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放浪のエル  作者: ゆう
第四章
111/115

百八



 頭を覆うだけの兜。体を守る鎧は必要最低限。そして手に持った大きな斧。何よりも目を引くのはやはりその巨体である。私の二倍以上はありそうな身長に、鍛え上げられた筋肉が合わさってなんとも迫力のある男だった。



「えっと、誰だ?」



 横で馬鹿でかいブラックサーペントが暴れていなければその大男にもっと別の反応ができたかもしれないが、こればかりは比較対象が悪すぎる。

 

 二人の元へ駆け寄った私は、真上を見上げるくらいの角度で男を見て問いかけていた。



「俺ぁダーガン。堅牢のダーガンよ!」



 声まででかい。高らかと笑い声を上げるその陽気さはこの状況下には不釣り合い気もするが、緊張感の欠片もない様子は見ていて清々しくも思う。


 というか今、ダーガンと言ったかこの男。



「ダーガンといえば例の勇者パーティにいるっていう剣闘士じゃなかったか?」


「元、剣闘士だけどな。今ぁその時の通り名の堅牢で通してんだ。好きに呼んでくれや」



 堅牢のダーガン。まさかの本人である。

 驚いて思わず目を見張る私に、ダーガンはまた高らかに笑う。


 いや、この大男がダーガン本人であることに驚いているのもあるのだが、勇者パーティは王都の北東方向へ魔物討伐に向かったのではなかったのか。今いるこの森は方向で言えば王都の南側に位置しているはずだ。ならば何故この男はここにいるのだろう。



「エル。この人、あのブラックサーペントと一緒に突然現れたんです。戦っていたみたいでしたのでディもお手伝いをと思ったのですが、あの魔物びっくりするくらい硬くてベールが通らなくて」


「嬢ちゃんのその武器どうなってやがんだぁ?普通布じゃあなんも斬れねぇだろ」


「ディのこれは特別なのです。エルとルトからいただいた宝物ですので」



 上から覗き込むダーガンと、手に持った扇形のベールを胸の前で抱えて得意げな顔で見上げるシンディ。

 なんだか出会ったばかりにしては気安い雰囲気を醸し出している二人だが、それよりも今聞いた事実に驚きを隠せない。

 


「突然現れたって、まさか転移で飛ばされてきたのか!?」



 私の言葉に二人揃って首を傾げるところを見るとどうやら何もわかっていないらしい。

 

 仕方なく簡単にこちらの持っている情報と仮説を話してやるとやっと状況が飲み込めたのか、ダーガンは周囲を見渡してから何故かまた笑いだした。



「確かにここは俺がさっきまでいた場所じゃあないな!」



 楽観的というか、細かいことを気にしない人間なのだろうな。と言っても一瞬で長距離を転移したのだからもう少し戸惑っていても良さそうなのだが。考えるだけ無駄な気がするのでこちらも流しておこうと思う。


 それはそうとダーガンがいるのなら彼の仲間であるテイマーも一緒に転移してきているのではないのか。私からすればそちらの方が気になるところなのだけど、周囲にそれらしき人影は無い。



「ダーガン。お前、仲間はどうした?」


「んあ?そういやいねぇな。巻き込まれたのは俺だけか」


「そうか……それは、残念だ」



 聞けばダーガンはここへ飛ばされて来る前、二人の仲間と共に魔物討伐の真っ最中だったという。


 王都の北東部、神殿の周囲には幾つかの遺跡が点在しており最近やたらと出現する魔物が多くそして強くなってきているらしい。

 どの魔物も並の冒険者が敵うような相手ではなく、白羽の矢が立ったのが勇者の再来と言われる少年剣士率いるダーガンたちのパーティだったのだ。


 あのブラックサーペントもそこで現れた魔物だとダーガンは言う。通常の個体の十倍はありそうな巨体に鎧のように強化された鱗。長期戦を覚悟した三人がバラけて戦っていたと思ったら突然ダーガンの足元が光出し――そして気付けばこの森にいたと。



「残ったお二人は大丈夫なのですか?他にも魔物はいたのでしょう?」


「ああ、あいつらなら大丈夫だろうよ。勇者の名は伊達じゃあねぇや」


「へぇ。勇者に興味は無いけどお前みたいな奴にそこまで言わせるってのは凄いな」



 ゴゴゴゴ、と地面が揺れる。直後に木々を薙ぎ倒しながら突進してくる巨大なブラックサーペント。その金色の目が爛々と輝いていて、興奮状態であることは言われずとも見て取れた。

 

