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放浪のエル  作者: ゆう
第四章
108/144

百五



 調査の前にアロウとボウドを他の冒険者たちの元へ送り届けてやるのが先か。そう思った私は食事を終えた後、すぐさま森の中を再び歩き出していた。

 

 魔力感知で冒険者を探せる私を先頭に、後ろを男二人組が落ち着かない様子で着いてきている。辺りを見渡しているのは魔物に怯えているからか。そんな状態でこれからどうやって冒険者を続けていくんだろう。本気で転職を考えた方がいい気がするのだが、私がそこまで面倒を見てやる義理はない。


 ちなみにルトとシンディは食事の後片付けの為に先程の場所に残っている。

 今までは大きな問題にはならなかったけれど、二人共この国では珍しい種族に民族なので、人目のある街中はともかくこんな森の中でわざわざ冒険者と会わなくてもいいだろうと判断した為でもある。必要があって出ていくのなら口出しはしないが今回は商売をするわけでもない。それに、これから会う冒険者が信用できる奴らとも限らないので。

 

 一旦逸れてしまうわけだがこの森の中ならば私の魔力感知が届く範囲だ。問題はないのである。



「それにしてもキミは迷いなく進むんだな。まるで冒険者の位置がわかっているみたいだ」


「一応これでも魔術師だ。そういう魔術があるんだよ」


「ふーん。そうだろうとは思っていたがやっぱりいいとこのお嬢様かよ。さっきの奴らはお目付役か何かかねぇ」


「ボウド。俺たちは助けてもらった側だろう。その言い方はないんじゃないか」



 魔術を使える人間がそのまま貴族という発想はこの国に住む者なら持っていても不思議じゃない。貴族に対して良い印象を持っていない者も少なくないことも知っている。だから私も特に気にすることはなく、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いたボウドを咎めるつもりもない。


 ただ、権力も実力も自分より上かもしれない相手に怯まず突っかかっていくその姿勢だけは評価しよう。損な性格をしているなと思うところもあるけれど。



「そろそろ見えるか」



 目視できそうな距離まで来たので魔力感知を止めると、立ち並ぶ木の向こうに一瞬見えた強い光。それから聞こえてくる魔物の呻き声。明らかに戦闘中だとわかる様子に、私は木の影に身を潜めてからそっと向こう側を覗き込んだ。



 そこにいたのは四人組の冒険者だ。

 前衛が二人。どちらも男。一人は盾役、もう一人は剣士である。その後ろには魔術師と思われる亜人の女が前衛二人の補助をしているようだ。そして最後の一人は近くの木の枝の上から弓を構え矢を放つ男。


 戦っているのはジャイアントグリズリーか。通常のグリズリーよりもランクが高く、そこそこ手練の冒険者でないと相手をするのは危険な魔物だ。

 私も何度か相手をしたことがある。肉は少し臭みがあるものの一度に大量に取れるので、干し肉を作って貯蓄しておくにはちょうど良い魔物だった。

 

 そんな魔物と戦っている四人組の冒険者は、経験も実力も有しているように見える。


 まず盾役が攻撃を受け、その隙に剣士が前へ。一撃では仕留められずとも弱い部分を的確に攻撃できているのは、魔物の情報がしっかり頭に入っているからこそ出来る芸当だ。

 剣士が離れればすかさず打ち込まれる矢。一つも外れること無く傷口や眼球に突き刺さったのを見れば、使い手の腕の良さが窺える。そして絶えず前衛を強化し続ける魔術師。離れた他人を強化するのはそれなりに技術がいるのだけど、難しさを感じさせない自然な魔術だ。

 

 全体的な印象は、連携がよく取れたお手本のような冒険者パーティといったところだった。


 やがて力尽きたジャイアントグリズリーが最後に呻き声を上げながらドスンと音を立てて地に伏したことで戦闘は終わりを告げたのだ。



 けれど、戦闘は終了かと思われたその後も四人組の警戒は緩まず、なぜかその全ての目がこちらへ向けられたことには少し驚いた。気付かれたか、と思わず息を潜めた私は、後ろから慌てて飛び出していった二人の存在を忘れかけていたのである。



