辺が綺麗に何もなくなったとはいえ、いつ魔物が発生するかわからない状況なのにこいつもだんだん肝が据わってきたんじゃないか?

 地面に術式の描かれた紙を置き、ルトが指先で触れるとポッと火が灯る。その上に持ってきた細い薪を置くと次第に火は大きくなった。


 そういえば、初めて会った時に私が術式を拾ってあんな大火災になったのはシロの魔力が流れ込んでしまったからなのだろうなとふと思った。だとしたら被害があれで済んだのが奇跡に近い。

 ルトのことだから住むにあたって、あらかじめ周辺の木々に火除けの細工をしていたのかもしれないな。



 また焚き火を前に向かい合った私たちは、シロが出してくれた果物を分けながら食べた。

 私はともかくルトは普通に食事が必要だ。手持ちの干し肉はもうほとんど食べきってしまっている。魔物を狩って解体できればいいのだがこのダンジョン内ではそれができないのが難点だった。そうなると自ずと頼みの綱はシロがどこからか取り出す果物というわけだ。



「聞いてなかったけど、ルトの探している道具ってなんなんだ?こんなにダンジョンめちゃくちゃしてるけど一緒に破壊されたりしない?」


「ペンだよ。青くて金の細工が入ったペンなんだ。た、ぶん……壊れるような強度じゃないと思うんだけど……不安だなぁ……」



 ペン。ペンとは羽ペンのような物書きに使うあれか。確かに術式を描くルトには似合いの道具である。



「珍しい魔物の魔石を使って作ったと言ってたな?」


「うん。……昔ね、海で出会った魔物が死に際に譲ってくれたんだ」



 魔物が、死に際に、魔石を、譲る???


 なんとも現実離れした言葉の羅列に訳がわからず混乱していると、ルトは面白そうに笑った。



「大丈夫。幻獣を連れ歩いてる方がよっぽど珍しいよ」



 何が大丈夫なのかさっぱりわからないが。


 ルトは昔を思い出しているのか果物を見つめながらぼんやりしている。その表情はどこか優しげだ。きっとルトにとって大切な記憶なのだろう。

 本人が話したいならまだしも、私の方から容易に尋ねていいものではない。



「見つかるといいな」


「……うん」



 それから私たちは交互に一眠りしてからダンジョンの探索を再開させた。

 大きくなったシロを布団代わりにする私をルトは信じられないと言いたげな目で見ていたけれどそんなことは気にしない。


 さて、結局あれから五階層に魔物が新しく出現することはなく、次の階段は簡単に見つかった。壊れていなくてよかったよかった。ははは。


 階段の下から漂ってくる魔力はまたもや様変わりしており、四〜五階層とは違う雰囲気の階層が広がっていることは予測がつく。

 何があるかわからない。頷きあって私が先に階段を降りていくと、途中から草の匂いとふわりとした温かい風が吹き抜けた。


 そこは草原だった。


 ダンジョンの中には違いないのだが、どこまでも続くように見える雲ひとつない青空と緑の草原が広がっている。

 見渡してみても木の一本も生えていない異様な光景だ。だが、真っ直ぐ前を見ると少し距離はあるが次の階段が見えている。しかし。



「そう簡単にはいかない、か」



 次の階段の手前を陣取るように魔物が三体。

 あれはウルフだ。両端にいるのは普通のウルフに見えるが真ん中のいる奴は黒くてでかい。おそらくブラックウルフという上位種だろう。

 どうやらここに来て難易度が跳ね上がったらしい。まさか上の階層を壊したこと怒っているわけじゃないよな?