 巨体に似合わない速度で突っ込んできたそれを私たちはそれぞれ飛んでかわし、シンディは風の刃で、ダーガンは斧を振り下ろして攻撃を仕掛けるがどちらも硬い鱗に弾かれてしまっている。傷一つ付いていない所を見ると、魔術にも物理攻撃にも高い耐性を備えているのかもしれない。



「なるほど。並の攻撃じゃ刃が立たないのか」


「並と言われるのは心外だがなぁ!」



 ダーガンは斧による攻撃を弾かれても体勢を崩すことなく再び仕掛けている。確かにその威力は凄まじく、鱗を割るには至らずともぶつかる瞬間に散る激しい火花はまるで火の魔術でも使っているかのように明るく派手で見応えがあった。

 

 なんだか闘技場で戦う姿が想像できるなと思いながらそんなダーガンの側に降り立つと、攻撃の手を止め下がった男が膝をついて目線を低くし私が話しやすくしてくれた。自然な気遣いに少し驚く。ガサツそうに見えて意外と気の利く奴である。



「さっきの嬢ちゃんがエルなら倒せると言っていたが、そりゃあ本当にお前のことなのか?」


「確かにエルとは私のことだ」


「そのちっこい体で戦えるとは思えねぇんだが」


「見た目で判断されるのはそれこそ心外だな」



 膝を付いてもまだ私よりも高い位置にある目を見上げれは、器用に片眉を上げて怪訝そうな顔でこちらを見下ろすダーガンと目が合った。

 

 先程三人同時にブラックサーペントの突進を避けた時の動きを見たのだから、私がただの子供ではないとわかっているだろうに。それでも尚そんな言葉が出てくるのは女子供は護られるべきという固定概念があるからか、はたまた別の理由からか。


 初対面の奴にどう思われようが知ったことでは無いのだが、私はふと笑い返すと腰の剣を抜き去った。ダーガンが仲間を信じ大丈夫と言い切るのと同じ。私も仲間の信頼には応えたいと思うから。



「私になら倒せるとシンディが言った。ならばそうするまでだ」



 剣に魔力を通す。途端に溢れ出した魔力が風のように吹き荒れる。その中心で佇む私に何を思ったのか、一瞬目を見開いたダーガンがニッと口元を吊り上げるのを見た。

 だから私は遠慮なく口を開く。お前の仲間が今ここにいないのであれば仕方がない。この場では私の指示を聞けと意味を込めて。



「ダーガン。この森には今複数の冒険者パーティが集まっている。そのほとんどがあんな化け物と渡り合える力は持っていない」



 通常の個体よりも遥かに強く巨大なブラックサーペント。明らかにこの森では異質すぎる。アロウやボウドはもちろん、あいつらの同行を拒否した冒険者パーティだってあんなものを相手にできるはずがない。既に依頼を切り上げて王都に帰還しているならそれでいいが、そうでないのなら巻き込まれる可能性が高いのだ。

 

 それだけでなく魔力感知で見える範囲に魔術師の反応が複数見える。その周囲にパーティメンバーだっているはずだ。



「だからお前はシンディと共にそいつらを避難させろ。あの化け物は私がどうにかするよ」


「っはは!お前、勇者に向いてるんじゃあないか?あいつにそっくりだ!」


「は?勇者に?……冗談じゃない」



 勇者の再来と言われている名も知らぬ少年剣士に恨みは無いが、一緒にされるのはごめんである。私は万人に慕われるような善人じゃない。見返り無しには動かない。今回だってそう。



「お前が転移に巻き込まれて無事にここに辿り着いた事実に興味がある。さっさと終わらせて落ち着いたら調査に付き合ってもらうぞ、ダーガン」



 言うが早いが足を強化してその場を飛び出した私は、木々を薙ぎ倒しながら進むブラックサーペントに追いつくと、その背中に飛び乗ってシロの魔力を纏った剣を思い切り突き立てた。

 サクリ、と簡単に突き刺さる感触にやはりシロの魔力は凄いなと思わず口元に笑みが浮かぶ。しかし私の剣では鱗に傷が付いた程度の小さなものなので気付かれてもいないらしい。


 ならばと一瞬魔力の出力を上げ、太い胴体を貫くほどの大剣を作り上げた。

 内側から斬りつけられ、地面に縫い付けられ、唸り声を上げながら更に激しく暴れ始めた巨大なブラックサーペントは長い体を振り回して次々と森を破壊していく。

 

 大剣を維持できるのは一瞬だけ。そのまま振り払われた私は翼を作って空からその様子を眺めていた。うねりながらも一塊になっていく姿はまるで小さな山のよう。


 

 こんなに大きな魔物と戦える機会は滅多にない。どうせならいろいろ試させてもらおうと、そんなことを思いながら私は幾つかの攻撃手段を頭の中で練り始めていた。



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