「そ、そんな警戒すんなって!俺たちは魔物じゃねぇ!」


「同じ冒険者だ!ただ少し実力が及ばなくて、戻るまで同行させてもらいたいと頼みに来ただけで!」



 迂闊にも程がある……


 わかってはいたがつくづく冒険者としての自覚というか自尊心の無い奴らだ。私としては呆れてものも言えないところだが、正しく実力の足りていない彼らにとってはこれもまた必要なスキルなのだろうなとなんとなく思う。


 ともかく、他の冒険者のところまでという約束はこれで達成した。長い付き合いでもないし挨拶は不要だろう、と私は見つかる前にさっさとこの場から立ち去ることを選択した。

 

 しかし。聞こえてきた言葉に、踏み出しかけた足は止まることとなる。



「誰かと思えば冒険者の面汚し組じゃないか。身の程知らずがこんな場所に出向いて何をやっているんだか。せっかくだからその辺の魔物に食われてしまえばよかったのに」


「あは、言えてる!戦えもしないのに冒険者やろうってのがまず間違い。その上で実力不足な自分たちの尻拭いをあたしらにやらせようって?馬鹿じゃないの?」



 剣士の男と魔術師の女がそれぞれ笑いながら吐き出したその言葉は罵倒以外の何ものでもない。言っていること自体は間違っていないので聞くに留めたが、気分の良いものではないのは確かだった。


 というかあの二人、冒険者の面汚し組とか呼ばれているのか。言い得て妙……いや、うん。こればかりは援護のしようがない。



「そういうことだ。自分らのことは自分らでどうにかしろ。こちらも手一杯だ。お前らに構ってやれる時間など無い」



 最後にそう言ったのは盾役のガタイの良い男。その横で仏頂面の弓使いも頷いて、そうして四人組の冒険者パーティは今倒したばかりのジャイアントグリズリーの解体作業に入ってしまった。もうこちらへ意識を向ける者はいない。



 完全に拒絶され放置されたアロウとボウドにはかけてやる言葉も無く、その震える肩を見ながら私はどうするべきかと考える。


 冒険者の面汚し組、と。そんな呼び名まで付いているとなると、他の冒険者を探しても同じような事になるかもしれない。とはいえこのまま放り出してしまえば生きてこの森を出られるかもわからない二人だ。それはそれで寝覚めが悪い。


 実はとんでもなく面倒な奴らと関わってしまったんじゃないか。そう思わざるを得ず、深く深くため息を吐いた私は仕方なく覚悟を決めるのだった。



「……わかった。せめてこの森を抜けるまでは面倒見てやるよ」



 これ以上にないくらいに不本意だが。そんな空気を隠しもせず告げた私に、ゆっくりと振り返った二人はどばどばと流れる涙を拭いもせずに駆け寄ってくるから、その勢いにはつい引いてしまった。



「うぅっ、お前、良い奴だったんだな……っ」


「あ、ありがとう、ありがとうっ……」


「ああ!鬱陶しい!」



 この森を抜けるまでとは言ったが私はこれから調査が進むまではここに滞在する予定なので、近くにいるのはいいが邪魔しないでおいてくれると有り難い。


 戻るぞ、と言って来た道を引き返す私に付き従うような形で付いてきた二人との縁はまだもう少しだけ続きそうだった。






 


「おかえり……って、あれ?二人も一緒?」


「他の冒険者には会えなかったのですか?」



 ルトとシンディが待つ場所まで戻れば、当然のようにそんな疑問が投げかけられる。先程の経緯を簡単に説明すれば、二人も苦笑するしかなかったようだ。



「冒険者って思っていたより殺伐としているのですね……」


「援護するわけじゃないけど、ランクで階級分けされているし実力主義者が多いのは仕方がないのかなぁ」



 確かに。貴族が絶対のこの国で、冒険者のランクは平民の優劣を決める一つの指標になっている。アロウとボウドは問うまでも無く最低ランクのFだろう。対する先程の冒険者パーティは少なくともB以上。どちらが偉いかと言われたら間違いなく向こうだ。


 こればかりはもう仕方がない。私が口を出すことでもない。気を取り直して古代魔術の調査に入るとしよう。ああ、でもその前に。



「あの魔物たちを解体しに行くぞ。護ってはやるからお前たちにはその分しっかり働いてもらうからな」


「もちろんだ。なんでも……は無理だができる限りのことはするさ」


「解体なら任せろ。最速で終わらせてやるよ!」



 頼りになるのかならないのか。少し不安な二人の駆け出し冒険者を加えて、私たちは再び森の中を移動し始めるのだった。



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