「相手がウルフとなると次の階段まで走ってやり過ごすというわけにもいかないか。そもそも振り切れるような相手じゃない」


「う、僕は役に立てるかわからないや……」


「ルトは手を出さないでくれ。あれは私が倒す」



 上の階層のようにひっきりなしに魔物が出現するという様子はない。次の階段までの距離を考えるとここにはあの三体だけなのだろう。ならばルトを余計な危険に晒すより私が一人で戦うべきだ。

 大丈夫。負ける気はしない。ここまで来るのにかなりの数の魔物を倒したが、どれも手応えがなかったからな。ちょうどいいとさえ思うくらいだ。



「まあこの先あれより強いのが出るかもしれないし、ルトは使えそうな術式がないか考えておいて」


「……うん。わかった」


「行ってくる」



 剣を持ったまま歩いて近付くと三体は伏せていた体勢から起き上がった。

 ウルフはともかくブラックウルフはかなりでかい。噛まれたらひとたまりもないなと考えながら私は魔力を周囲に広げた。

 魔力感知で見る魔力もブラックウルフだけが桁違いだ。これだけの魔力量なら強力な魔法を使ってくるかもしれない。気を付けよう。



 魔力を収縮させて自分の周りに針を作る。それを発射させるのと同時に足を強化させて走り出す。

 すると一瞬でブラックウルフの頭上に辿り着いた。そのまま勢い任せに剣を振り下ろそうとして、目前に迫った開いた口に思わず体を回転させて回避行動を優先させる。

 ガチッと牙同士が当たる音が間近で鳴った。放った針は刺さってはいるが大したダメージにはなっていないらしい。

 そのまま空中で身動きが取れないところを横からウルフが二体突っ込んできたので、すんでのところでウルフの鼻先を足場にして距離を取った。


 どうやらブラックウルフは私のスピードに容易に着いてこれるらしい。ウルフは奇襲にさえ気を付ければ問題なさそうだが、さてどうするか。


 距離は取ったが一瞬で詰められて今度は鋭い爪が迫っていた。それを腕と剣を強化して弾く。これは有効。

 ならばと更に剣に魔力を流しクイーンビーの討伐の時に使った光の剣を作り上げた。あの時のような大きさで作ると維持ができないので大きさは大剣くらいである。

 そうしてもう一度迫ってきた爪に向かって振り抜けば、割れた爪が宙を舞う。その向こうでブラックウルフの緑色の目が私を写しているのが見えた。



「っ!」



 咄嗟に魔力で結界の壁を作らなかったら粉々になっていたかもしれない。風だ。このブラックウルフは風の魔法を使っている。

 刃物のような鋭利な風の刃が無数に飛んでくるのを壁で防ぐ。

 それに気を取られていたらまた飛びかかってきて、壁は一瞬で噛み砕かれた。また間近で目が合う。



(――今!)



 キャンッと鳴き声をあげてブラックウルフがよろめいた。その腹には下から針と同じ要領で発生させた光の杭が突き刺さっている。

 おかげで一瞬隙がができたようにも思えたが、二体のウルフの追撃と風の刃を防ぐのに終わってしまった。


 もう一度、と距離を詰めるため駆け出そうとした瞬間、ブラックウルフは空に吠えた。



「アオーーーーン!」


「なんだ……?」



 空気の流れがおかしい。柔らかかった風がどんどん強さを増していく。それは次第に渦を巻き、竜巻が巻き起こった。



「すごいな!」



 魔物の魔法は人間の魔術とは規模が違う。それ自体が自然現象だ。人間が敵うはずもない災害のような現象をも一瞬で生み出してしまう。すごい!



「でも、私はそれを超えていきたいんだよ」



 迫り来る竜巻の中に私は魔力で壁を作った。それは下から段々と数を増やしていき、やがて風の流れを全て断ち切ってしまう。

 そんな中を剣に魔力を集中させて、発生させた壁を足場に進んでいく。

 そうしてウルフたちの頭上に飛び、落下の威力を加えて剣を突き刺した。しかしそれは盾のように重なった二体のウルフに阻まれブラックウルフまでは届いていない。刺さった剣を抜くまでの隙を見逃されるはずもなく迫り来る牙。

 だが、私は動かなかった。


 バシャッと血の弾けた音がする。腹に刺さっていた杭を破裂させたのだ。流石に内側からの破壊は魔物といえども効くだろう。


 私は倒れたブラックウルフの目元に悠々と抜いた剣を突きつけて宣言した。



「私の勝ちだ」



 目を閉じることで終わりを受け入れたその魔物に望み通りの最期を。



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